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シッターわいせつ容疑で逮捕相次ぐ「キッズライン」・利用者が考える注意点

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
信頼できるシッターが見つかれば、孤独な子育ても心強い(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの影響で保育園や学童保育の利用自粛が進み、内閣府の助成が増えたことから、ベビーシッターを利用する家庭もある。読売新聞によると、シッターとして預かった女児にわいせつ行為をしたとして6月12日、東京都内の男性が逮捕された。容疑者は、同様の事件で4月に逮捕された男(強制性交罪などで起訴)と同じインターネット上のシッター仲介サービスに登録していた。筆者は、ワンオペ育児の期間が何度かあり、この仲介サービスを含め、いくつかの事業者のシッターを利用したことがある。その体験から、改めて注意点を考えた。

今回、被害にあった子どもたちや保護者の気持ちを考えると、いたたまれない。具体的なことが明らかになり、再発防止のために報道されることも大事だが、今は少しでも傷が癒えれば…と願うばかりだ。

この記事は、特定の事業者を批判したり、擁護したりするものではない。保育園や学童保育と同様、信頼関係を築いたシッターに依頼できなくなったら、「生活がたちゆかなくなる」「精神的にも孤立してしまう」という家庭もある。

シッターを利用する際、改めて注意したほうがいい点をお伝えすることで、何か役に立てばという思いで、体験を紹介する。

〇助成あり、産後すぐから利用

筆者は、産前産後に夫が単身赴任しており、高齢の祖父母含め、身内は近くにいない。子どもが乳幼児のうちは、勤め先や自治体の助成があったため、シッターを利用した。

産後数か月までは、赤ちゃんの世話や家事が得意な、ベテラン女性のシッターが多かった。この時の体験は、産後シッターとの付き合い方・家事、新生児ケアを依頼するということにて紹介した。

自分が在宅していることも多く、心配は少なかったものの、ほとんど毎回、違う人が来て説明が大変だった。プライバシーを探られたり、家事の価値観が違ったり、戸惑いもあったけれど、振り返ればいろいろお願いして、教えてもらうことも多く、本当に助かった。

その延長で、自分一人で24時間のお世話をしていた育休中、たまにシッターをお願いした。育児休暇から復帰して保育園に入っても、ときどき、お迎えと自宅での保育をお願いしていた。

〇派遣業者のメリット・デメリット

こうした事業者は「スタッフ派遣型」で、今回、事件が起きた仲介サービスとは形が違う。仲介サービスは、サイトを見て、依頼者とシッターの間でやり取りをする。

事業者を通すメリットは、保険に入れることと、トラブルが起きた時にシッターに直接ではなく、担当者に連絡すれば角が立たないということだった。実際に、シッターの不注意によるケガや、物品の破損もあった。個人との直接契約も試みたが、個人では保険に入れないことがわかり、断念した。

事業者がすべてを握るマイナス点もあった。事業者の手数料が差し引かれる仕組みで、支払う側にとっては割高だ。シッターの手に渡るギャラはわずかで、そこでズレが生まれる。

シッターと直接の連絡ができないケースも多く、手違いでシッターが来なかった時に、事業者が休みで連絡が取れなかったことも。担当者と合わなくて、子どもがなついていたシッターと泣く泣く別れることになったり、意見をすると社長に「もう派遣しません」と電話を切られて、連絡がつかなくなったりしたこともある。

〇病児保育でトラブル

乳幼児は、免疫をつけるために保育園で病気をもらってくるので、頻繁に病気をする。地域に病児保育室もあるが、自宅に来てくれる「病児保育シッター」を利用する人は少なくない。

筆者が利用したある団体の病児保育で、トラブルがあった。シッターが目を離した際、子どもが転んで顔にケガをした。その時の本部の対応が遅く、シッターに直接、聞き取ることもできない。1対1の自宅保育だったのだが、報告書を書くのに気を取られ、ぶつけた瞬間を見ていなかったという。

筆者は子どもに謝り、一緒に泣いて、翌日に救急外来に連れて行った。目に見えるケガだけでなく、頭をぶつけた可能性があり、経過観察が必要だった。診断書をもらって、退会の申し入れをし、役員たちと話し合いをした。

現場に近い担当者は、引き落とし停止やお知らせメール解除の手続きを進めてくれたが、代表からの謝罪はなかった。対応した役員は、警戒した態度で、書類を渡してきた。「具合は、いかがですか」の一言もなかった。

〇核家族化・高齢出産…手助けが必要

病児保育も含め、シッターについては、賛否両論がある。「そこまでして、預けて働くの?」と、筆者自身も思った。けれど、助成があったとはいえ、高い会費を払って、予約して、時間のかかる引継ぎをして、子どもを預けなければならない理由があった。

筆者が産後にいた職場はシフト制で、突然の休みは許されず、頻繁な子どもの病気で、肩身が狭かった。復帰後、やむを得ず病児保育の団体に入会した(子どもの病気、上司の理解なく壮絶な日々)。

同様に、穴をあけられない職種の保護者は多い。核家族化が進み、高齢出産なら祖父母も高齢で、若い祖父母ならば、働いている。配偶者の長時間労働も、なくならない。「〇〇さんは、預けて出社している」「シッターに頼めるでしょ」と言ってくる上司もいる。

〇「ご近所さん」ファミサポ増えれば

こうしたシッターとは別に、子どもが2歳~4歳のころ、近所の共働き家庭に、「ファミリーサポート」をお願いしていた。ファミリーサポートは、保険に入れて時給が格安で、マッチすればとても助かる制度だ。3児の母の友人は、いい人を見つけて、よく依頼していた。

筆者の場合、まずワンオペだった赤ちゃん時代に、探してもらった。申し出てくれた人は、気持ちはありがたかったが、条件が多く実際は難しかった。ゆとりあるシニアが、あまりいないエリアだった。

仕事と子育ての両立があまりに辛くて、2歳からお願いした家庭は、総合職の共働き。子育ての先輩として、都合のいい時に、月に何回か、3歳上のお姉ちゃんとパパが保育園に迎えに行き、ごはんを食べさせて、遊んでくれた。

これは「疑似ご近所さん」のようなもので、「困った時に頼む預かり」ではないが、相談にのってもらい、かわいがってもらって、精神的な支えになった。今でも、つながりを持っていて、近所で会えると嬉しい。

近所の縁を生かした助け合いがあれば、見知らぬシッターにお願いする必要もないのにと思う。

〇仲介サイトの利点は?

病児保育の団体を退会した後、病児保育も、通常の預かりも可能なシッターの団体に入会した。高齢の代表が窓口で、話が進まないのが悩みだった。しばらくお世話になったベテラン女性が、家族の病気でお休みするのをきっかけに、退会した。

今から数年前、今回の事件があった仲介サービス会社「キッズライン」を知った。社長は、以前からメディアで紹介されることの多い、いわば「有名人」だ。開始当初は、運営側の手数料はシッティング料の1割程度だった(現在は値上げ)。

サイトを見ると、利用者が評価と感想を書き込み、中には手厳しいものもあった。「可視化されていて、個々の緊張感も上がるのでは」「事業者を通した、まどろっこしいやり取りがなくなる」「人を選べる」「シッターが時給を決めるので、モチベーションが上がるだろう」と受け止め、会社の助成も適用されたので、セイフティネットの一つとして、登録した。

〇面接とやり取りで判断

その後、定期の依頼が必要になり、何人か有料の面接をした。親子で会い、服装や話し方を見て、キャリアを聞き、相性が合うか確かめた。

保育園やマッチングサイトで起きた男性保育士による事件を知り、男性は避けようと思った。保育園では男性保育士が何人かいて、おむつ交換などに抵抗を感じたこともあったが、複数の目がある規模の保育園だったため、納得できた。もちろん、男性ならではの良さもあるし、誠実に仕事している人もいるので、男性シッターを選ぶ保護者を責めることはできない。

仲介サービスは、派遣型の事業者と違って、シッターと利用者が直接やりとりする。プロフィールや写真をサイトで見て、連絡を取り、時間や金額・追加料金・交通費などの見積もりに納得したら、成立する。

子どもも成長すると、病児や赤ちゃんが得意な年配のシッターよりも、保育園の先生と同じ感覚のお姉さんを希望する。続けて来てもらったのは、20~30代で、保育園で働く経験がある女性だった。

お迎えの際は、あらかじめ保育園に名前を伝え、身分証を見せてもらった。そういう他の人の目や、緊張感があった。メールでのやりとり、事後の報告書もきちんとしていて、価格も適正だった。オープンなサイトのレビュー欄も、実際の仕事ぶりと離れていなかったと思う。

〇遠慮してしまう保護者

しばらくキッズラインを利用しなかったが、病児保育も対応するようになったと知り、何度か利用した。シッター自身が、時給をかなり高い設定にしている人もいる。特に急な依頼や、病児の場合は、オプション料金を上げてくる。見積もり料金が、一定の範囲を超える場合は、断念した。

久しぶりに利用した際、シッターのプロ意識が薄れたかな、という印象があった。ネット上で広告も見かけていて、アルバイト感覚で登録する人が増えたのだろうと思った。

必要であれば、高いと思っても、シッターに依頼する人がいる。特に近年は、東京都が保育園に入れなかった場合に、シッター代をかなりの額で助成するなど、需要があり、引く手あまたの状態だ。

これはいまだに思うのだが、シッターに何か不備があっても「またお願いするかもしれないから、関係を保ったほうがいい」と考え、誰にも手助けを頼めないという恐怖感から、ぐっとこらえてしまう。

レビュー欄に、苦情を書き込む人もまれにいるが、やはり多くの保護者は、困った時にお願いしたい弱みもあって、当たり障りなく書くように思う。

派遣型の事業者の場合は、トラブルがあれば担当者に伝えた。仲介サービスの場合はどうするかと思ってサイトを調べると、「本人と直接やりとりしてください」とのことだった。

〇コロナ禍の助成で

そしてコロナによる突然の休校になり、期間限定で内閣府の助成がかなり出ることが報道された。ワンオペで、学校の預かりも限定され、子連れの仕事は衛生上、無理が出てきた。心身が限界になる前にと考え、キッズラインのシッターを短時間、利用した。

内閣府の助成が適用できるシッターは決まっており、その中から、遠くなく、条件が合う若手の女性にお願いした。子どもとの相性はそれぞれで、報告書の表現がちょっと…という人はいたものの、預けるのは小学生で、会話や身の回りのこともできる。預かりの間、伝え忘れがあれば何度かシッターにメールし、むしろマスクや換気が気になった。

心身のエネルギーを持て余していた子どもは、思いきり遊んでもらって、とても喜んでいた。緊急事態宣言が出て、内閣府の助成延長の案内はあったが、一度頼んだシッターにお願いしてみると、安全面を考えて稼働していなかった。その後の自粛生活は、親子で過ごした。

仕事をする際に話しかけてくる子どもに「話しかけないで!」ときつく言ってしまったり、Zoomでの取材に子どもが写り込んできたりもした。組織にお勤めで、保育園や学童保育も自粛になった人は、かなり厳しい状況だったと思う。

〇心ある人もいる中で…注意すること

「コロナで、今まであった問題点があぶりだされた」。産後ケアについて、取材した助産師の言葉だ。

コロナ対策に神経を使いながら、子どものため、保護者のために頑張っている保育園や、学童保育の現場からメッセージをいただき、改善への願いを紹介してきた。子どもの食事支援、オンラインで学校と子どものかかわりを作る試み、障害者が働く場を守り続ける福祉事業所も取材した(働く場は守る。障害者が働く「いわきワイナリー」コロナに負けず)。

心ある人は、たくさんいる。子どもの成長を支える選択肢の一つとして、シッターに安心して依頼できるように、事業者の努力を願うとともに、利用する側に不安があるなら、以下のようなことはできると思う。

・預ける前に、シッターと親子で面接する(特に、複数回をお願いする場合は大事)

・世間話をしつつ、保育園や他の家庭での仕事ぶりを聞いてみる(キャリアや、活動範囲を知る)

・男性でも女性でも、シッターに違和感があれば、依頼しない(相性は大事なので、偏見や差別ではない)

・子どもと遊ぶ様子、会話のやり取りを見てみる。預かり中、メールで報告してもらう。目の届かない公園に行かない(いい人であっても、遊ばせ方によってケガしたり、衛生や安全の価値が違ったりする)

・事業者・団体のメールや情報は見ておく(事業拡大中は人手が足りず、経験の浅い人が増える。設立当初はきめ細かかったことが時間が経つと手薄になる)

・トラブル時の窓口を確かめておく(サイトをたどってもなかなかたどり着けないこともある)

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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