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小島慶子さん「帰国子女は自然と英語ができるようになる」は幻想 海外子育て、バイリンガル教育の悩み

中野円佳東京大学特任助教
(左から)中野円佳、小島慶子さん、司会を務めた小安美和さん

夫が会社を辞めたことを機にオーストラリアに移住し、一家の大黒柱として日本との行き来をして「出稼ぎ」する小島慶子さん。2017年から駐在妻としてシンガポールに住むことになり、リモートで仕事をするジャーナリストの中野円佳が対談。海外で子育てをすることについて語りました。

※2018年夏に実施、海外×キャリア×ママサロンで配信したトークイベントを再編集したもので、BLOGOSからの転載です。(から続く)

オーストラリアのジェンダー意識

中野:シンガポールや香港は、住み込みのメイドさんを雇えることがメリットで、それもあって欧米やオーストラリアやニュージーランドからシンガポールに住みたいという方も多い。オーストラリアは家事育児の分担は、日本に比べてどうですか?

小島:日本よりは男性が家事育児をやっていますけれど、ただ、オージー文化はマッチョな文化なので、男は男らしく、女は男をサポートしてという空気はあるみたい。バーベキューでは肉を焼くのは男の仕事、という謎の習慣もあるし。「狩りの獲物を分けるのは昔から男の仕事だから」とか言われてるらしいんだけど、あんた牛を倒したのか?スーパーで買ってきた肉でしょうが。意味不明ですよ。

あと今、DVが問題になっているんです。DVを減らすためにも「男の子は永遠に男の子だから、やんちゃだから仕方ないと言うのはやめましょう」、女の子をこづいていたりしたら、「子どもだから…ではなくて、やってはダメよと小さいうちから言いましょう」と。女の子に「女の子なんだから大人しく」「女の子は出しゃばると嫌われるわよ」なんて言うと、DVをされた時に声をあげられない人になるので、これもやめましょう…ということを国ぐるみでやっています。家事分担という点では、日本よりはるかに男性は家事をやっていますけれど、文化面ではまだ課題があるな、と思いますね。

中野:課題はあると言っても、その政府の教育は素晴らしいですね。

小島:そうですね、教育省のサイトにも載っていますからね。

中野:シンガポールは人種や宗教による差別が法律で禁じられていて、セクハラも厳罰に対処されるので、基本的には日本よりはいい状況だとは思います。ただシンガポールの歴史を調べていたら、1979年から、シンガポール国立大学は医学部の女性を3割におさえていたとか、公務員が女性の場合、配偶者が得られるメリットが男性公務員の配偶者の場合とすごく差がある、とか過去のものの中には男尊女卑的な仕組みもあるんです。それが、ごく最近、2000年代にはいってから徐々に解除されてきている。今でこそ女性にも外で働いてもらって共働きじゃないと成り立たないというムードですが、根底に流れる、「男性を立てないと」というアジアの価値観はもしかしたら未だに結構あるのかなとは感じます。

小島:シンガポールは性的少数者に対しては非常に差別的だと聞いて、驚きました。そういう課題もありますよね。

マイノリティとして学校に通うこと

中野:私は高校生のときに1年間アメリカに留学していたのですが、その1年間めっちゃつらかったんですよ。完全にマイノリティで、最初はその学校で私が日本人として1人目、白人黒人が3~4割くらいずつで、あと米国生まれではない移民一世世代としてのヒスパニック、ベトナム人とか中国人……と、当初かなり雑多なカリフォルニアの高校に行っていました。

高校生って結構あからさまな「区別」をするので、学校のカフェテリアとか行くと、ここはベトナム人のテーブル、ここは中国人のテーブルみたいな感じで、わかれているんですよね。いわゆるネイティブの英語スピーカーである白人の子とか黒人の子に話しかけると「はぁ?あんた誰」みたいなかんじで無視されるし、中国人の子は1人「セーラームーンが好き」みたいな子が私に興味を持ってくれたんですけど、その子と一緒に中国人テーブルに行くと中国語しかしゃべってないみたいな感じで。

私もそのとき英語を学びたかったので、中国人テーブルに行って中国語覚えちゃえ!くらいの覚悟があればよかったんですけど、そうもなれず、かなり模索した数ヶ月があったんです。なので、海外で暮らしてみたいという気持ちはずっとあったんですけど、そのときの経験がずっとトラウマで、次行くときは一人で行くのは嫌だと思ってたんですよ。

小島:海外帰国子女=外国好きな人と思われがちですよね。私の友人にも英語圏で育った人たちがいるんですけど、中に二人、外国人嫌いの人がいるんです。二人とも幼少期に海外で苛烈ないじめにあったそうで、それがトラウマになっていると。そのうち一人は英語を生かしてアメリカで長く働いていたんですが、しんどいからと日本に戻ってきました。曰く、アメリカでは英語ができるのは当たり前で、むしろアジア人であることがハンディキャップになるけど、日本にいれば英語ができるだけで優遇されるし、日本人の強みも活かせるから、日本にいた方がずっと得をするというのです。確かにそうですね。もう一人は、やはり幼少期のイジメの体験が強烈だったため、夫の仕事で長い期間アメリカに駐在していたにも関わらず、子どもはずっと日本人学校に通わせていました。帰国子女幻想みたいなものがあるけど、みんなそれぞれに苦労しています。アジア圏の日本人学校育ちの私もステレオタイプな帰国子女幻想でだいぶ迷惑しているし。なんで英語できないのとか、やっぱり帰国子女は自己主張が強いとか。それ帰国子女と関係なく、性格ですから。

中野:シンガポールの場合は、基本的に中華系を中心にアジア人が多いので、日本人はマジョリティではないものの、欧米圏に行くよりは過ごしやすい環境だと思います。

シンガポールの図書館には英語、中国語など複数言語の絵本が置いてある
シンガポールの図書館には英語、中国語など複数言語の絵本が置いてある

ノンネイティブだけの環境で自信を高める

小島:息子たちの場合は、小3と小6からオーストラリアの公立校。最初の1年は、非英語スピーカーのための専用プログラム(インテンシブ・イングリッシュ・センター:IEC)のある小学校に通いました。現地校の通常クラスとの併用ではなく、世界35カ国から集まった子どもたち、つまり移民や難民や留学生や国際結婚カップルの子どもなどいろいろな理由でオーストラリアに来た英語を母国語としない子どもたちだけで集中的に「英語で学ぶ」ためのスキルを習得するコースだったんです。息子たちはそこでオーストラリア生活をスタートしたので、英語にコンプレックスを持たずに済んだ。いろんな子がいて、みんな英語が不自由で、でも自分たちは歓迎されていると信じて新生活を始めることができたんですよね。とても幸運でした。

中野:それは私も痛感しています。うちの子はシンガポール引っ越し時点で1歳半と5歳。2人とも最初ローカルの幼稚園に入れて、いきなり英語環境だったんですよね。日本人もチラホラいたのでなじむのは早かったんですけど、先生の言うことがよくわからないという状況がしばらく続いていました。

それが、上の子を2018年の1月からインターに入れたのですが、ESLのあるインターでノンネイティブの子たちばかりのところに入ったのです。人によっては、ネイティブのきれいな英語でないところでノンネイティブ同士で話しているといつまでも英語が身につかないと懸念をされる方もいて、私も日本人の子も多いからどうかなと思っていたのですが、みんなネイティブじゃないから別に変な英語しゃべっててもいいんだとか、間違ってもいいっていう感じがすごくあって、自己肯定感がすごく上がったように思います。

小島:「オーストラリアに移住するくらいだから、昔からさぞ英語教育には力を入れてたんでしょ」と言われるんですが、移住するつもりなんて夫が仕事を辞めるまで全くなかったですからね・・・。ただなんとなくしまじろうの英語から始めて、近所のプリスクールのサマーキャンプに行かせたりとか、あとはいろんな英会話学校を渡り歩きながら、週に1回の英会話を続けてました。行くことが決まってからの2ヶ月間だけ、日本人の先生に海外に引っ越す子どもたち向けのプログラムを作ってもらって、週に2回みてもらいました。彼らはオーストラリアの初日に、“May I go to the bathroom?”をおまじないのように言ってたんですよね。

中野:うちもとりあえず「Pee」(おしっこ)だけ覚えさせました。

小島:本当におもらししちゃう子が多いんだそうです。言えなくておもらししちゃって、それがトラウマになってなじめなくなっちゃう子がいると聞いたので、とにかくトイレに行くのだけは(きちんと言いなさい)って言って初日行ったわけですよ。午後3時に迎えに行って「どうだった?」って言ったら、「僕ら英語すごくできるんだよ」と自己肯定感がすごく高まっているんですよね。「なんで?」って言ったら、「ABCが全部言えるし、自分の名前をアルファベットで書けるもん!」と。ABCが読めないとか、あと戦争で学校に行けず、母語での読み書きも習う機会がなかった子どももいます。だから日本で英語を習っていた息子たちは、初日に「僕らは英語ができるんだ」っていう幸福な誤解をしたようなんです。

移住して6年目ですけど、息子たちに英語ができなくて辛かったことある?と聞くと「小さい頃から英語を喋る人を見慣れていたし、最初引っ越してきた時もみんなで一緒に英語を勉強したから、別に・・・」と拍子抜けするような答えで。もちろん彼らはすごく頑張ったのでそれなりに壁を乗り越えたんだと思いますけど、いわゆるトラウマになるような経験はしなかったらしいんですよね。まあ、これ身についてんのかな?と思いながらも日本で週1の英会話をさせていたのは無駄ではなかったし、何より、最初に多様なノンネイティブの仲間と出会うことは本当に重要だなあと。

海外生活中、子どもたちへの「日本語維持」は

中野:今後もご家族の拠点は基本はパースですか?

小島:そうですね。もともと二人が高校を卒業するまでは、いるつもりで来ていました。上の子はもうすぐ大学生になりますので、どうしたいかを聞きました。そしたら、西オーストラリアの大学に、自分が勉強したいことを専攻できる学部があると。下の子にも聞きましたら、やはりオーストラリアの大学で勉強したいということです。

中野:私の場合は、そこまで尊重してあげられるか分からないのですが、上の子は英語がとても好きになってきていて、その反面、日本語を読んだり書いたりすることがどんどん面倒臭くなってきているようです。シンガポールにがっつり移住をすると決めている方は、日本語に時間を割くよりはもう少し他のことをやらせたいということで、日本語をばっさり捨てている人もいます。そこまでの覚悟はまだ決まっていないです。

小島:日本語は課題ですね。英語圏でも、最低でも2ヶ国語ができないと生き残れないと言われているし、いかに日本語を忘れず、かつ向上させるかは今我が家の大きな課題です・・・。次男は気をぬくとルー大柴さんみたいになりますから。「今日、スクールのアセンブリーでティーチャーがね」とか(笑)

中野:うちの子もそうですよ。スウィッチングと言って、2言語を理解したうえで応用できているからいいんだという説もありますけど…。

小島:はい日本語で言い直して!と言ってるんですけどね・・・次男の日本語のショートメールがタチの悪いグーグル翻訳のような感じで、理由を聞いたら、音声入力にしたと。頭の中の英語を日本語に直して喋っているので無加工で文字にするとこうなるんだな、と妙に感心しましたが、やっぱりこれ日本語としてはマズイでしょ、と。そこはとても悩みどころです。バイリンガルの強みを活かさない手はないですから。

中野:でも、今すでに私たちの世代だって仕事で漢字を手書きで書くことなんてほとんどなくて、キーボードでタイプするか音声入力になっていますよね。それなのに、息子のカタカナの書き順などをイライラ言う私は、無駄なことをしていないかなと思ってしまいます。

小島:分かります。うちも日本語補習校に行っていて、毎週漢字テストがあるんですけど、もう書き順は諦めました(笑)とにかく書ければいいです。

(4につづく)

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東京大学特任助教

東京大学男女共同参画室特任助教。2007年東京大学教育学部卒、日本経済新聞社。14年、立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、15年4月よりフリージャーナリスト。厚労省「働き方の未来2035懇談会」、経産省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員。著書に『「育休世代」のジレンマ~女性活用はなぜ失敗するのか?』『上司の「いじり」が許せない』『なぜ共働きも専業もしんどいのか~主婦がいないと回らない構造』。キッズラインを巡る報道でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞。シンガポール5年滞在後帰国。

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