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植田直通 言葉と振る舞いで若いチームのリーダーに

中田徹サッカーライター

■ 植田直通所属のセルクル、開幕5戦目で今季初勝利

 今季、セルクル・ブルージュは開幕から4連敗した。ここ3試合はすべて1−3というスコア―。先制点を奪っても追いつかれ、逆転され、引き離されることの連続だった。4節を終えて勝ち点ゼロの最下位だった。

 8月24日、セルクル・ブルージュはホームにワ―スラント・ベフェレンを迎えた。相手チームも4試合を戦って勝ち点1と、開幕スタートに失敗したチームだ。お互いにとって負けられない一戦となった。

 前半は見どころのないまま0−0で終わり、更衣室へ引き上げる選手たちにブーイングが飛んだ。後半に入ると、奮起したセルクル・ブルージュが積極果敢にハイプレッシングをかけるようになり、ボールを奪ってはショートカウンターを繰り出し、ボールを失ってもセカンドボールを拾ってまた攻めに転じるという展開が続いた。82分にはMFステフ・ペータースが値千金のゴールを決めて、セルクル・ブルージュが1−0で勝った。

■ リスクマネージメントの成果

 選手たちが、ゴール裏のサポーターに向かって歓喜を表しながら走っていった。しかし、CB植田直通とFWキリアン・アザールの2人だけは、落ち着いた足取りでバックスタンドへ行き、観客に丁寧に挨拶をしてからゴール裏にいるチームメートと合流した。

 植田とアザールはこの日のメンバー18人の中で、昨季からセルクル・ブルージュでプレーしている、たった2人の選手だった。1年前、ベルギーに来た頃の植田は30歳を優に越すCBベンジャミン・ランボやジェレミー・タラベルに引っ張られてプレーした。今、24歳の彼はCBイブ・ダビラ(22)、右SBジュリアン・ビアンコネ(19)、左SBジュリアン・セラーノ(21)といった若手をディフェンスリーダーとして牽引しなければならない。植田にその自覚はある。

「もう、自分がやっていかないと駄目ですよね」。そう彼は言った。

 観客席まで声は届かないが、植田が身振り手振りでDF陣のみならず、MFや前線の選手たちに指示を出している姿がよく伝わってきた。ハーフタイムに、植田はチームメートに対して、「こうやりたい」というのを指示し、それが「後半、うまくハマった」のだという。

「こっちの選手はリスクマネージメントの部分で劣ると思う。そこを、僕はずっと言っている。今日もかなりセンターバックと話し合いながらやってました。(リスクマネージメントをした結果、セカンドボールを拾うことが出来)後半は自分たちが2次攻撃をしかけ、相手が体力的に落ちていって、押し込むことが出来たと思う。だから、もっと喋っていかないといけない」

■ ゲームをやるために植田が決めたルールとは

 ブルージュはオランダ語を話す地域だ。だが、フランス1部リーグのモナコと深い関わりを持つセルクル・ブルージュの共通語はフランス語である。

「サッカーに関しては(フランス語で意思の疎通ができる)。監督からはぜんぶフランス語で言われてます。このチームにいる限り、それはやらないといけないことです」

――きっと、だいぶ勉強したんでしょうね? 

「そうですね。毎日、やってます」

――毎日やることがすごいです

「僕はゲームが大好きなので、フランス語の勉強をしないとゲームが出来ないと、ちゃんと決めました」

 私は植田の話を聞きながら<きっと、最低でもコツコツ、1日10分はやっているのだろう。語学はそれが大事だからな>と勝手に考えていた。だが、植田の口からは「最低1時間です」という言葉が出てきた。

「スカイプで先生から教わってます。スカイプが出来ない日もありますから、そんな日は復習をしたり、本を使って単語を覚えたりなんなり、ちょっとしたことですけどやってます。(川島)永嗣さんに比べたらまだまだですけど」

■ 植田 「僕が堂々としていれば、それが周りにも伝わる」

 若い選手に対して、植田はいつも「落ち着け」と声をかけているのだという。日本代表やJリーグで多くの経験を積んでいる植田は言葉だけでなく、振る舞いでも彼らにいい影響を与えようとしている。

「やっぱり経験の浅い選手が多いから追いつかれて、そこであたふたして逆転。それでもう1点加えられてゲームオーバーという形が3試合も続いていた。そこで動じない心(が必要)。やっぱり、それは経験かもしれません。僕が堂々としてれば、それが周りにも伝わるかなと思います」

 コパ・アメリカで久しぶりに植田のプレーを見て、成長に気づいた人も多かっただろう。植田にとってもコパ・アメリカは大きな財産になったようだ。

「オフを返上してコパ・アメリカに行った甲斐がありました。あそこで南米の選手たちとガチでやれて、そのままの勢いでセルクル・ブルージュに帰ってこれた。代表でやってるサッカーは、かなりテクニックを必要とする。僕もそれをかなり身につけることが出来たと思います。僕がこのチームでも、それをやっていけばプラスになると思います。代表に久々に行って、代表に行きたいなという思いがまた強くなりました」

 かつて人材不足を指摘された日本代表のCB陣だが、今、着実に選手層が増している。今季開幕から5試合連続で先発している植田も、その一人である。

サッカーライター

1966年生まれ。サッカー好きが高じて、駐在先のオランダでサッカーライターに転じる。一ヶ月、3000km以上の距離を車で駆け抜け取材し、サッカー・スポーツ媒体に寄稿している。

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