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「産前産後の孤立を防ぐ」オンライン相談スタート、コロナで変わる親子支援

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
平時でも心配が尽きない産前産後(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

産前産後は、平時でも心配が尽きないもの。ウィズコロナの生活で、働く妊婦や、出産する人もいる。提唱される新しい「生活様式」を実践すると、赤ちゃん広場や公園に行きづらくなり、対面の相談にも気を使う。孤立しやすい状況は、緊急事態宣言が解除されても続いている。「出生率1.8と言われても、生活するのに精一杯。妊活はどうしたらいいの?」という声も上がる。一方でオンライン相談が始まり、新しい選択肢が生まれた。長年、ママたちの相談にあたり、自身も子育て中の助産師に、現状を聞いた。【#コロナとどう暮らす】

〇職場の理解がない妊婦も

産前・産後のママたちの状況はどうですか?

「緊急事態宣言の間、妊産婦向けの電話相談の対応をしました。相談は全国からあり、内容は様々でした。

国会で妊婦の管理について話し合っていたこともあり、妊婦さんが仕事のお休みをもらうためにはどうしたらいいか、という問い合わせは多かった印象です。その方々には、母子手帳の連絡カードの紹介や説明をしました」

「妊婦への配慮は、理解がまだまだです。コロナによってこれまで潜在的にあった問題が、浮き彫りになっているんだろうな、という感触でした。他には、里帰り出産ができなくなったために、産後どうしたらいいかという妊婦さんや、産後に手伝いにいく予定だったけれど、行けなくなった祖母の相談もありました」

〇発熱・離乳食に戸惑い

緊急事態宣言が解除されても、緊張する生活は続きますね。赤ちゃんについてはどうですか。

「4月ごろから、行政の健診や赤ちゃん訪問・相談事業は休止していたところが多いです。各自治体に対応を任され、少しずつ再開していくようです。

乳児の体調が悪くて、受診はどうしたらいいかという相談もありました。病院に行きにくいこの時期に、赤ちゃんの初めての熱は本当に不安だろうと思って、胸が締め付けられました。

まず、小児救急電話(#8000)への相談を勧めました。つながりにくい地域もあるのですが…。特に一人目の子育ての場合、人とのリアルな接触が初めてで、神経質になりますよね。離乳食についての質問もありました」

「電話番号を見つけて相談した方は、困っていることが明確で、改善したいと思っています。『助けてほしい』と大きな一歩を踏み出せているんです。『周りの人にはどうしても言えないから、匿名の相談を利用した』という方もいました。

もともと助産師の電話相談窓口がある自治体は、それが生かされています。緊急事態の間、児童館の赤ちゃん広場を利用して個別の相談をしていた自治体もあります」

〇直に会えず、孤立の心配

ソーシャルディスタンスが必要な中、ビデオ通話を使ったオンラインの助産師相談もあります。東京都助産師会のオンライン無料相談が4月に始まり、都の委託になって6月まで延長されました。

「産後の赤ちゃん訪問は、もともと全戸事業になっています。特に悩みがない方にとっては、産後に知らない助産師や保健師が家に来るという、すごく面倒なことなんですが、そうでもしないと一人で悩みを抱えて孤立しているママのところに行けないのです。

コロナとの生活では、人と人が距離をあけなくてはいけないことになって、ちょっとしたおしゃべりさえも難しくなり、簡単に孤立してしまう状況です。リアルな世界のセーフティネットを広げる機会が、激減しています」

「今の妊産婦さんは、とてもきつい状況だと思います。子どものおかげでつながるネットワークは、面倒なことにもなり得ますが、たった一人で子どもとずっと向き合っている状況よりは、いい面もあります。ちょっと声をかけてもらうだけで、見える世界が変わるので。

オンライン相談に切り替えていくなら、通信環境や気持ちの面で、一歩を踏み出せない方が、相談から漏れないようにする必要があると思いました」

〇生活や家族との関係性が見えない

オンライン相談の長所と短所は、どんなところですか?

「長所は、移動の負担がなく、生まれたばかりの赤ちゃんを連れて歩かなくていいということです。相談を受ける助産師・保健師も移動時間が減ります。コロナとの生活の中、お互いに感染のリスクが減るということは、直接会えないのは悔しいけれど、すごいメリットです」

「短所はまず、助産師が持つ特有の五感と、さらには第六感的なものが働きにくいということです。直接、自宅に行く赤ちゃん訪問のときは、不自然な感じがないか、よく見てきます。上の子がいる場合は、そこも注意深く見ます。

ママだけとのやりとりが多くなると、パパやきょうだいとの関係がわかりにくいです。オンラインは、聞きたいことが明確な、問題解決型のタイプの方にはいいですが、言葉にしにくい場合は、直に会って状況を読み取る必要があります」

「さらにあげると、一緒にやりながらお伝えしていた事が説明しにくくなります。授乳の時、ごくごくと飲んでいるか。抱っこの仕方、抱っこ紐の使い方、搾乳など。今は詳しい動画も、あるでしょうが…」

〇価格設定はどうなる?

「ママの立場に立ってみると、相談先として信頼できるかどうかの判別が難しいかもしれません。有料の場合、先払いなのか後払いなのか、時間制にするのかなど明確にしないと、トラブルになってしまいます。

相談を受ける側の立場では、自治体からお金が出る場合以外は、ボランティアでタダ働きになってしまうケースも出てきます。民間のオンライン相談料は、価格も様々なようです。オンライン診療の医療保険制度については決まっていて、育児相談や母乳相談は、そもそもが自由診療なので、価格設定がどうなっていくのか気になります」

「オンラインによる相談を手がける産科医や小児科医、一般の人もいます。きちんとした団体・専門家ならいいのですが、SNSでは、個人情報も簡単に聞き出せてしまいます。ビデオ通話だと、産後の無防備な姿や授乳の場面が映し出されるかもしれませんし、画面に集中するのに疲れそうです。

里帰りもできず、お手伝いに家族を呼べず、さらにテレワーク中の夫と産後を自宅で過ごすという過酷な時に、藁にもすがる気持ちで頼ったオンライン相談が、弱味につけこむようなビジネスや、事件につながるものでないことを願います」

日本助産師会の全国相談窓口一覧

〇産前からつながる仕組みを

ウィズコロナの生活で、産前産後ケアも手探りの部分がありますね。

「電話相談を受けていて、『絶対に、自分がだれか気がつかれないところに相談できる安心感』を求める方もいました。一方で、『顔のわかる、信頼関係がある人に相談したい』というママもいます。

オンライン相談は、基本的に、会ったことがある、信頼関係のある人でこそ、安心してできるものかもしれません。コロナとの生活の中では、妊婦健診の際に、地域のセーフティネットや相談先を知っておく。できれば、自治体としてそのような仕組みを持てば、妊娠・出産・産後と切れ目なく、状況に応じて電話やオンラインでの相談もしやすくなると思います」

「本来、産前産後ケアには多様なニーズがあって、助産師だけではなく、小児科・産院・児童館・保育園・幼稚園・保健所・福祉センター・食事や家事サービスを提供してくれるところなど、様々な分野で支えていくものです。

助産師は、この相談はどこに?と迷ってしまうママたちに、紹介する役割も担っています。私が担当している自治体では6月から、延期になっていた赤ちゃん訪問を始めます。まず連絡して、どうですかと声をかけ、訪問はどうするか聞くところから。私自身も、人付き合いの距離やお出かけ、子どもの学校のことなど、戸惑いを感じる毎日ですが、学びながら支えていきたいです」

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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