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伊東純也のスーパーゴールは幻に

中田徹サッカーライター

■ 縦へのスピード、横への幻惑――「幻のゴール」で魅せた2つのドリブル

 伊東純也(ヘンク)の“幻のゴール”は、いつまでも記憶に残りそうなビッグプレーだった。4月27日の対ヘント戦、40分。ハーフウェーラインやや自陣寄りで、強引に相手ボールを奪った伊東は長駆ドリブルでペナルティーエリアの中まで侵入。相手CBと対峙すると、今度はスピードを緩めてドリブルの向きを横に変えて抜き去り、さらにGKも交わして無人のゴールにシュートを決めたのだ。

 一旦はレフェリーがゴールを認めたものの、残念ながらVARの判定によって取り消されてしまった。

「(なんでゴールが取り消されてしまったか)分からないです。自分としては普通にここ(と言って肩を叩く)で当たった。ビデオでそう判定されたんで、しょうがないと思います」(試合後の伊東)

 映像で見直すと、ファールを取られても仕方のないチャージだった。それでもボールホルダーに対するアプローチのスピード、デュエルの強度、しっかり相手ボールを奪ってマイボールにするスキル、長い距離を単独で突破するドリブル、ペナルティーエリア内での落ち着き払ったフェイントとシュート……と伊東の長所が随所に発揮された“幻のゴール”だった。

 試合は1−0でヘンクが勝った。伊東はアディショナルタイム1分に「イトー! イトー!」というサポーターが大合唱する中、ペイントシルと交代した。

■ 「終われる側は難しいけれど、メンタルはコントロールできている」

 この日の伊東は、“幻のゴール”シーンを除いて5本のシュートを放った。うち4本は後半に撃っている。終盤になればなるほど驚異になる伊東のスピードは、疲労の色濃い対戦チームにとって嫌だろう。自身のスタミナに「90分、常にやってきたので、そこは最後まで走り切れる力が付いていると思います」と伊東も手応えを感じている。

 ヘントを下した結果、首位ヘンクの勝ち点は47になった。2位クラブ・ブルージュとの差は、この原稿を書いている時点で9ある。仮に、28日のアンデルレヒト戦でクラブ・ブルージュが勝っても、残り4試合で勝ち点6差はヘントにとって大きなアドバンテージだ。

 だが、伊東は「まだ勝ち点6差。一回負けるとひっくり返される可能性がある差です:と気を引き締め「一戦一戦ファイナルだと思ってやっている」と言う。5月12日にクラブ・ブルージュとの直接対決があることも念頭にあるのだろう。

優勝への期待がかかる中、ヘンクにかかるプレッシャーも大きいだろう。しかし、伊東は「やっぱり追われる側は難しいと思いますが、うまくメンタルをコントロールできていると思います」とチームが平常心で過ごせていることを強調していた。

サッカーライター

1966年生まれ。サッカー好きが高じて、駐在先のオランダでサッカーライターに転じる。一ヶ月、3000km以上の距離を車で駆け抜け取材し、サッカー・スポーツ媒体に寄稿している。

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