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ベビーシッター、犯罪歴照会の制度検討に厚労相が言及/キッズライン事件受け 規制改革会議は研修民営化へ

中野円佳東京大学特任助教
加藤勝信厚生労働大臣(写真:つのだよしお/アフロ)

キッズライン事件を受け、質疑

マッチング型のベビーシッター事業者「キッズライン」で登録シッターが相次いで2人、預かり中の子どもへのわいせつ容疑で逮捕された事件について、2日、加藤勝信厚生労働大臣は犯罪歴を確認できるようにする法整備についてベビーシッターを届出制から免許や認可制にする必要性も含めて検討する趣旨の発言をした。

2020年7月2日の参議院厚生労働委員会で、田島麻衣子議員(立憲民主党)の「たとえば里親制度は犯罪歴が照会可能だが、シッターでも可能か」という質問に対し、以下のように回答した。

先般連続してですね、ベビーシッターが子どもにわいせつ的な行為をしているということが続いているわけでありまして、誠に遺憾でありますし、また、子どもさんを抱えている方、またそうしたものを活用されている皆さんにおいても不安が高まっているのだろうと思います。

私どももそれを踏まえてですね、特にこれマッチングサイトの中で起きていますから、運営者に対して、登録されているベビーシッターに対する注意喚起、あるいはベビーシッターを利用するときの留意点を配給させていただきまして、都道府県に対してマッチングサイトを利用する際の事前の情報収集の徹底などを利用者に促すこと、ベビーシッター利用者にも改めて留意点を周知することをしたところであります。

今の情報の話であります。例えば保育士資格を有する者についてはこれ児童福祉法で欠格事由が定められ禁固刑以上の刑に処せられた場合など欠格事由に該当する場合は保育士等資格を取り消すことになっております、欠格事由の有無の確認にあたって必要な場合には都道府県や市町村に対し犯罪歴に関する情報照会を行うことも可能です。また里親についてもほぼ類似のような照会があります。

ベビーシッターについてと言うことでありますが、そもそも犯罪情報と言うのは個人情報でありますから勝手に誰でも聞いたら答えているというわけではありません。法務省において管理されている、従って法務省における考え方は別途法務省に聞いていただいたほうがよろしいのでありましょうけれども、そうするためには保育士や里親のような1つの免許制度とか許可制度、認可制度等がベースになっていて、それの取り消しとか認可にあたって確認する必要性があるということがまず前提になるのだろうと思っているのであります。

ベビーシッターはご承知のように、単なる届出と言うことになっている、しかも事後での届出も可能と言うことになっていますので、今の議論というのはそういった制度そのものも含めてどう考えていくべきなのかということにもつながっていくのだろうと思っております。

私の方としても今申し上げたことも含めて関係者の皆さんの意見、また利用者の方の意見も聞きながら安心して使えることが子供の育てのサポートにつながるわけでありますから、そういった観点からしっかり対応させていただきたいと思います。

キッズラインの登録シッターの逮捕者は保育士資格があり、また登録時点で犯罪歴があったわけではないため、このような仕組みがあれば今回の事件が防げたわけではない。ただ、国としても事件が続いたことを重く受け止め、再犯率が高いとされる小児性愛で被害を増やさないための議論がでてきたと言えそうだ。

(海外の子育て領域における犯罪歴照会の仕組みは必ずしも免許制ではない。シッターの問題だけではないため、学童や塾、ボランティアなどあらゆる子育て関係の領域で犯罪歴照会を求める国もある:こちらの記事も参照されたい)。

厚労相発言と反対方向?の規制緩和案

一方で、同日、規制改革推進会議は答申を発表し、ベビーシッターについて下記のような文言を掲載した。

また保育の質の確保・向上のために、令和元年 10 月より認可外の居宅訪問型保育事業者(いわゆるベビーシッター)に関して保育士または看護師の資格を有しない保育従事者は一定の研修の受講が必須となった。更に一層の質の確保・向上を図りつつ、研修機会拡大の観点から民間事業者が実施する研修について都道府県知事が研修を認める場合の一定の要件を検討し、明らかにするとともに、オンライン研修も可能とすべく併せて検討を進めるべきである。

・認可外の居宅訪問型保育事業の研修において、保育の質の確保・向上のために、有意な研修を行う民間事業者が実施する研修について都道府県知事が認める研修要件に係る検討を行うとともに必要な措置を講ずる

・認可外の居宅訪問型保育事業の研修について、オンライン研修を可能とすべく検討し、必要な措置を講ずる

現状、「認可外保育施設指導監督基準」でベビーシッター業ができる人材は、 保育士、看護師に加え、認定ベビーシッター資格保有者に加え、「都道府県知事が行う研修修了者 (都道府県知事がこれと同等以上の者と認める市町村長その他の機関が行う研修修了者を含む。)」である。

つまり資格保有者以外にもシッターになる道が開かれているのだが、それは「都道府県知事が行う研修修了者」に限られる。しかし、この答申では、自治体による研修の開催頻度が少ないため、民間がおこなう研修で、場合によってはオンラインでも認めるという方向性で検討するということが言及されているのだ。

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3月9日にキッズライン社長が要望

これは、2020年3月9日にキッズライン経沢香保子社長が、規制改革推進会議の雇用・人づくりワーキンググループに説明者(ゲスト)として出席して要望したものだ。2019年11月に既に事件は起こっており、キッズラインも11月中旬に警察から被害報告を受けた旨を2020年5月3日付けで認めている。しかし規制改革推進会議に呼ばれた時点で当該シッターはキッズラインでの保育中の事件についてはまだ逮捕されておらず、事務局や委員は事件について知らなかった可能性が高い。経沢社長は次のように述べている。

弊社の場合は、利用者の方全ての身分証を確認して、シッターさんには研修及びOJTをして、口コミで全部レビューが見れるというサービスで、評価を見ながら安心して預けられるということで、利用者が急増しており、累計で100万件以上のご依頼をいただいております。

現在、研修機会が非常に少なくて、実際に開催されているのが月1回程度なので、そうすると、なり手がなりたいと言っても供給がなかなか可及的に行われないので、1個目の要望としては、民間の私たちのようなきちんと研修をしているところを監査いただきつつ、そういった研修機会を民間に拡大していただけないかというお願いです。

その後、4月下旬にキッズライン登録シッターの1人目の逮捕が明らかになり、その後も2人目による被害が起こり6月に逮捕された。また経沢社長が説明していた評価システム等についても、オンライン研修後のレビューで実際に実施していない内容が書かれていたことを6月30日に著者がBusiness Insiderの記事で指摘。それに対しキッズラインは7月1日、「実際に会ったことのないお子様への対応が、あたかも実際に接したかのように表現されておりました」「上記に関しましては、利用者の皆様に実態とは異なるレビューを提供していた」と認め、改善策を発表したばかりだ。

規制改革推進会議は、会議での説明者の発言自体が信頼できるものだったのか疑問が残る中での答申とりまとめとなり、また、結果的にキッズライン事件への認知度が高まり、実態が明らかになっていく過程で対応を目指す厚労省サイドといわば逆の方向を向いた方針が同日に出てきてしまった印象を受ける。

ただ、シッターになる人材の研修機会の拡大自体は業界で望まれている動きではあり、「更に一層の質の確保・向上を図りつつ」と言った文言も多用された。「要件」や「必要な措置」について、今後どのように研修を認める事業者を選定し、その後も適正に行われているかの審査をするか等は厚労省マターとなると考えられる。

厚労省にはきちんと手綱を握り直し、規制改革の動きにおいても、加藤大臣の言及したような犯罪歴照会も念頭に入れた検討をしていただきたい。

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東京大学特任助教

東京大学男女共同参画室特任助教。2007年東京大学教育学部卒、日本経済新聞社。14年、立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、15年4月よりフリージャーナリスト。厚労省「働き方の未来2035懇談会」、経産省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員。著書に『「育休世代」のジレンマ~女性活用はなぜ失敗するのか?』『上司の「いじり」が許せない』『なぜ共働きも専業もしんどいのか~主婦がいないと回らない構造』。キッズラインを巡る報道でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞。シンガポール5年滞在後帰国。

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