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時短勤務を経て退職・元新聞記者が考える「産後の働き方」

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
両立は想像以上の重労働(写真:アフロ)

来春に育休からの復帰を考えている家庭は、保育園を探し、復帰後の働き方を計画する時期です。時間短縮勤務を検討する人も多いでしょう。24時間営業の見直しが話題になり、各業界で在宅・リモートワークの導入が進み、以前よりは働き方を選びやすい雰囲気になったと思います。一方で、「十分に働けていない」と見なされたり、カバーする周囲が負担感を持ったり、課題は残っています。筆者は会社に勤めていた頃、産後に時短勤務を選び、試行錯誤した末に退職しました。「課題解決に役立ててほしい」との思いから、産後に働く上で直面すること、その改善策を提示します。

筆者は、39歳で初産しました。新聞社に入社して、地方勤務も含め、10カ所ぐらいの部署を経験し、十分な経験を積んだ後です。長く携わっていたのは、現場に行き、人に会い、記事にする仕事でした。出張や休日の仕事もあるものの、個人の裁量に任され、成果を上げることが大事でした。

復帰後ー慣れていない職種は厳しい

妊娠中に異動した先は、初めて経験する内勤の部署でした。上の判断で、「勤務時間が決まっているから、外勤の不規則勤務よりいいでしょう」とされたようです。実際に働いてみると、シフト制なのでむしろ欠勤に厳しく、「出勤して、席にいる」ことが大事です。

出産を機に、仕事の内容が変わる人もいます。産休に入る前は、「子どもの病気による欠勤が続き、それまでのキャリアがゼロになってしまう」ことや、「職種の価値観の違いによるアウェー感」を予想できないと思います。

振り返って思うことー産前産後は慣れた職種がベター

提言するとすれば、「産前産後は、慣れた職種の部署にいたほうがいい」ということです。異動してしまうと、評価のポイントが違い、周りも知らない人ばかりです。たとえば、「20年近くあらゆる経験を積み、500本の記事を書いた」という実績があっても、それが評価されない、知られていない部署に行ってしまうと、産後のハードな時期に、新しい学びに努力する余裕はないものです。

これが若いうちに出産した人なら、少し事情が違うかもしれません。キャリアがあるということは、高齢出産で体も若い人よりはきつく、身内も高齢で手助けが得られにくいです。若い親だと体力もあり、祖父母やきょうだいも若いので、家事・育児のサポートに駆けつけてもらえて、よさそうです。でも、仕事に関しては「これから」という時期だとすると、「子育ても頑張りつつ、職場でも必死についていく」という努力が求められるでしょう。

驚いたことー家事も育児も仕事も体力がいる

娘が1歳になってすぐ、育児休暇から復帰しました。保育園は、厳しい保活をしなくても、夫の単身赴任ポイントがあり、入れました。しかし、「保育園の送り迎え、決まった時間に働く、家事も育児も」という生活は、高齢出産の筆者にとって、厳しいものでした。

若い頃は、異動や転勤が多く、そのたびに順応する体力もありました。引っ越しや飲み会、出張、夜勤、夜の取材と何でも大丈夫でした。自分のことだけに集中すればよかったからです。

でも、子どもがいれば、そうはいきません。子どもを留守番させて仕事をしていて、何かあれば保護責任を問われます。保育園指定のグッズを用意する、食材の管理、スケジュール管理など、「見えにくいけれど、やらなければならない」用事も山積みです。

子どもに起こされるので、「休日に寝坊して疲れを取る」なんてことができません。幼い子どもは、朝からエネルギー爆発です。40代の親は、ささっと公園に連れて行く元気がありません。ある土曜日、仕事と授乳に疲れ切り、横になっていました。娘は遊びたくて散らかしまくっても、動けなかった。「これって、ネグレクト(育児放棄)?」と思い、自分がおそろしくなりました。

さらに辛いのはー子どもの病気の多さ

こうしたあっぷあっぷの土台に加えて、「子どもの病気」がやってきました。これは、初体験です。不規則勤務の職場では、子どもの用事で出入りする部員が多く、筆者も夜勤や休日出勤をカバーしていたので、気づきませんでした。シフト勤務の職場では、子どもの病気のたびに、遅刻・早退や欠勤をすると、非常に目立ってしまいます。

恵まれた職場なら、「小さいうちは仕方ない」と配慮されます。そうやって、3人、4人と育てている人もいます。一方で、「上司から、看護休や遅刻・早退の多さを注意され、評価はボロボロ」「一人前と認められていない」と、肩身の狭い思いをする親は少なくありません。

どうすればいい?ー上司・周囲が理解を

仕事で少しでも、自分が役立っている思いや、達成感があれば、みじめな気持ちにはならなくてすむと思います。職場だけでなく、保育園や病院や病児保育や、あっちにもこっちにも頭を下げて、中途半端で、当時は悪循環でした。

希望の部署への異動もなくなり、身も心も打ち砕かれました。筆者は、そういう期間がわりと長かったので、自己評価が下がり、退職後もしばらくは自信を取り戻せなかったです。

今、客観的に考えて、「子どもは、頻繁に病気をする」ということを、上司や周りの人も知らなかったのが問題の一つです。意外に、自身も子どもがいる上司が、身内にお任せなのか、知らないのです。現在は、マタハラに敏感になったとはいえ、管理職には、子どもの病気のメカニズムや、子育て中のキャリア形成を学ぶ研修があるといいですね。

できることー自らセーフティーネットを築く努力も

また、筆者自身、十分な準備をしていなかったという反省もあります。子どもの病気や山盛りの家事に対応するため、自らセーフティーネットを築く努力も必要です。家電を導入したり、補助を使って家事サービスを利用したり。作り置きの料理を頑張りすぎて嫌になったという話も聞くので、「家事で完ぺきを目指さない」と決意するのも一つのやり方です。

育休から復帰前に、身内に聞いてみて頼めなければ、病児保育の手続きをしておく。病児シッターは高額なので、病児保育室にも登録しておく。病児保育室は、満員だったり、手続きが煩雑だったりするので、「ここなら、すぐ受け入れてくれる」といった口コミの情報もかかせません。

(日経DUALに連載した「39歳で初産 私のキャリアどうなっちゃうの?」をもとに再構成)

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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