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「学校再開?休校延長?」急展開の現場、当事者たちの叫び

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
学校に行きたい。でも安全が第一。当事者の気持ちは揺れる(写真:アフロ)

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、休校になって1か月、「新学期はみんなで迎えられるだろう」との期待もあった。だが、患者が増える現状を見て、休校延長を決めた自治体も多い。一方で4月4日正午現在、学校再開や分散登校(実質的な学校再開)、入学式の実施を決めている自治体は各地にある。東京都世田谷区や千葉市は、いったん再開を発表したものの、住民の声と現状を受けて撤回し、休校を延長した。6日以降の新学期に向け、どのような対応になるか。子どもや保護者も、揺れている。当事者の声を聞いた。

〇3日に1回分散登校、給食も

3月末から、都立学校の休校延長が報道されていた東京都。世田谷区は4月1日、区立小中学校の分散登校スケジュールを発表した。中止とした後は削除されたようだが、「3日ごとに設定」「登校時間は半日」「登校日や登校時間を変え、同時に滞在する人数を最小にする」「一つのクラスを複数の教室に分ける、面積の広い教室を利用など工夫する」「給食はあり」「休んでも欠席にはしない」といった詳細なプランだった。

筆者は、世田谷区の保坂展人区長に何度か取材したことがある。子どもの福祉に積極的な区長なので、今回も「学習のサポートだけでなく、居場所の確保、子どもが食事に困らないようにという目的もあるのでは」と受け止めた。

ところが、区民らから「密閉した教室で、密集して、密接にかかわる学校はリスクが高い」との声が相次いだ。3月31日までの累計で、世田谷区は44人と東京都内で一番患者数が多かったこともある。3日には、これらの分散登校を取りやめ、5月1日まで休校を延長すること、6日の入学式延期、医療関係者・やむを得ない家庭以外の学童保育の休止も発表された。区民からは「急すぎて、仕事の引継ぎが間に合わない」との悲鳴が上がっている。

〇「休校延長、支援できるように」

こうした急展開の経緯について、以下、保坂区長のツイート(4月4日)を一部、引用する。

昨日は、区立小中学校の新学期以降の「分散登校」の中止、「入学式」「始業式」の延期について、4月1日の方針を改めました。区内での新型コロナウィルスの陽性となった人がさらに増えたことで、見直しをしました。

世田谷区の公立小中学校の児童・生徒数は4万8000人います。新学期をどうするか、当初は文部科学大臣は「再開」を呼びかけ、都立高校も「分散登校」を打ち出していました。詳細に議論を積み上げ、検討した結果、通常通りの再開はありえず、原則休校・週に1回か2回、1学年だけ分散登校が4月1日の方針に。

都知事の会見で「都立高校GW明けまで休校」と発表されたのは、4月1日でした。世田谷区は同日、PCR検査の陽性者数の発表も行いました。東京の自治体で最多でした。それ以降、検討作業を重ねて、4月3日「12人」が確認されて方針転換を決めました。

子どもたちにも、保護者の皆さんにも、各学校にも、急な方針転換となってしまったことをお詫びします。何とか、先生方と子どもたちが新学期の関係をつくり、互いに理解して、休校中もつながり、学習支援が出来るように、ネット配信なども加速して準備するように教育委員会に指示しました。

〇「現場で働く人は揺れている」

千葉県は4月2日、県立学校について一部地域を除いて6日から再開すると発表していた。その中で、千葉市は入学式も開催し、市立小・中・高の学校を再開する予定だった。だが3日、市内の感染状況を見て、12日まで春休みを延長すると決めた(追記・5日、森田知事が県立学校を4月末まで臨時休校にすると発表)。

子どもたちの現状や、親としての本音を、2児を持つ千葉県在住の幼稚園教諭に聞いた。

学校が再開して、密集したところに通わせるのは心配ではない?

「心配だけれど、仕事を休めず、自宅で留守番させて、震災のような災害が起きたらと思うともっと心配です。在宅ワークを推進と言われても、在宅でできる仕事ばかりではない。私のように、現場に行かないと仕事にならない職種の人は、揺れているんじゃないかな」

マスクをちゃんとつけられない子もいて、学校では濃厚接触になりそう…。

「休校中、外で遊んでいいよとアナウンスがされ、友達と遊んでいる時点で、濃厚接触しているわけです。登校するのと、友達同士で過ごすのと、どちらがいいのかは、わからないのが本音。子どもをわけて、半分ずつ登校ができないかとか、やり方がないのかなとは思っています」

「どんどん周りの子どもたちが、乱暴というか、行動が極端になっていると感じます。マンション内のいろいろなものが壊れてたり、友達同士で激しい戦いごっこをしたり。親も学年が上がってくると、子どもたちを見きれていないと思います」

〇医師の推計とアドバイス

これは千葉県だけの状況ではなく、休校が長期化し、自粛のため習い事や外出も制限される中、子どもたちのストレスと保護者の心配も膨れ上がっている。学習の遅れ、栄養の偏り、運動不足、居場所がない、子どもだけで過ごすリスク…挙げればきりがない。新学期なので、友達や先生と関係が築けない、帰属意識が持てない、入学という区切りが見えないという声もある。仕事への影響を訴え合う保護者もいる。

6日以降、分散登校をすることになっている自治体に住む医師は、学校再開について、こう訴える。

現状を知ってほしいので、あえて厳しく言います。4月1日のデータを見ると、この自治体の人口当たりの罹患率は少なくない。ざっくり計算すると、小学校1校で1人は診断が出る。さらに、診断されてない患者は少なく見積もって診断数と同じ数はいるから、隠れた患者が1人。つまり小学校の児童と職員の中に2人いる計算です。

医療従事者レベルの対策が、先生や子どもにできるとは思えません。感染力は同じ。発症率・重症率は低めですがゼロじゃない。患者数が増えれば、それなりの数の、子どもの重症患者が出てしまいます。

こういう時に、仕事がとかストレスが…とか聞くと、厳しい医療の現場を体験してきた私は、大げさでなく死にたいのかなと思ってしまいます。しなやかに、生活の価値観を変えないといけないんです。

この機会に、オンライン授業の導入が期待されるが、公立の学校で導入するには、学校側にも家庭側にも環境の整備が必要だ。もちろん、現場の先生たちも上の指示に従って、再開なら受け入れ準備をしたり、休校するならその間のケアを考えたり、イレギュラーな対応に奔走している。

学校が再開するとの連絡に、「感染のリスクがあるから、登校させない」という親もいれば、「方針が決まってよかった」という親もいる。子どもにも、「学校に行きたい」「怖いから行きたくない」とそれぞれに気持ちがあり、緊張した空気を感じている。筆者も含め、「学校生活を大事にしたいけれど、安全第一なのも事実…」と揺れ動き、選択に苦悩する当事者も少なくないだろう。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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