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三浦春馬さん急逝に揺れる人たちへ…自殺防止センター相談員のメッセージ

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
コロナ禍で気持ちが沈んでいる人も多いという(写真:アフロ)

俳優の三浦春馬さん(享年30)が7月18日に急逝し、衝撃を受けている人は少なくない。とりわけ、ファンや敏感な人たち、もともと問題を抱える人は、どれだけ揺れているだろう。認定NPO「国際ビフレンダーズ 東京自殺防止センター」のボランティア相談員をおよそ20年務め、夜間の電話で「死にたい」という人の声に耳を傾けてきた村明子さんに、向き合い方を聞いた。

○具体的な情報、自分と重ね…

私は三浦さんとかかわりはありませんが、同郷ということもあり、活躍ぶりは見ていました。最近も彼が本を出版したり、ミュージカルの歌や踊りを披露したり、様々なメディアに出ていたので、一報を聞いて激しく動揺しました。ニュースを見ていると、胸が苦しくなります。村さんはどのように感じていますか。

「SNSやネットで、彼の画像がさらされすぎている、という印象を受けます。以前は、大手メディアのニュースで出るものしかなかったと思います。それが今のネット社会では、誰でも見つけて、流すことができてしまう。

報道に関しても、なぜ亡くなったその日に、すぐ報道するのかという違和感がありました。さらに自殺という言葉や、先ほど…という具体的な言葉に、リアルタイムで行為を伝える恐ろしさが感じられ、彼のことをよく知らない人にも、ショックを与えます。

厚生労働省の自殺に関する報道のガイドラインも、守られていないと思いました。最初の報道の段階で、亡くなった場所や方法も出ていたと思います。たとえ著名人だとしても、最も公表されたくないことをトップニュースにするのはふさわしくありません。自宅の画像もあり、もしかしてここで?とか、想像してしまいます」

「そうしたことで、もともと悩みを持つ人たちが、自分と重ねる傾向があります。もちろん、一般の人には手が届かない芸能人ですが、今、社会には、新型コロナウイルスによる閉塞感があります。具体的な報道は、苦しい、死にたいと思っている人への影響が大きいと思います。亡くなった方法が公開されると、同じように考えていた人は、自分に寄せて受け止めてしまいます」

「センターの電話相談の中でも、ファンではないけれども自分と重ねてしまうという話があります。こうした情報が、きついと思う場合は、ニュースやSNSを見るのを休んだほうがいいよ、と言いたいです。スマホを見すぎないようにして、情報から離れてみましょう。何があったんだろうと追求していくと、マイナスの情報ばかり入ってきます。

先日、プロレスラーの若い女性が亡くなって、その記憶が新しいうちに、三浦さんの報道があり、さらなる衝撃を受けている人もいます。詮索するような報道は、亡くなった方の尊厳を傷つけるため控えてほしいです。気持ちがざわついているときに、煽る内容にしないよう、気をつけないといけないと思います」

〇死にたいという気持ち、受け止める

死にたいという人や、自死で亡くなった人がいると、なぜなんだろう、とか、生きていてほしかった、とか思ってしまいます。

「私たちが、死にたいという人の相談を受けるとき、その理由や原因をこちらから聞くことはありません。『なぜ死にたいの』という問いは必要でしょうか。

自殺防止センターは、電話してきた人の、死にたいという気持ちを受け止める、という考え方でやってきています。その人の、死にたいという気持ちを尊重して聞くことが大事です。死にたいと思う理由や原因は、自分自身で何とかできるようなことではありません。何とかしようとしても、難しいよね、どうにもならないよね、と寄り添う気持ちが大事だと思います。

身近な方が自死してしまった時、『なぜ、気づかなかったのか』と自分を責め、『何が原因だったんだろう』と答えの出ない問いに苦しみます。実際は実行するまでには、長い苦しみとたくさんの葛藤があります。周りに心配をかけたくないと、何も言わずに旅立つこともあるのです。その気持ちを尊重したいと思います」

〇相談先「お守りにして」

死にたいという気持ちがあったり、ニュースを見て落ち込んでしまう人には、どのように対応すればいいでしょうか。

「近年は、記事などに、相談先の一覧が掲載されている場合もあります。歴史のある団体の相談窓口だけでなく、若い人向けにラインやメールの相談をしているところもあります。

でも、そうしたところにアクセスするのって、ハードルが高くて勇気がいりますよね。こうした情報提供は、『今、相談してください』という意味合いよりも、こういうところがあるんだなと認識してもらう目的が大きいんです」

「私たちのセンターは、SNSの相談はしていなくて電話の相談だけですので、電話するのにすごく勇気がいる人も多いです。最近では、若い人が思い切ってかけてくれるケースがあります。そして、それはものすごく深刻な悩みなんです。

そういう人が、センターの電話番号をお守りにして、かけてきてくれた。もうどうにもできないって思った時に、選択肢の一つになれたのは、嬉しいことです。今すぐ連絡するわけではなくても、いざとなったらここがあるという、お守りにしてみてください」

「コロナ禍で、センターで定期的に開いてきた、人付き合いが苦手な人のための集まりや、自死遺族の会が開けなくなりました。相談窓口として、自死遺族を支援する団体を紹介しているのですが、メール相談を始めたところ、若い人も相談してくるようになったそうです」

〇コロナ禍で「孤立が深まった」

ボランティアの相談員は交代で夜間のシフトに入り、年中無休で20年以上、活動してきましたね。寄り添いたい、という皆さんのエネルギーには、いつも驚かされます。コロナ禍にはどうしていましたか?相談は深刻になったのでしょうか。

「コロナ禍で、4月から5月半ばまで相談を休み、その間は全国各地のきょうだいセンターを紹介しました。再開後は、週1回、週2回と相談日を戻していき、7月からは時間を短縮して毎日、電話をとっています。

相談員にアンケートをとると、どうしているか気になる人もいる、もどかしい、早く再開しようという声がありました。やはり、相談窓口は毎日開けたい、と思っています。

人数を減らしている関係で、今までの半数ぐらい、1日に15件ほど電話を受けています。相談員も福祉・医療の仕事に就く人は忙しく、リスクがあって来られない人もいます。

感染防止対策は、しっかりしています。守秘義務があって、事務所の窓が開けられないので、自殺防止の事業に国から出ている予算を申請し、換気もできるエアコンを急遽、取りつけました」

「コロナ禍によって失業がする人が多く、心配していました。ところが、そういう相談がメインというよりは、メンタルの不調を訴える人が増えたように思います。自治体の相談窓口も少なくなって話すところがない、どこにも吐き出せなくなった、一段と苦しくなった、孤立が深まった、逃げ場がなくなった、セーフティーネットが選べなくなった、ということです」

〇ほしい言葉は「そうだよね」

コロナ禍もあり、心が疲れている人たちへ、メッセージをお願いします。

「悩んでいる人の周りの人は、どうすればいいかというと…。苦しいって言っていいんだよと声をかけて、死にたいって言われたら『そうだよね』と受け止めることです。一番、言ってほしいけれど、一番、言ってもらえない言葉が、『そうだよね』なんです。

日頃の人間関係の中で、周囲の人が悩んでいると感じたら『どうした?』って言えることが大事。こうしたらいいという助言より、そうだよね、そう思ってたんだねという言葉だけでいいと思います」

「今はコロナの影響で、大学もオンライン授業になってしまい、ずっと部屋にこもっている人もいるそうですね。悩みが一番あるような年代でも、友達と会えなくなっていて心配です。大人も、ソーシャルディスタンスが必要で、ばったり会った知人と、何気ない雑談をすることすら難しくなっていて、声をかけられないかもしれません。

SNSやオンラインのコミュニケーション手段も、上手に使えば、こういう会えない時に、効果があると思うこともあります。私は個人的に、死にたいとつぶやく人や、辛い思いをSNS上で表現している人に『いいね』したり、コメントはしませんがひっそりと見守っています。

見ていると、ツイートも、中傷ばかりではありません。SNSとの付き合い方は難しいけれど、知り合い同士で今の気持ちを発信する、それを見守るという使い方もあるのではないかと思います」

相談窓口や、センターの詳細については東京自殺防止センターのサイトで。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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