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夜の世界で働くひとり親・困窮家庭の支援続く…「子どもの食」「心のつながり」を守るには

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
食の支援を通して、心のつながりを築いている(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

「夜の世界で働くシングルマザー」への食材提供やオンライン相談を続ける「ハピママメーカープロジェクト」は、新型コロナウイルスの影響を受けたキャバクラで働く当事者が始めた団体です。オンラインイベントが6月21日に開催され、シングルマザーや支援者が登壇しました。筆者も、休校3か月の間に子どもの食支援を取材して見えたことを、お話しました。その内容を紹介し、コロナと生きる今の「つながり作り」について考えます。

私は新聞社に20年勤め、主に福祉・医療・労働の取材をしてきました。小学生の子を持つ親でもあり、2月末に急な休校を言い渡されてから、自分の生活でジタバタとしながら、コロナ禍のコミュニティ活動を後押しする記事を20本以上、出してきました。

「子どもの食支援」という視点で記事を振り返ると、コロナショックには、節目が五つありました。

【1】2月末の休校ショック

一つ目は、2月末の休校ショックです。

当時、「子どものご飯、どうしよう」とスーパーに押し寄せた親たちもいて、麺類が品薄になっていました。

夏休みや春休みは、あらかじめ決まっているので、「学童保育に行くなら、お弁当がいるな」とか、計画しますし、旅行や帰省する人も多いです。

今回の休校は、突然で、しかも期間が見えない状況でした。親たちの焦りも大変なもので、私自身も不安が大きかったです。家族の仕事の都合でワンオペ育児状態ですから、子どもの生活と食事の責任を、1日も休まずに取らなきゃいけないドキドキが、その後の自粛生活でも、節目節目で襲ってきました。

ふだん、家事・育児を担っていない人は、こう言っていました。「今まで、夏休みや冬休みといった長い休みがあったのに、何が大変なの?」

当事者意識がないと、わからない人も多いのだということも、改めて実感しました。

保育園でも学校でも、バランスの良い給食を食べてきた家庭では、栄養も偏りますし、食費がかかるんです。

朝昼晩と、ご飯の事ばかり考えなければいけなくなりました。

○食のつながりは、心のつながり

食事を提供してくれる子ども食堂は、全国に広がっていますが、感染防止の観点から、3月に開けなくなったところが多かったです。

休校になって10日経ったころ、お弁当の配布に切り替えて、子どもたちとのつながりを保つため、動き出した団体を取材しました。

都心部のある子ども食堂は、企業の無料提供に申し込み、お弁当を手配して地域の子どもたちに渡しました。そこはタワーマンションが建ち並ぶエリアで、孤立しがちな家庭を支援しています。シングルマザーで、子どもと一緒に受け取りに来た女性もいましたし、友達ともらいに来た子は、笑顔で帰っていきました。

私は新聞記者時代に福島に赴任していたので、被災地とのかかわりもあります。震災後の福島で頑張ってきた子ども食堂が、「朝昼晩のご飯の支度に疲れた保護者を支援したい」と、お弁当配布を始めたのが、3月11日。たまたまだったそうですが、震災を思って今に感謝し、「会えないけれど、つながっているね」と呼びかけていました。

配布したお弁当の写真を見せてもらうと、そうしたスタッフの手書きメッセージが添えられていました。メッセージ写真だけで伝わるものがあり、記事に掲載させてもらいました。心のつながりを保つための活動だということですね。

誰でも、お腹が空いていると悲しい気持ちになるので、食べ物をいただくって嬉しいことです。食費がかかって、メニュー決めも大変な親にとっては、パントリーなどで食材をもらうと、家計も助かるし、気にかけてくれる人がいる、相談できる人がいるという安心感につながると思います。

飲食店を会場に、親子への食事提供を続ける団体にも、取材しました。会場では、顔見知りの人と会えて、ちょっとしたぐちもこぼせる。持ち帰りも可能にし、子どもは無料、親の分は有料です。地元の様々なつながりを活用して、継続していました。

【2】3月末の外出自粛要請

二つ目の節目は、外出自粛要請が出され、新学期が危うくなった3月末です。

感染拡大を受けて、お弁当配布会をやめ、食材配達に切り替える子ども食堂も出てきました。

飲食店のテイクアウト割引も増えました。今回は、企業や飲食店も、子育て家庭の支援に頑張っていました。おにぎりやお弁当を無料で届ける取り組みや、学童保育への提供も聞きました。でも、学童に入れていない、セーフティネットからはみ出てしまっている子たちのほうが、支援が必要ではないかと思いました。

デリバリーを勧める声もあったものの、意外と割高ですし、テイクアウトするにも、お店に並んだり注文したり、行動が必要です。

○スーパーの買い物増、入場制限も

3月は、スーパーやドラッグストアでの買い物が増えました。私も以前なら、余分な食材は買わないようにしていたのですが…。

休校になった時と、東京都の小池百合子知事が3月25日に外出自粛の要請をした後、買い占めが起きました。スーパーに行列ができて、入場制限もありました。26日夕方、出先でスーパーに行くと、日持ちする玉ねぎや卵、パン、牛乳が売り切れていて、物流は問題ないとわかっていても、店内の緊張した空気に圧倒されました。

近所の親どうし、「中立の心でいたいけれど、子どもに食べさせるものがなくなったら困るから、自分も買わざるを得ない」と話していました。

【3】4月初めの緊急事態宣言

三つ目の節目は、4月初めの緊急事態宣言です。

4月初めは、「分散登校」として、子どもの福祉を目的に、給食付きの登校日を予定した自治体もありました。それが、土壇場で取りやめになりました。衛生面で、たくさんの意見があったそうです。

 

ちょうど入学・新学期シーズン。入学式の会場が校庭になったり、急に延期になったり、混乱しました。私のところにも、保護者から投書が来ました。卒業式・入学式に関しては、人生の節目なのに振り回され、先生や保護者・子どもたちに負担があったのではないかと思います。

そして緊急事態宣言が出され、一気にピリピリ感が増しました。スーパーは少人数で来るようにと言われ、買い物も大変でした。自宅で子どもを留守番させて事件・事故も起きていました。スーパーに連れて行き、出入り口で待たせ、支払い時はソーシャルディスタンスも取らなきゃいけない。

○学校再開に揺れた現場

学校再開に関しても、それぞれに悩む声を取材しました。習い事や児童館などの居場所も休みになり、休校が長引くと、子どもの食事もおろそかに。運動不足でゲームに依存してしまい、問題が大きくなっていきました。

「感染のリスクよりも、そうしたリスクの方が大きいから、学校があったほうがいい」という考えの親もいれば、「集まると感染リスクが高いので、休校にしたほうがいい」という医療関係者の意見もありました。休みなしだった保育園の緊張感も限界を超え、保育園スタッフから、何らかの手当を求める投書がありました。

引き続き、食の問題も深刻で、食材の配送を始める団体もありました。平時からそうですが、子ども食堂に行くのを遠慮している親もいて、もったいないです。孤独な子育てをしている家庭は、実は多いです。

私も以前、親子でお世話になった子ども食堂があります。代表は、「借りる公共施設やPRの関係で、参加者が少なく、時間をかけて料理を用意しても余ってしまう」と話していました。誰でも頼っていい、むしろつながりを持っておけば、非常時に虐待やネグレクトを防げるのではないかと、コロナ禍で実感しました。

【4】緊急事態宣言の延長

四つ目の節目は、緊急事態宣言の延長です。

「連休明けには、休校や自粛が解除されるのでは」という期待もむなしく、5月中の休校が決まりました。感染者の多い地域と少ない地域とで対応は違いましたが、一部の子ども食堂や、お弁当の配布は粛々と続き、食材の配布・宅配も行われていました。

このあたりになると、あきらめて、不自由な生活に適応していたのでしょうか。実際は、親も子も限界でした。行くところもなく持て余しているので、公園の池に自転車で入ったり、 密になって遊んでいたり。

親の間では、「学校で、オンライン授業をしてほしい」という思いが高まりました。動き出した保護者もいて、「公立小学校で、オンライン朝の会を開く」というチャレンジを取材しました。これも、子どもの心のケアであり、コミュニケーションの一つです。朝の会があるだけで、学校と家庭、というつながりが持てて、笑顔が見られたそうです。

○つながっておく大切さ

産前産後のケアについても、取材しました。こちらもコロナの影響で、対面の相談や母親学級が中止になってしまい、赤ちゃん広場や公園も利用できず、孤立しているママが多いです。

産前につながっておくと、産後に会えない状況であっても、支援を続けられます。電話やオンライン相談も、もともと信頼関係があれば、成り立つと思います。

5月には、オンラインの仕事や、習い事がかなり増えましたね。こうしたズームのイベントや、コミュニケーションが簡単にできるようになり、子どもを支援する団体も、インターネット上で学習の場やイベントを開いて、関わりを作っていました。

次第に「ズーム疲れ」という言葉も聞くようになりました。オンラインは万能ではなく、伝わらない部分があるし、子どもの使用には大人がついている必要があります。環境整備に課題があり 、貸し出しや配布が望まれています。

それでも、災害や病気などで、集まれなくなれば、オンラインは有効です。リアルな関係とのセットで、つながりを保っていけたらいいですね。

【5】学校再開、ウィズコロナの生活

五つ目の節目は、6月からの学校再開、今のウィズコロナの生活です。

6月に分散登校と給食が始まり、少しずつ子どもたちの活発な生活が戻ってきました。マスクと熱中症、ソーシャルディスタンスの問題などわからないことだらけで、学校での感染や体調不良の話も聞きますが、「居場所がある」という点では、ひとまずよかったのではないかと思います。

子ども支援の場では、緊張は続いています。学童保育の支援員から、「長時間労働で、衛生対策に神経をとがらせ、子どもに注意するのも心苦しい。熱中症も怖い」との声が届きました。

また休校期間中、シッター利用に内閣府の助成が出て、依頼した家庭もあるのですが、子どもへのわいせつ行為で逮捕者が相次ぐという、辛い事件も起きています。

混乱する社会で、子どもが安心していられるコミュニティと、つながり作りが、いかに大事かということがわかります。

○当事者+地域の団体→広がる可能性

コロナ休校時3か月の取材を通して、子どもの食の支援は、単純にお腹が満たされるというだけでなく、心のつながりを作るきっかけになると痛感しました。

ハピママの取り組みの特徴は、「夜の世界で働く当事者が、地域のセーフティネットと連携している」ということだと思います。夜の世界のお仕事の場合、様々な批判も受けやすいです。

例えば医療関係者にも、私たちメディアや新聞社といった特殊な業界の人にも、言いにくい悩みがあり、当事者どうしは話しやすいのです。

また、上から目線でしてもらうだけでは、「お腹いっぱいになっても、心の部分は満たされない」ということもあります。かといって、当事者が何もないところから、活動を始めるのも難しい。助成や寄付のルートを既に持っていて、人間関係もできている団体と力を合わせるのは、確実なやり方だと思います。

ハピママが5月に食材配布を始める際、記事にしたところ(「夜の世界で働くシングルマザーに食材配布」収入ゼロ…当事者たちが支援スタート)、遠方の当事者の目に留まり、SNSを通して、その地域のサポート団体とつながったと聞きました。社会貢献としての、ポジティブ報道が生きたケースですね。

今後も様々な当事者と、地域のサポート団体との連携は、可能性が広がるでしょう。

今は、ご近所さんとの関係も築きにくい時代です。コロナへの不安から、イライラする人が増え、コミュニティ活動もしにくくなっています。そういう生活だからこそ、孤独を感じる子育て家庭のセーフティネットが必要だと思います。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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