Yahoo!ニュース

剛力彩芽、ボイメン水野勝、松下由樹…「お終活」のススメ・人生を楽しく生き抜くには

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(c)2021「お終活」製作委員会

大原真一(橋爪功)と千賀子(高畑淳子)は、結婚50年を迎える熟年夫婦。定年退職した真一は、妻の千賀子と夫婦喧嘩ばかり。夫にイラつきながらも、千賀子は家事をこなし、趣味の健康コーラスや友人とのおしゃべりでストレスを発散している。真一は麻雀仲間と妻の愚痴を言い合う。

同居する娘の亜矢(剛力彩芽)は、自分が営むキッチンカーの客で、葬儀社に転職したばかりの菅野(水野勝)と出会う。菅野から終活フェアに誘われた亜矢は母親の千賀子に勧める。そこで一級葬祭ディレクターでもある桃井(松下由樹)から最新の終活情報を得た千賀子は、今後のことを考えようとするがー。

●家族や友達のありがたさ

 「お終活 熟春!人生、百年時代の過ごし方」は、それぞれの立場で共感できる映画だ。家庭の危機は、「熟年離婚」だけではない。現在は、コロナの影響でステイホームとなり、家事・育児の負担の差に険悪な空気が流れ、口論が絶えず、コロナ離婚だとか、息が詰まって郊外の広い家に引っ越したとか、若い世代もストレスフルな状況にある。

 この作品では、高畑さんと橋爪さんの夫婦げんかがリアルだ。文句ばっかり言うなら、夫が自分で家事をすればいいのに。悪態をつかれても、掃除して食事を出してあげる妻は、なんてできた人なんだ。趣味のコーラスや、友達とのおしゃべりで発散し、夫の悪口で盛り上がるのもよくわかる。主婦業を請け負う多くの人が、この妻の味方になるだろう。

 夫は夫で、妻の悪口で麻雀仲間と盛り上がる。その有り余るエネルギーを生産的なことに使えばいいと思うけれど…。なんにせよ、家族や仲間がいるのは、素晴らしいことだ。

(c)2021「お終活」製作委員会
(c)2021「お終活」製作委員会

●もしもの時のシミュレーション

 筆者は20代のころ、ホスピスケアや在宅医療の現場を取材していた。若かった自分は、「死を考えることは、毎日を大事に生きること」と学び、そのように心掛けてきた。その後、高年齢で出産し、365日、子供の命を預かる生活になった。さらにコロナ禍になり、度重なる緊急事態宣言に神経をすり減らし、親子の生活を維持する中で、生と死の意味が、よりリアルに迫ってくる。

 志村けんさんや、岡江久美子さんが亡くなって、お骨で帰宅したという。昨年、その報道を知り、市販のエンディングノートを購入した。口座の情報や、人間関係、伝えたいことなどを記入しておくノートだ。

 この作品には、こうした書き置きも含め、実際に役立つ情報が盛り込まれている。亡くなったら、家族はどうすればいいか。どんな手続きがいるか。日ごろから、どんな準備をしておくか。私たちもシミュレーションすることができる。

●知っておいたほうがいいこと

 5月に、東京都内で開かれた記者会見を取材した。一級葬祭ディレクターを演じた松下由樹さんは、葬儀社の仕事やお終活について語った。

 「葬儀社というと、縁起が悪いとか思ってしまうのも本音のところである。実際の方たちはどうやって働いているのか、撮影した葬儀社でセミナーを見せていただくと、実は死の準備というより、今生きている生活の中に取り入れて行かなきゃいけないんじゃないか。前もって知っておいたほうがいいことをたくさん知ることができました」

 「役を通して、生活の中で知っておいて損はない、いざという時のために準備しておいたほうがいい、それが家族の絆にもつながっていくと教えていただきました」

 「気持ちの整理というのを、まだしていないと気がつきました。映画をきっかけに、お互いの気持ちを話してみるきっかけになれば」

●人間、家族の成長物語

 数々のベテラン俳優が出演し、ユーモアあり、リアルな描写ありで、中高年が楽しむエンタメとしてぴったりな作品だが、若い世代にも支持されているという。

 名古屋発のエンターテインメント集団BOYS AND MENのリーダー・水野勝さんは、マジメな葬儀社の青年・菅野を演じる。社会人としての挑戦や、気になっていた父との関係など、若くても解決しなければならないことがある役柄だ。

 水野さんは、確執ある父とのリスタートを演じ、「家族だからこそ、そんなに簡単にリスタートできない。簡単に許すとか次に進むとか、できないと思う。でも家族だから向き合っていける。この映画は全体がコメディになっているんですが、人間、家族の成長の物語にもなっています」と語った。

(c)2021「お終活」製作委員会
(c)2021「お終活」製作委員会

●好きなのに表現できない両親

 剛力彩芽さんは、働きながら、両親や菅野とかかわっていく娘を、自然体で演じている。

 「終活って、まだまだ先の話じゃないかと思っていました。この作品が、家族や大切な人と話す、コミュニケーションをとる、明るい未来の話をするきっかけになるのではないかと思います」

 「コロナ禍で、家族と一緒にいる時間が増えて、喧嘩や不満もありますが、作品を通して、大切な人を大切にしたいと思ったり、心があったかくなったら」

 親子の関係も、この映画のテーマだ。

 「娘がお母さんの味方をしてしまうのは、共感する部分が多い。いくつになっても、娘は娘なんだな。親に甘えたいし、たぶん両親もそばにいたいんだなと改めて感じました」

 「作品の両親は、お互いすごく文句を言っているけど、本当はお互いに好きなのに、うまく表現できていないんじゃないかな」

5月に開かれた会見で なかのかおり撮影
5月に開かれた会見で なかのかおり撮影

●疲れた心をうるおす芸術の力

 迫力ある夫婦げんかを繰り広げる一方、趣味や友達付き合いも楽しむ朗らかな妻を演じた高畑淳子さんは、作品中に流れる、葬儀社が作った家族のメモリアル映像を見て、涙が止まらなかったという。

 実際に、二人の子の母である高畑さん。個別インタビューで、「お母さんが死んだら見るノート」を33歳の時から更新してきたと明かした。それを聞き、筆者も購入して書いていないエンディングノートを書こうと、心動かされた。

 会見の最後に高畑さんは、真剣な表情で訴えた。

 「不要不急、と言われ、私たちエンタメ界が最初に排除されました。公演もつぶれました。映画も同様のことがあります。

 今、疲れ切っているのは、何よりもすさんでいるのは心だと思います。それを、うるおす役割が私たちにはあって、その力が芸術にはあると、私は信じております。ぜひ劇場に来て、心を癒していただきたいと思っております」

 作品は5月21日に公開された。だが、緊急事態宣言の影響を受けた東京都などでは、映画館が開業できず、6月1日から本格的に上映が始まった。

●人生が終わるまで楽しく過ごす

 香月秀之監督はこう語る。「誰かが死ぬことがテーマなのではなく、自分が死んだ時に解決しなきゃいけないことをどうするんだということ、もう一つは、自分たちが終わるまでどういう風に過ごすかということがテーマ。人生が終わるまで楽しく過ごす、熟春という言葉を作りました」

 人生のしまい方を考えるというよりは、人生100年時代、終盤まで明るく生きようというメッセージが込められている。

 コロナ禍に、身の置きどころがわからない、人の役に立ちたいがどうしていいかわからない、居場所が必要だというシニアの声を聞いた。

 社会貢献したい。仕事や趣味を続けたい。仲間や家族を大事にしたい…。自分の気持ちを整理し、やりたいことを実現しながら、身近な関係を大切に生きる。コロナ禍にどんなことが起こるかわからないから、毎日を大事にして、解決すべきことは解決して。そんな生きるパワーを、あらゆる世代に与えてくれる作品だ。

公式サイト

出演:水野勝 剛力彩芽 松下由樹 / 藤吉久美子 大島さと子 増子倭文江

袴田吉彦 佐々木みゆ 小林綾子 螢雪次朗 大和田伸也 石丸謙二郎 金田明夫

西村まさ彦 石橋蓮司 / 高畑淳子 橋爪功

脚本・監督:香月秀之

主題歌:財津和夫「切手のないおくりもの」

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

なかのかおりの最近の記事