親の不安に寄り添う家庭訪問ボランティア「虐待・産後うつから救いたい」

人との交流もしにくいコロナ禍。親子も孤立しがちだ(写真:アフロ)

未就学の子どもがいる家庭に、研修を受けた地域の子育て経験者が訪問し、話を聴いたり、簡単な家事・育児を一緒にしたりするー。そんな英国発のボランティア・ホームスタートが、日本でも10年以上、活動している。孤立しがちな母親に寄り添い、虐待や産後うつから救うことにもつながり、「届ける支援」として注目され、全国で100を超える地域に広がっている。

●コロナ禍に不安やストレス

 昨年、最初の緊急事態宣言が発令された時は活動を休止したが、その後はずっとホームスタートの訪問活動は続いている。現状をNPO法人ホームスタート・ジャパン事務局に聞いた。

「ママもパパも鬱気味だったり、コロナが生活全般に影響して家庭に不安感やストレスが溜まっているのを感じます。子育てひろばも感染予防の観点で制限があり、利用しづらくなっています。子どもも他の大人と接する機会が少なくなり、親も他の人がどんな風に子育てしているか、知る機会も減っています。

 産後に実家の手助けが得られない方のSOSも多くなりました。今まで以上に、産後うつになりやすい状況になっていると感じます。コロナで収入が減った家庭に訪問した時には、生活支援につなぎました。利用が無料であることで、最初の窓口として機能しました」

●母親の支援は子どものため

 ホームスタート・ジャパンによると、イギリスで1970年代、三児の母・マーガレットさんが家庭を訪問するようになったのが始まり。クリニックや親子サロンで集まるうち、赤ちゃんがいたり、体調が悪かったり、出かけにくい母親から「自宅に来て」と言われ、「ありのままの自分を提供」した。

 当事者であり、資格を持つプロではない「素人」であり、権威側にいないボランティアの支援ということが好評だった。「大変な時もあるよね」とただ寄り添う。負担を抱えがちな母親の支援が目的ですが、最終的には子どものためだ。

「親自身がオーケーであると思えないと、我が子に心を向けられない。子どもが親元で安心して暮らすためには、親の気持ちを受け止め、一緒にいるよという人が必要」というのがマーガレットさんの考えだった。

 1年ほどして、他の人にもできるのではないかと組織にし、ホームスタート活動を始めた。マーガレットさんの地元・レスターで8年ほど活動して全国に広げた。1980年代にはカナダ・オランダ・オーストラリア・アフリカ地域・スリランカ・ノルウェーなど海外にも広がった。「どこに住んでいても、小さな子がいる家庭にはニーズがある。親が安定すれば、子育てはうまくいく」というのは、世界共通だった。

●無償ボランティアは成立するか

 そして日本でも、児童福祉の専門家が、この活動を知り、子育て支援の関係者に声をかけて勉強会をするように。

「行政が設ける子育て広場には来られない母親もいて、どこにも気持ちを持っていけない」という支援者。「お母さんが大変そうでも、お迎えの立ち話では話しきれない」と感じる保育士。児童養護施設のスタッフは「虐待の恐れがあって親子が離ればなれになる前に、地域の中で応援できることがある」と感じていた。試しに2007~2008年の間、ホームスタート同様の活動をしてみた。

 懸念されたのは、①無償ボランティアで成立するか②家庭訪問が日本で受け入れられるか、ということ。関東の都市部と、九州で試行し、利用者とボランティアの双方にインタビューした。ボランティアに聞くと、「お金をもらったら、変な感じ。お茶を飲んで話しただけで、特別なことは何もしていません」「会うたびに、お母さんの表情が柔らかくなって、子どもも慣れてくる。楽しい時間だった、ありがとうと言われて嬉しい」「無償は自然なことで、やりがいや楽しさが得られる」との話だった。

 利用者には、「初めましての人が、自宅に来るのは緊張しないか」と聞くと、「合わない人だったらどうしようと思ったけれど、合わなければ言えるから安心」「受け止めてもらえて、話をすることで、もやもやがスッキリした」と好評だった。

●傾聴と協働が目的

 日本でも2009年に正式に始まった。子どもに関わる団体に呼びかけると、NPOや社会福祉法人など13団体から手が上がった。仕組みはこうだ。地域ごとに、子どもや福祉にかかわる人たちが「オーガナイザー」というリーダーになる。研修を受けた子育て経験者のボランティア「ホームビジター」が、乳幼児がいる家庭を訪問。話に耳を傾け、ちょっとした家事や洗濯たたみ、ご飯作り、通院や買い物、子どもの世話などを一緒にする。「傾聴」と「協働」が目的で、シッターや家事ヘルパーとは違う。

 ホームビジターになるための研修は、地域で年に1度ほど開かれ、のべ8日間・37時間で参加費は無料。講師はオーガナイザーや地域の専門職で、子育て経験がある人は誰でも参加できる。活動の目的を理解し、自分の価値観を押し付けないように心がけてもらう。それぞれの地域に「運営委員会」もあり、専門職が相談役のように助言する。

 利用者が申し込むと、まずオーガナイザーが訪問し、どんなニーズがあるか明らかにする。「預かりなら、ファミリーサポートや行政の一時預かりもある」といった情報を伝え、「どんなことがホームビジターと一緒にできたらいいか」ということを、母親が自分で考えられるようにサポートする。

 うまくいけば、週1回2時間ほどの訪問を続ける。オーガナイザーもフォローし、「〇〇できてよかった」「自分にも子どもにも、いい時間だった」「イライラする時間が減った」といった前向きな言葉が出たら、訪問を終えても大丈夫かを確かめ、1か月半ほどで終了する。

●切れ目ない支援で産後うつ防止

 利用者のニーズは様々だ。子育て広場や保育園の下見に一緒に行くこともあれば、「引っ越してきて知り合いがいない」「部屋が片付かなくてイライラする」という母親に寄り添うことも。子どもの発達相談の窓口に、付き添う場合もある。親類や家族には頼れない人は、多いそうだ。

 妊産婦の死亡原因で一番多いのは自殺だと2018年、初の全国的な調査で明らかになり、虐待のニュースも後を絶たない。産後うつの人には、ホームスタート活動を通して、相談先の情報提供もできるし、信頼関係が生まれれば、母親本人が「相談に行ってみようかな」と前向きに思えるようになる。

●父親の支援も増やしたい

 2016年には、およそ40地域で産前の訪問も始めた。産前産後と切れ目ない支援ができれば、虐待の予防にもつながる。産前からつながっていると、産後にすぐ利用できる。産後は体調が悪く、申し込みをするのも大変なので、スムーズに出産に寄り添える。

 最近は、高齢の祖父母には頼れない、40代の利用も増えた。外国籍や双子、障害のある子の家庭など、多様なケースに関わる。

 父親の利用もある。母親が入院している家庭やシングルファザー、働きながらまじめに育児をシェアしようとして、くたくたになってしまう父親を支援している。年配男性のホームビジターが、子どもとの外遊びで活躍することも。実際に支援しているのは母親が中心だが、ホームビジターが家庭に入ることで、父親の育児への理解が深まったり、父親のうつを防いだり、プラスになるため、利用の増加が期待される。

 コロナ禍の今、ホームスタート事務局は「子育ての閉塞感と社会の閉塞感が高まる中で、改めて、ホームスタートの意義を実感しています。より子育ての孤立を防ぐ、アウトリーチの支援は求められていると思います。感染予防対策もしっかり取りながら、ホームスタートのミッションを果たしたいと思います」という。