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産後うつ ママ友作りは元気な日に

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
抱っこひもの使い方がわからない親も多いという。出かけるのも一苦労だ(写真:アフロ)

産後うつを体験して現在はサポート活動をする女性の物語を記事にしたところ、大きな反響があった。「産後の辛さに、我が子を虐待しそうだった」という声も寄せられた。今回は、産後の乳児訪問をしてきた助産師に、孤立を防ぐママ友作り、抱っこひもの使い方、家事の工夫など具体的なアドバイスを聞いた。

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訪問助産師が見た乳児家庭

●トライ&エラーで家事・育児を学ぶ

東京都の自治体に依頼され乳児訪問をしてきた助産師のBさん(30代)は、自身も3児の母。海外で子育てと出産をした経験がある。家電をそろえ、夫とどれぐらいの家事をできるか確認したという。

「ごはんやミートソースを冷凍しておき、乾麺を常備。ドリアにもパスタにもなる。洗濯は乾燥機までかければふんわりするので、たたまず山盛りにしておいていい。食洗器は突っ込めばいいと。トライ&エラーの繰り返しで、夫は子どもの送迎もできるようになりました。それでもご飯が作れなかったら、スーパーで買ってきて、でいいんです」

Bさんが3人産もうと決意できたのは、海外で共働きの家庭をたくさん見たからだ。「プリスクールがあり、ナニーも頼みやすい都市で共働きが当たり前でした。そんなにお金はかけられなくても工夫すれば日本でもできるのではと思い、帰国を前に職場や保育園をリサーチ。保育園はいっぱいなので、延長預かりができる公立幼稚園の近くに住むことにし、一時期は夫の職場内保育所を利用。今は末っ子の育休中で、延長や長期休みの預かりがある幼稚園で助かります」

●お弁当を冷凍しておいてもOK

Bさん家庭で試行錯誤したように、家族は母親を休ませるために家事や育児をサポートするのが理想。「私は乳児訪問の時に旦那さんが家にいたら『お母さんを休ませてあげて』と言いますが、思うようにはいきませんよね。旦那さんも、職場でワーキングマザーが増えて夜や休日のカバーをするため勤務が過酷になりがち。身内の手が足りなければ、出産前に産後のイメージをして用意するのも手です」

産後すぐの体は、家事は大変な上に栄養が必要だ。「お母さん自身が、毎日の食にありつけるかが問題です。お弁当を冷凍しておいてもいい。助成で産後ヘルパーを頼めるなら、掃除はしてもらいたいけどこれはしてほしくないと具体的な希望を書いておくといいですよ」

Bさんはこう語る。「人生80年だとすると赤ちゃんはまだ1か月、親も1か月なんだからわからなくて当たり前。お母さんはやってもらいたいことを言う、旦那さんは何をやったらいいか聞く。産後にきれいごとを言われても…と思われるかもしれませんが、互いに感謝の気持ちを忘れない。その繰り返しでパートナーになっていくのではないでしょうか」

●抱っこひもの使い方を練習

Bさんが最近、乳児訪問で気になっているのは抱っこひもについてだという。「月齢を考慮しながら、外出ができているか確認する時があります。すると、実は抱っこひもが使えなくて…というお母さんがいます」

ひもと言っても、今は腰や肩でしっかり止めるベルトのようなタイプが主流。父親もよく使うようになった。赤ちゃんを包みながら安全に装着するのは慣れないと難しい。祖父母世代は対面の抱っこひもをほとんど経験したことがない。赤ちゃんが対面で抱っこされているのを見て「大丈夫?息できているの?」などと言い、母親はより不安になる。

「使い方は、動画サイトでも検索して出てきますが、乳児訪問の際に赤ちゃんを抱っこしながらつけて、外して赤ちゃんをおろすところまで一緒にやってみます。次に、一人でやって自信をつけてもらいます」

首のすわっていない時期の赤ちゃんを連れて子育てセンターや児童館、サロンに行って相談したい、ママたちに出会いたいと思っても、抱っこひもがないと赤ちゃんを抱えてバッグの中の物を出すのも、書類を書くのも一苦労。

「教えたお母さんが抱っこしている姿を鏡やスマホの写真で見せると『街でよく見かけるママみたいですね、やっとここまできました』なんて言われます。抱っこひもをうまく使えるようになれば、寝かしつけや外出が少しは楽になります。赤ちゃん訪問で抱っこひもの使い方を教えてもらえるとは思いませんでした、と話すお母さんも多いです。どんどん新しい抱っこひもが発売され、ベテランの助産師も、情報交換や勉強をしています」

●赤ちゃんサロンは元気な日に行く

抱っこひもの使い方のように、何か困っていることがあったら、乳児訪問の際に聞いてみるのがいいというBさん。「産後は何を聞きたかったのかも忘れてしまうので、思い立ったらメモに書いておくか、スマホにリストを残しておくと聞きやすいかもしれません。まじめになりすぎないことも大事ですが」

産後、人付き合いに悩む母親も少なくない。「訪問時に、ママ友をどうやって作るんですかと聞かれたら、無理して作らなくていいんですよと答えます。どんなお母さんがいるかなと思ったら、児童館や赤ちゃんサロンをのぞいてみて。おむつ替えに行き、様子を見るだけでも。疲れている日に行くと、他のお母さんがキラキラして見えて落ち込む人もいますから、天気のいい元気な時に」

顔を合わせて話すのは、SNS世代の若い親にはハードルが高い。Bさんは「それでも孤立が一番、怖いので。赤ちゃんサロンや親子ヨガなど、自分の求めている空気感と違うところもあると思いますが、いくつか行ってみたら、しっくりくる場があるかも」と勧める。

●ささいな悩み、相談できたら

確かに、たかが抱っこひもではない。筆者も出産し退院する時に、どうやって抱っこして帰宅するか悩んだ。体重に応じてどのメーカーを使うか、近所のママに教えてもらったり借りたり。初めてだから授乳やオムツ替えも、抱っこの仕方もわからない。外出におののき、電車から新幹線、飛行機とステップアップしながら練習した。

産前産後の人付き合いも、筆者はワンオペだったので、重い人と思われたくないけど共感しあえる人はいてほしいと試行錯誤した。上の子がいれば保育園や習い事のコミュニティがあるが、1人目は人間関係が少なくママ友作りに神経を使っていた。

妊娠中の教室に行って連絡先を交換したママのうち、1人は今もご近所さんで何かあればやりとりする。もう1人は産後に引っ越すまで仲良くしたので、出会いはあった。

産後にマンションのロビーで知り合った月齢の近い親子とは、付かず離れず交流があり、小学校は一緒なのでまた情報交換している。いずれもべったりした付き合いではないのが良かったと思う。

自治体の集まりや産後ヨガで知り合ったママたちとは、当時はランチやメールのやり取りをした。仕事をするかしないかで、保育園探しや復職など関心が分かれ、連絡が続かなくなった。

産後の親は、ママ友作りの悩みや大事な疑問がたくさんあって、右往左往している。専門職や先輩ママに、気軽に相談できる場がもっとあれば、救われる人も増えるのではないかと思う。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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