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発達障害グレー・ひきこもり・非行…若者の自尊心を高める就労支援

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:イメージマート)

障害者の就労や短時間勤務、仕事と子育ての両立、コロナ禍のワンオペ育児、がんや難病患者、介護、グレーゾーンやひきこもりなどの多様な生きづらさの取材をする中、障害者手帳を持たない人たちのためのダイバーシティ就労という考え方を知った。3月に開かれたダイバーシティ就労の討論会を取材し、その利点と課題について、モデル事業を進める3つの自治体の担当者による提言を整理し、3回にわたって紹介する。1回目はダイバーシティ就労のメリット、デメリットを紹介した。今回は討論を通して、障害者や困難のある人が働くとはどういうことか、掘り下げて考える。

1回目はこちら

3月に開かれた「就労支援制度の態様横断化を目指すWORK! DIVERSITYの利点と欠点」登壇者(敬称略)

・座長 岩田克彦(ダイバーシティ就労支援機構代表理事)

・パネラー 池田徹(生活クラブ風の村特別常任顧問)

後藤千絵(サステイナブルサポート代表理事)

竹村利道(日本財団シニアオフィサー)

津富 宏(静岡県立大学国際関係学部教授、前青少年就労支援ネットワーク静岡理事長)

●抱え込みにならないように

 多様な困難のある人たちと、ユニバーサル就労を既に進めてきた千葉の池田氏は、掘り下げて考えていることがある。

「我々も、最初は障害者の事業所の利用者になることへの抵抗感が強いだろうと想定して、どうすればいいかねと。実際はほとんど抵抗がないということで、その点ではモデル事業として順調に進んでいると思うんですけども、順調に進めば進むほど、障害像ってどうなるんだろうって考えるんです。

 医療モデルで障害という認定がされて、障害者の事業所を利用できる形なんですけども、この障害が社会モデル的になって、障害者以外の働きづらさを抱えている人も障害者の事業所を利用できるようになる。現状でもA型、B型、移行支援の事業所が、障害者の抱え込みになっていて先に進まない。社会モデルで働きづらさの規定が広がり、この方たちがまた、福祉の世界で抱え込まれていく恐れがある、それが福祉の現状なんですよね。私どももB型の事業をやっていますから自戒を込めて、その事業のあり方全体を革新していく取り組みがないと。

 実は竹村さんには、もっと企業改革をして、企業で就労体験などを受け入れてほしいと申し上げたんですが。私は、企業が働きづらさを抱えた人に見学会や就労体験をしていくモデル事業を進めたほうが、抱え込みにならないのではと思っている。社会的な企業、ソーシャルファームっていわれていて、東京都では条例化もされていますけども、そういうところを積極的に作るのも必要ではないか」

 竹村氏も障害者の事業所を運営する立場から、同様の思いはあると言う。

「池田さんの指摘は、従前から気付いていたところで、障害者の就労支援は、全国で2万事業所ありますが、うまくいっていないところはあります。現状は都道府県、指定都市、中核市に申請書を出して、サービス管理責任者がいて、職業指導員がいれば認定される仕組み。5年か6年に1回、指定取り消しの機会があるだけ。基本、不正がないと更新されていくんです。

 でも私はこの事業をやる上で、就労移行が、企業や、よりよい中間的就労に移行させられない事業所は、最初から入れるべきではないと思うし、5年か6年に1回の認定の再交付の時に、一般就労させていないところは、外していいんじゃないか。囲い込み、エンクロージャーになってしまう危惧はある」

働くことで自尊心が高まる。サステイナブル・サポート提供
働くことで自尊心が高まる。サステイナブル・サポート提供

●働くことで自尊感情を高める

 座長の岩田氏は「障害者就労の国際的な流れは、十数年前にできた国連障害者権利条約で、その後の各国に対する審査があり、いわゆるシェルタードワークショップ、保護作業施設…日本の場合、A型とかB型を、基本的には廃止していくべきだという感じで、できるだけ一般就労もしくはソーシャルファームに移行すべきという流れがあり、こういうことも配慮して、ダイバーシティプロジェクトも考えていかなければ」と説明する。

 津富氏は「うちの青少年就労支援ネットワーク静岡は、基本的にはボランティア団体。だから、地域の力で支援すると。大半の方は働いたことがありますし、また仕事する場が地域にあるので、これは地域の問題だと。つまり、就労移行が主体になった時に、先ほど福祉が囲い込んでいる、エンクロージャーしてしまっている話があったけれど、そういう意味で一般市民がこの就労支援にどうやって参与していくかということ、そもそもこれは誰の問題なんだというところで、福祉が持っている一種の閉鎖性が地域を排除するんじゃないか」と語り、さらに少年院を出た子たちの自尊感情について問題提起する。

「私はもともと少年院の職員。少年院を出た子どもたちが、働けないと再犯してしまう。20年前は、生活困窮の就労支援もなければ、若者サポートステーションもない時代ですから、仕事を求めるにはハローワークに行くか、あるいは障害者の認定を取って障害者雇用に行くか二択になっていた。少年院に来てるかなりの子たちが発達障害があるんじゃないかと、当時も分かりつつあった。ただ、少年院で接していると、この子たちを障害者としてお任せすることは、子どもたちのポテンシャルを減らしてしまうと考えていたんです。つまり、普通に働けるんじゃないかと。

 静岡に来て、非行の子に限らず就労支援を始めた時に思ったのは、もちろん障害者の認定に当てはまる子もいるわけですけども、接した多くの方々がリアルな職場で働けて初めて自尊心を持ち、生活が充実してくることを知った。就労移行を使うと、本人たちの自尊感情をどこまで高められるか、懸念している。ダイバーシティ化していく中で、もともと福祉が持っている発想や枠組みをいかに緩めていけるのか。いろんなB型があり、例えば、刑余者を見てた方でB型を作ってる方もいる。それぞれの餅は餅屋的なところを生かしながらやれたらなと思う」

●選択肢を作ることの重要性

 ダイバーシティ就労の枠組みで、就労移行の事業所での訓練があまり必要ないのではとの指摘もあるという。静岡で若者の就労支援にも取り組む津富氏は、こういう。

「対象の多くは、人間関係が難しい方々で、事業所で人間関係をいったん築いて、一般の職場にもう1回適応しようとすると、非常に難しくなる。できるだけ早くリアルな職場で、可能であれば雇用がありうる職場で就労体験から入ってくことを大事にしています。できるだけ早く一般企業に、ただしフルタイム就労とかではなくて、ご本人のできる範囲、したい範囲の就労を実現していくというやり方が、私たちの経験ですけれども、うまくいくなって感じている」

 岩田氏は津富氏の意見を、①専門的な技能が非常に必要で、通常の障害者就労移行事業所等では対応できないものが多いのでは②現行の訓練モデルがそんなに必要なのか③就職活動してまず仕事をやってみることも大事なのではないか、と課題をまとめた。

 竹村氏は、選択肢を作ることの重要性を説く。「地域によって選択するメニューが異なると思う。千葉の場合、ネットワークも含めて、ユニバーサル就労という土台があって、もしかしたらダイバーシティの仕組みはいらないかもしれない。

 霞が関にしても永田町にしても、誰も真似できないものをメニュー化しても、全国1741の自治体はそんなスペシャルなことはできないよ、となる。できるだけ標準的な飲める水を作るのがインフラじゃないか。福岡と岐阜のモデル事業は、選択肢として、標準的なサービスの中でもやれる可能性がある。就労準備支援事業(働くのが難しい人を支援する事業)か、ワークダイバーシティのモデル事業的なものか、選択肢を作っていく。うちはこれとこれを組み合わせるよという、地方自治という範疇で考えていいんじゃないかなと。

 津富先生のいらっしゃる静岡、やっぱり選択肢を作ることは重要じゃないか。引きこもりの就労支援センターを作る、刑余者の就労支援センターを作る…もうリソースが足りないです。すでに全国に張りめぐらされてるリソース、障害者の2万事業所があるならば、それを横断的に活用できると思っています。

 障害者自立支援法ができた時に私の界隈で、身体障害者福祉施設で知的障害者は見られませんって言ってました。3障害っていう概念ができた時に、3障害(身体障害、知的障害、精神障害)を見られないと言っていた知的障害者の支援施設が今、精神障害者も見てます。私はリソースが1.1倍、1.2倍になることによって、新たにリソースを作らなくても、対応することができると期待したい。選択肢を作ることが重要ではないかということです」

「WORK!DIVERSITYプロジェクト」は、日本財団が取り組む、だれもが働ける社会を目指す仕組み作り。2018年、日本財団の調査により、引きこもり、ニート、刑余者、若年認知症、難病、依存症など、働きづらさのある人たちがのべ1500万人におよぶことがわかった。適切な支援があれば働けるが、現行の制度では公助のシステムがほとんどない。

一方で、労働力不足は加速し、2038年には50兆円を越えようとする社会保障費は、財政赤字をさらに膨張させようとしている。労働人口も減少し、2025年頃には国全体で600万人が不足するとの試算がある。日本財団は、働きづらさのある人たちを新しいシステムにおいて支援し、就業を促進、労働市場において活躍し、さらにタックスペイヤーとなることで社会保障や財政改革にも好影響をもたらすと考える。

この課題解決のため、既存のシステムを活用し、個々のQOLを高めて社会に新たな労働力を輩出しようとするプロジェクトがWORK!DIVERSITY(ダイバーシティ就労)だ。既存の障害者の就労移行支援事業および就労継続支援A型事業を活用する構想。現行でこれらのサービスは障害者以外は利用できないが、その就労支援の内容は、働きづらさを抱える多様な人に活用できると考えられる。

就労支援のモデル実証実験を3自治体と協働して行っている。研究とモデル実践を通し、具体的な支援方法を確立、その新システムにおいて障害者以外にも多様な就労希望者を支援し、社会に送り出すことを目指す。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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