新型肺炎で経済・生活への影響は?シンガポール政府は5000億円の対策を発表

(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルス、生活の補償は?

新型肺炎の影響で、各種イベントがキャンセルされはじめ、日本でも風邪症状で仕事や学校を休むようにと厚生労働相や安倍総理が発信しています。観光客の減少や中国工場の休止などで経済的な影響はすでに出始めていますが、生活者や働き手にとっても生活が補償されるかどうかが今後気になるところです。

シンガポールの公共住宅(著者撮影)
シンガポールの公共住宅(著者撮影)

先週からシンガポールの感染対策、そして、「咳や鼻水があれば5日休む」ように促した医療施策について記事を書いてきました。まず、自宅での強制隔離などを厳格に進めるシンガポールで、感染の可能性がある場合に労働者が働けない期間の所得補償がされるのかどうか見てみます。

シンガポールは新型肺炎の感染が疑われる人について、現在以下の隔離政策を取っています。該当した労働者は有給の病欠扱いになります。それを補助するため、政府が雇用者または個人事業主に1日100シンガポールドル(約8千円)を支援することを発表しています。

<シンガポールの新型肺炎隔離策>

Quarantine Order(QO):14日以内に湖北省滞在歴がある人、感染者との濃厚接触者など。自宅または政府の施設で、外出禁止。

Stay-home Notice(SHN):2月17日に追加。中国から戻ってきたシンガポール市民、長期滞在者は、14日間自宅から外出禁止。家族との同居は可。

Leave of Absence(LOA):(2月17日まで14日以内に中国本土渡航歴がある人に対して取っていた隔離策)。生活必需品などの買い物など短時間で済ませるのは可。

また、タクシー運転手や配車サービス運転手の感染が確認された直後には、乗車率が下がったことから運転手1人あたり1日最大20Sドル(約1600円)を3か月支給するなど同業界を支援する施策を発表していました。

5000億円を新型肺炎&景気対策に

こういった迅速な対応に加え、2月18日、シンガポール政府は2020年度予算(1060億Sドル、約8兆円)のうち、64億Sドル(約5000億円)を新型肺炎対策(8億Sドル、約640億円)と景気への影響を和らげる経済対策(56億Sドル、約4400億円)に充てると発表しました。

雇用者が新型肺炎によってビジネスが減退した際に労働者をいたずらに解雇をしないよう、雇用を継続するためのインセンティブ(ローカル労働者の月収の8%を3か月間雇用主に支給、上限あり)や、経済活性化のため所得に応じて100~300Sドルを21歳以上の全国民、100ドルを20歳以下の子どものいる保護者に支給することなどを含む「Care and Support Package」(16億Sドル)を打ち出しました。

物品・サービス税(GST)の引き上げ計画の見送り(2021~25年の間に現状の7%から9%に引き上げる計画について、21年は実施せず)、観光など新型コロナウイルスで打撃を受ける業界の税優遇など、その他の景気対策も同時に発表し、感染による経済の減速をできる限り抑えたい考えです。

シンガポールは労働者に優しい国か?

シンガポールはこんなに労働者のことを考えている!と見えるかもしれませんが、ここで同国の成り立ちと社会保障について簡単に解説をしておきます。シンガポールは1965年にマレーシアから独立を余儀なくされ、天然資源もなく孤立無援ともいえる状態から国づくりをしてきた小国です。頼りになるのは「人材」以外になく、徹底した人的資本投資による経済発展を国の目標として掲げてきました。

シンガポールは経済発展を目標にしてきた(著者撮影)
シンガポールは経済発展を目標にしてきた(著者撮影)

こうした経緯もあり、シンガポールは決して社会保障の手厚い国ではありません。むしろ福祉国家について「自助努力を阻害する」と忌み嫌ってきた(たとえば1995年にリー・クアン・ユー首相は欧州諸国の失敗に学び福祉国家路線を取らないことを表明)経緯があります。失業保険の仕組みはなく、再教育などの費用を補助するワークフェアのアプローチを取っています。

つまり、人的資本として国民のことは大事にするけれど、働くことを前提としており、自助努力は求める。経済発展のために、解雇のしやすさなどをとっても企業側の裁量が大きく、特定の業種を除いて最低賃金は設定されていません。労働組合はありますが政権との距離も近く、総じて労働者の権利は弱い国なのです。

生活を支え、経済を支える

それでも、有給休暇と病気休暇はすべての労働者に認められています。前回記事で書いた「上気道感染症で5日休むべし」というのも医師の診断書があれば有給です。そして、今回の予算。普段は手厚いとはいえない社会保障ですが、ここぞという危機の時には雇用をできるだけ守りながら、生活補償をして乗り切りたい考えです。

もちろん「こんな金額では足りない」と言う声もあるでしょうし、「Care and Support Package」についてはバラマキ的な側面もあります。昨年の経済成長率は0.7%と2009年以来の低成長で、新型肺炎が流行しなくても景気減速懸念はあったという見方もあり、収支バランスが崩れる懸念もあります。

しかし、財務相は今回、「国の将来」「長期的」な目線でこの危機を乗り越えることを強調しました。小国で、与党の力が非常に強く、政策が割と強硬的だけれど浸透しやすい。そのようなシンガポールだからできることだという反面、依って立つところのない小国だからこそ、経済的な痛手を抑えていかなくてはいけない。

もちろん全てを日本が真似できる、あるいは真似すべきとは思いません。でも、今回のような局面では、立場的に休みを取りづらいと考える人や個人事業主が「休んだら生活できない」となれば、「休まない」という選択肢になり、健康を害する上に感染も拡大してしまう

企業の病気休暇などを使えない働き手に休んでもらう、あるいはこうした危機のときに一番弱い立場の人たちが打撃を受けにくくするため、具体的な方策を考えるという意味では日本も学ぶところがあるのではないでしょうか。

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