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DA PUMP w-inds. SKE48…ダウン症のダンスチーム映像にスター集結、世界を励ます笑顔

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
公開中のミュージックビデオよりDA PUMPのメッセージ(許可を得て掲載)

ダウン症のある人たちのダンススクール「ラブジャンクス」の歌とダンスによるミュージックビデオが、公開されている。沖縄アクターズスクールで安室奈美恵さんとデビュー、DA PUMPのISSAさん、三浦大知さん、SPEEDを育て、AKB48グループの振付師としても活躍する牧野アンナさんが、2002年に始めたラブジャンクス。この映像には、活動を応援する数々のアーティストも出演。「多様な人が、共に暮らせる社会を」「ダウン症を知って」という趣旨に賛同し、笑顔を届ける。

〇大好きなレッスン・イベント休止

ラブジャンクスは毎週、東京・神奈川でレッスンを開いてきた。大阪・北海道の生徒も含め、小学生から大人まで、およそ800人のメンバーがいる。長年、練習を積んでブレイクダンスや演劇を披露する上級者もいれば、ダンスを楽しむ初心者もいて、いつもレッスンは、熱気に包まれる。

日常生活で、思うようにコミュニケーションが取れないこともあるメンバーにとって、レッスンやライブはストレス発散のチャンス。活動を通して友達ができたり、身の回りのことができるようになったり、自立につながっているという。

ところが、新型コロナウイルスの影響で、安全を考えてレッスンを休止せざるを得なくなった。毎年、メンバーが目標にしている「中野サンプラザ」での6月のライブは、延期になった。こうしたもどかしさは、他のダンスやスポーツ、音楽などに全力を尽くす人たちも同じように感じているだろう。

〇オンラインでつながった

牧野さんは、メンバー限定のオンラインレッスンを始めた。インスタグラムのライブ視聴の形で、5月はトライアル。6月は、金曜日に基礎レッスン、日曜日に振付レッスンを開く。

「オンラインレッスンは一方通行で、みんなの姿が確認できないので、やりづらさはあります。また、受けている方も、インストラクターに見てもらえないため、手ごたえを感じにくい面もあると思います。

ただ、いつもなら大人数でなかなかできない、細かい身体使いなどの基礎的な指導ができます」

こうコメントしてくれた牧野さん。初のインスタレッスン後も、「やっぱりみんなと直接会いたいけど、つながれて楽しかった!がんばるぞ〜」と前向きだった。

〇不安な日々に、MV公開

3月21日の「世界ダウン症の日」にちなんで予定していた、「ららぽーと豊洲」でのイベントも、中止になった。でも、世界ダウン症の日にはサプライズがあり、ラブジャンクスのミュージックビデオ(MV)が公開された。

2018年、ラブジャンクスの待寺優さんが歌う「LALALA One Life」をCDにして、発売した。その歌をPRし、ダウン症について知ってもらおうと作成した映像だ。

MVのプロデュースはPaniCrewの植木豪さん、公式アンバサダーは女優の戸田恵子さん。戸田さんは自身のアパレルブランド「BackGammon」収益金の一部で、ラブジャンクスのメンバーにプレゼントを贈るなど、活動を応援している。筆者も、ラブジャンクスのライブ会場でたびたび、戸田さんをお見かけした。戸田さんの舞台やラジオでも、自らラブジャンクスの話をする。

戸田さんは、このMVに、こんなコメントを寄せている。

「2004年に私が出演したTVドラマで、私はダウン症の子供を持つ母親を演じました。その時です、ラブジャンクスの皆んなと出会ったのは。ダンススクールに通うシーンにラブジャンクスの皆んなはエキストラとして参加してくれてました。そこで目にした光景は今でも忘れられないです。とにかくパワフルでハッピーで驚きました!それまで私はたくさんの事を不可能と勝手に決めつけてきたと思いました」

他に、牧野さんと交流があり、ラブジャンクスを応援するアーティスト・著名人が集結し、MVにメッセージボードと共に出演している。DA PUMPやw-inds.など、これまでもイベントにボランティアで参加したアーティストもいる。

【MV出演者】

戸田恵子

PaniCrew

DAPUMP

MAX

三浦大知

Lead

w-inds.

フェアリーズ

知念里奈

CHICO CARLITO

MAASYA(LL BROTHERS)

SKE48

HKT48

エハラマサヒロ

伊藤一朗(Every Little Thing)

KEN、YUKINARI(ex-DAPUMP)

アレックス・ラミレス(横浜DeNAベイスターズ)

ストロングマシーン・J (ドラゴンゲート)

金石勝智(リアルレーシング)

MC KENSAKU&MC MIKI

MCU(KICK THE CAN CREW)

千晴

神風

琉球の風なの?

〇MV構想は数年前から

筆者は15年近く、ラブジャンクスを取材する中で、このMVの誕生を見守った。

新聞記者だった1996年ごろ、筆者は赴任先の栃木県でダンスを習っていた。そこでは、安室奈美恵さんやDA PUMP、SPEEDの曲でダンスの楽しさを教えてくれた。その後、記者としては「ハンディのある人が働いて、充実した生活をするにはどうすればいいか」というテーマで取材するようになっていた。

DA PUMPやSPEEDの先生でもある牧野さんが、ダウン症のある人と出会い、沖縄アクターズスクールをやめて、ラブジャンクスを始めたと知り、取材に伺った。その後、しばらくして、牧野さんと働く母親どうし話すうち、「親子で読める本を作りたいね」と目標ができた。ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」(ラグーナ出版、2019年)のための取材が始まった。

数年前、ある日のインタビューで、「親しいアーティストに出演してもらって、MVを作りたい」と熱く語っていた牧野さんの表情を、よく覚えている。

2019年、中野サンプラザライブで。ユウくんをダンサーの仲間、牧野さんが見守った なかのかおり撮影
2019年、中野サンプラザライブで。ユウくんをダンサーの仲間、牧野さんが見守った なかのかおり撮影

〇コロナと生きる人々にも

今回のMVで歌う「ユウくん」は、家族のサポートでラブジャンクスの初期からレッスンに通い、自宅でも練習した努力家だ。ラブジャンクスのスターとして、プロとの舞台やテレビにも出演した。ダウン症のある人にとって、歌うことも簡単ではなく、CDデビューの際は、繰り返し練習して覚えたという。ユウくんはスランプの時期も体験し、福祉事業所で働きながら、ダンスを続けている。

CD発売後、少しずつMVの準備を進めた。2019年のライブでは、舞台で踊るメンバーとユウくんに合わせて、お客さんが手をふる様子を撮影した。

完成したMVを見ると、優しいトーンの映像と、ノリのいい曲、自分のままでいいという歌詞が、すっと入ってくる。メンバーのダンスとユウくんの歌からは、「ダンスが好き」「歌いたい」という、強い気持ちが伝わってくる。

○社会を変える「好き」の力

映像の後半では、アーティスト・著名人の笑顔が、次々と映し出される。形は違うが、4月にレディー・ガガの呼びかけで、エルトン・ジョンやビリー・アイリッシュら世界のアーティストが、テレワークで歌を届ける企画があった。医療・ライフライン分野で働く人を勇気づけ、多額の寄付が集まり、スターの力を発揮した。

堅苦しく理解を求めるのではなく、エンターテインメントを通して、スターの笑顔や、「表現することが好き」という気持ちに、触れてもらう。そうすることで、自然と多様性を伝えられる。ラブジャンクスのこのMVも、コロナとの生活に戸惑い、傷ついた人々の心に、響くのではないだろうか。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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