「会社に雇われない」働き方の課題は  経産省が研究会設置 「小遣い稼ぎ」前提から転換必要

世耕大臣のもと経済産業省は「雇用関係によらない働き方」に関する研究会を設置(写真:ロイター/アフロ)

個人が1つの会社に滅私奉公し、企業が労働者とその家族を終身雇用と家族手当で守る――。こうした日本型雇用の限界とともに、「雇用されない」働き方が広がっている。会社に縛られない生き方として選択肢が広がる半面、こうした働き方に対してはセーフティネットが非常に手薄である。

現状では個人が労働法や契約に関する教育を受けられる機会も少なく、改善していく必要がある。政府の働き方改革の一環で、経済産業省は「雇用関係によらない働き方」に関する研究会を設置した。私自身、同研究会の委員を仰せつかることになり、今後の議論で問題提起をしていきたい。

日本型雇用から漏れ出す人たち

様々な働き方のあり方が広がっている。仕事を発注したい企業と仕事受けたい個人をインターネット上で結び付ける「クラウドソーシング」が登場したことなどから、個人がフリーランスや副業という形で業務委託などの仕事を受けやすくなっている。日本のフリーランス人口は副業としてやっているケースなども含めて1000万人と推定され、アメリカでは5500万人にものぼるという。

特に育児や介護を抱えるなどの事情を抱える人にとって働く場所や時間を選べるこうした働き方は、有力な選択肢となる。従来の日本型雇用における長時間労働体質ももちろん変えていく必要があるが、変わらない企業からは流出する人たちが出てきている。その位置づけは「小遣い稼ぎ」から、キャリアを積む上での土台や世帯を支える収入、いずれは他の人を雇用するような起業の芽にもなりつつある。

一方、企業にとっても、真のダイバーシティを推進し成長していくうえでは、外部人材をどう活用できるか、あるいは内部人材の経験をいかに多様化させられるかが問われている。副業や兼業、業務委託による発注など様々な働き方が今後ますます増えていきそうだ。

「働く人=会社に雇われている人」を前提とした法制度

ところが、従来の労働政策がカバーしているのは基本的に「雇用されている人」である。しかもつい最近まで、基本的には正社員が前提とされていた。

たとえば失業保険が1950年代に作られてきた経緯を見ると非正規については「例へば家庭の婦女子、アルバイト学生等であって」「家計補助的又は学資の一部を賄うにすぎないもの」は「労働者と認めがたく、又失業者となるおそれがな」い、といった記述が見られる(※)。

2010年改正でようやく非正規については条件つきで適用が拡大されたが、過去「男性は正社員雇用の枠組みで守るが、女子どもは男性の大黒柱に守ってもらえばいい」という前提で制度が作られてきたわけだ。配偶者控除の議論もしかりだが、もうそのような時代ではなくなってきている。

雇用保険はもちろん対象外

働き手が受けられるセーフティネットについて整理すると、労災保険は自営業でも本人が保険料を支払えば任意で加入することができる。一方、雇用保険は「雇用」されている人が対象であるため、フリーランスは当然対象外となる。このため、育児休業などは、もちろん「勝手に休む」ことはできるが雇用保険の枠組みで支給されている育児休業給付金を受け取ることはできないということになる。また、失業保険も対象にならない。

失業は「労働の意思と能力」があることを条件とし、本質的にモラルハザードの可能性をはらむため、失業保険の給付の条件に教育訓練を入れるなど政策的には工夫が必要になる。確かに、フリーランスの場合はこれに加えて「仕事がこなくなった」という状態が認定されにくく、一定期間続き収入が途絶えてもそれを保険でカバーするということは難しい。

ただ、個人の側の事情ではなく、たとえば待機児童問題で保育園に入れないために働けない期間があることなどは十分想定される。その間の収入を補てんする仕組みは何らかの形で考えられてもいいのではないだろうか。

最低賃金、労使交渉などの考え方は…

フリーランスの働き手たちは価格競争からも守られにくい面がある。いわゆる「内職」を想定した家内労働法では、製造加工に対して最低工賃が定められている。しかし、インターネットでやりとりする想定はされておらず、物品の納入を物理的に行わないIT労働者はこれには含まれていない。フロッピーディスクの納入なら物品にあたるという笑い話があるがネットでのやり取りではこの法律が適用されない。

雇用はされていなくとも、特定の企業から業務委託の形で一定の指揮命令を継続して受けているケースはある。しかし、団体交渉などをする枠組みはない。クラウドソーシングのプラットフォームを運営する企業が自主的に最低価格を設けている場合はあるものの、国の制度的セーフティネットは存在しない。企業側の発注の仕方、労働時間の管理など様々な課題が残る。

「メンバーシップ型」から「パートナーシップ型」へ

厚生労働省「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために懇談会」 の報告書では、20年後の働き方について次のように記載している。

「2035 年の企業は、極端にいえば、ミッションや目的が明確なプロジェクトの 塊となり、多くの人は、プロジェクト期間内はその企業に所属するが、プロジ ェクトが終了するとともに、別の企業に所属するという形で、人が事業内容の 変化に合わせて、柔軟に企業の内外を移動する形になっていく。その結果、企 業組織の内と外との垣根は曖昧になり、企業組織が人を抱え込む「正社員」のようなスタイルは変化を迫られる」

「また、働き方の選択が自由になることで、働く時間をすべて一つのプロジェ クトに使う必要はなくなる。複数のプロジェクトに時間を割り振るということ も当然出てくる。もちろん、一つの会社、一つのプロジェクトに従事する場合 もあるだろうが、複数の会社の複数のプロジェクトに同時に従事するというケースも多く出てくるだろう。 その結果、個人事業主と従業員との境がますます曖昧になっていく。組織に所属することの意味が今とは変わり、複数の組織に多層的に所属することも出てくる」

出典:厚生労働省「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために懇談会」報告書

最近は日本型雇用の「メンバーシップ型」か欧米の「ジョブ型」かという議論から、より企業と個人が対等に関係する「パートナーシップ型」というキーワードもでてきているようだ。

働き方改革を推進する中、労働政策の範疇も、現実の多様化に合わせて想定を変更していく必要がある。前向きな社会の転換への議論をしながら、企業が働き手を搾取して疲弊したり機会の格差で勝負がついたりする世界にしないため、個人が価値を生かすことができ、共に成長できる枠組みを考えていきたい。

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※濱口桂一郎氏の著作・ご発言などを参考にさせていただいています。