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子連れ出勤、私たちの場合

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:アフロ)

熊本市議会で議員が赤ちゃん連れで議場に入ったという報道に、賛否の声が上がった。「子連れ会議OK」のメッセージが広がる一方、もやもやを感じる親も少なくない。様々な職種の親たちに子連れ出勤の体験を聞き、何が必要なのか考えた。

「真剣な議会、子連れで行かない」

最初に、議員で保育園児のママに聞いた。Aさん(東京都内の区議会議員)は、「議会で質問するときなど、真剣にやり取りする場で集中したいときに、子どもを連れて行こうとは思いません」。

Aさんはこう説明する。「議会のスケジュールは前もってわかります。子どもは0歳から保育園に通っていて、熱が出て保育園に行けないときは母を呼んで頼みます。身内に頼めなくても、議員は地域の人とのつながりの中で活動するのだから、自分が議会に出なければいけない時間、お願いできるスタッフや支援者はいると思います」

産後、子どもはしばらく新生児集中治療室に入っていた。Aさんも帝王切開をして体調が優れなかったため、数か月は議会を休んだ。その間の議会や委員会は、同じ会派の議員が代わりに出席したり質問したりした。生後57日から入れる保育園に申し込み、入園できた。

アピールのため子連れ活動も

ただ、アピールの目的で、子連れで活動する機会はあるという。「赤ちゃんのころ、ベビーカーに乗せてデモ行進に参加しました。お母さん向けの会に連れて行って、話しやすい雰囲気にすることはありますよ」

ある程度、話がわかるようになった3歳ぐらいからは、政党の会議に連れて行く場合もある。「でも、騒いだら廊下に出るようにしています」。街頭演説に連れて行くと、スタッフが「こっちおいでー」と声をかけて自然に見ていてくれる。

演説会には託児コーナー

「政党の大きな演説会では、参加する一般の人が預けられる託児コーナーがあるんです。保育士や元教員のスタッフがいますから、ボランティアで。登壇者の子も見てもらえます」

議場とは違うが、区議会の委員会に先日、傍聴人が赤ちゃん連れで来た。泣いたため、出たり入ったりになったそうだ。「ルール上、傍聴人は出たり入ったりはできませんが…。議員からは、『別室でモニターを用意して聞けるようにしては』など、前向きな意見が出ました」

職種や状況により子連れ出勤も
職種や状況により子連れ出勤も

外科医「赤ちゃん連れ診察もあり」

次に、医師のママに聞いた。Bさん(病院に勤務する外科医)は、「息子が0歳のときから、子連れで出勤する日もある」という。

「当番の勤務ではない土日、平日に手術した患者さんの経過を見に行きます。緊急で呼ばれる日もある。抱っこベルトに入れたまま病室に行ったこともありますよ。話したり、傷口を見たり、子どもが患者さんに触らなければ大丈夫です」

息子が動くようになって抱っこが難しくなると、ベビーカーに乗せて回診した日もある。病室が広いので、入口やベッドとベッドの間に置いて、患者のカーテンの中には入れなかった。

「子どもが好きそうな患者さんなら、『ごめんなさい、子連れで』と言ってしまいます。『お休みなのにありがとうございます』と言われました。そういう感じではない患者さんの場合は、頼めそうな研修医に抱っこしていてもらいました」

手術や外来時は預け先を確保

今は息子がお絵かきして待っていられる年齢になったが、話したがるので、患者からは見えないスペースで待たせてスタッフが声をかけるときも。

「もちろん、手術や外来など、平日の日中に決まっている仕事は、預け先を探しておいて連れて行きません。呼吸器内科の医師は感染症の心配があるため子どもを連れて来られず、土日は完全に休み。院内保育所もありますが、土日は休みですし、イレギュラーには利用できないんです」

Bさんの背中を見ている後輩の外科医も、実家が遠く土日の仕事は子連れで来る。平日に後輩の子が病気をしたときは、後輩が親類に預けに行く時間を他のスタッフがカバーする。「人数の多い科なので、不満も出ず何とかなっています。会社勤めのほうがはるかに大変なのではないでしょうか」

省庁・金融…できない職種も

臨機応変の子連れ出勤ができない職種もある。

省庁に勤務するCさん(2児の父)は「セキュリティゲートもあるし、執務室に子どもは入れないと思います。年に一度の子ども霞が関見学デーも親は有給休暇を取らなければいけないですし。文部科学省内に保育園がありますが、朝のラッシュ時に赤ちゃんを連れて行くのは大変なので、利用している知人はいません」と話す。

金融関係の企業に勤めるDさん(1児の母)は、「もし職場に連れて行って、赤ちゃんがパソコンのキーを押してしまってトラブルになったら…。お客様の立場を考えるとできません」。

看護師のEさん(2児の母、週4日勤務)は集中治療室の担当。「子連れで仕事…なぜそんな苦行を?って思いますし、不可能です。時間内は精いっぱい仕事して、引き継ぎます」

子連れ無理だが子育て社員に配慮

経営者のFさん(従業員はパート含め約60人、2児の父)にも聞いた。「子連れ出勤は進みにくいと思います。残業規制が厳しくなり、労基署の査察が多い中、大手でない企業はその対策だけでも手一杯。食品や細かい商品を扱っている店舗・職場もありますし、安全に子連れ出勤できる体制を整えられません」

子育てに理解がないようにも受け取れる意見だが、Fさんが以前から子育て中のスタッフに配慮する様子を聞いてきた。スタッフの子どもの病気など、緊急時は気持ちよくカバーし合える人員がいるという。

「最近、小学校1年生の子を持つお母さんから退職の申請がありました。子どもを見てくれたおばあちゃんが施設に入るので、繁忙期の残業ができなくなったと。私は介護や育児による離職を防ぎたいので、残業なしの定時出退勤にして他のスタッフにも理解を求めました」

このような例もあり、「子連れNG」イコール「子育てに理解がない職場」とは言えない。

メディア「寛容でも気配りは必要」

子連れ出勤が歓迎される業界はどうだろうか。

SNSで「 #子連れ会議OK 」のメッセージを出しているのは、クリエイターやメディア関係者が多い。出版社をいくつか経験し、現在はウェブメディアで働くGさん(編集者、3児の父)は「出版社時代、平日に子どもを連れて行った日もあります。忙しい週刊誌の編集部は無理でしたが、書籍の編集部は人数も少なくてコンセンサスが取りやすかった。著者との打ち合わせなど大事なときは連れて行きませんでした」。

現在、勤めるメディアは子連れ歓迎の職場。学校が休みの平日、保育園が休みの休日など、2人を同伴することもある。「海外の議会は子連れOKだと以前から知っていて、ありだと思います」とした上で、こう語る。

「出版やメディアは寛容なほうです。業種によって、子連れ出勤は一足飛びには実現しないでしょう。『連れてきて当たり前、何が悪いの』という開き直りはできません。私も人数の多い会議に子連れで出る際は編集長の了解を得たり、事前にお知らせしたり、気を配っています。コンセンサスは必要でしょうね」

「子の病気で欠勤」も問題

私は昨年まで、新聞社に勤めていた。不規則な勤務の取材部署が長かったが、時間が決まっているシフト勤務の部署も経験。現在はフリーで仕事している。

独身のころ、夕方から夜中にかけて勤務する部署にいた時期がある。担当ページが決まっていて、休めばサブ勤務の人がカバーする体制はあった。ある日、女性の先輩が子どもを連れてきて隣に座らせていた。迷惑という感じはなかったが、賛否はあったと思う。「夫が単身赴任で、夜に1人で留守番させられない」と聞き、私はそうなのかと自然に受け止めた。

私が育児休暇を経て職場に戻ったときは、経験の浅い職種でシフト制の部署だった。出勤という点では、子どもの病気のときが大変だった。毎月のように保育園で病気をもらってきて熱を出し、少なくとも1週間は休み。親が出勤するために病児保育を利用したが、料金が高く手続き上のストレスもあった。私も娘から病気がうつり、看護休暇や有給休暇もすぐなくなる。

慣れない職種、初めての子育て。身内は遠方・高齢で頼れず、夫は長時間労働。娘が熱を出すたびに心身が凍り付く恐怖を感じた(「子どもの病気がこんなに多いなんて知らなかった」日経DUAL)。仕事の評価が低くなり希望の職種にも戻れなかった。神経をすり減らし、職場に居づらくなって退職した。

シリアの難民家族に取材したとき、同席した娘が男の子に絵を描いてプレゼントした
シリアの難民家族に取材したとき、同席した娘が男の子に絵を描いてプレゼントした

フリーランスは自由なのか

保育園に入園時は、夫婦フルタイムの会社員で夫が海外に単身赴任していたため、優先ポイントがあって入れた。独立した後は、毎日の仕事内容を報告し、成果や証明書を提出。幸いにも、夜間の延長保育や土曜保育を含めて継続できた。友達や先生が大好きな娘にとって、大事な生活の場になっている。

フリーだと保育園から帰った夜や早朝、土日も境目なく仕事をしてしまい、意外と自由ではない。ずっとフリーランスのクリエイターからは「自由がきくと見なされ、保育園に入れなくて赤ちゃん連れで仕事に行く」「子どもがそばにいたら集中できない」との声も聞く。

私は赤ちゃん連れで様々な場に行く経験もした。夫の関係で、生後7か月の娘を私1人でアジアの都市に連れて行った。飛行機で泣かないか緊張し、隣の席の人に「うるさくしたらすみません」と声をかけたら、「僕が見てあげますよ」と言われてどぎまぎした。

一方で、海外のホテルのラウンジで娘が泣き続けるとスタッフに注意された。娘の健康や衛生面は大丈夫だったが、周りへの気配りはいるし、必ずしも歓迎してもらえるわけではないと知った。

取材に子連れ、親は冷や汗

娘が5歳になり、状況によって取材に連れて行くようになった。先日、週末の夜の取材に連れて行った。応援してきたホームレスのダンスグループが公演をするため、練習におじゃまして撮影したり話を聞いたりした(「ホームレスのダンスグループ、多様な生き方を発信」GARDEN)。事前に主催の男性に「夫が仕事なので娘を連れて行きます。うるさくしないと思いますが気をつけます」とメールした。

娘は「待っていられる」と約束し、本を読んだりお絵かきしたりしたものの、30分もするとむずむず。メンバーのおじさんたちと踊り出した。やさしくしてもらったが、パイプ椅子を引っ張ってきて危ないし、公演前の大事な練習時間を奪うのは心苦しい。

私は「大事な練習なんだよ」と娘に言い聞かせた。先方に「怒らなくていいですよ」「この後、インタビューもどうぞ」と言っていただいたが、親としては冷や汗だった。電車で連れて帰るため、早めに切り上げて急いで帰宅し、いつもと同じぐらいの時間に寝せた。

相手の事情に合わせて同伴

取材先には様々な事情がある。妊娠・出産に問題を抱える人、病気や障害のある家族がいる人も。「子どもは好きだけど限られた時間でじっくり話したい」という人もいる。

この夏、ドイツに娘を連れて行ったときも先方の状況を考えた。障害者の作業所を訪ねるときは、細かい道具が多いし、通訳が必要で集中して話したかったので、娘と夫で動物園へ行ってもらった。

シリアからドイツに来た難民ファミリーの取材は、娘も同席してシリアの末っ子と一緒に絵を描いて楽しんだ(「シリア人の27歳は臨月で3人の子を連れ、難民ボートに乗った」ハフポスト)。

在宅ワーク・フレックスなら?

では、在宅ワークやフレックス勤務ができる職場なら、子連れ出勤は必要ないのだろうか。

シンクタンクに勤める研究員のHさん(2児の母)は、フレックス制の勤務で在宅ワークも可能。職場にはシングルマザーや、夫が海外出張が多くて助けを得られないママもいるという。

「小学生になると長い夏休みが大変。会議がある日は連れてくる同僚もいますね。個人的には、赤ちゃんを職場に連れてくるのは誰もハッピーでないと思います。周りも気を遣うし、ママにも赤ちゃんにも負担がかかる。他のメンバーが協力して電話やスカイプ会議もできますし、連れて来なくてすむ方法を探ります。ある程度育って、職場で待っていられるならいいのではないでしょうか」

子どもの病気や夏休みの対応に悩む親は多い(娘がインフルエンザの療養中に作った折り紙のリング)
子どもの病気や夏休みの対応に悩む親は多い(娘がインフルエンザの療養中に作った折り紙のリング)

選択肢があれば親の安心に

最後に、子連れNGの大きな企業と、OKのこじんまりした会社の両方を経験しているIさん(3児の母)に聞いた。

「子連れ出勤も可能、という選択肢があれば。実際は連れて行かないかもしれないけど、『いざとなったら連れて行ける』と思うと母親の精神的な安定につながると思います」

大企業で働いているころ、上司に子連れで出勤していいか聞いたらダメと言われたという。「女性の管理職が3割を超えている会社なんですが…。今の会社は、小学生の長女を連れて行く日があります。夏休みに毎日、親の都合で学童保育に行かせるのは罪悪感があるんです」

だが、気は使う。「周囲に子どもがいる人がいないので、こわごわ連れて行っています。毎日は悪いなと思うし、お客さんが来て子どもがいるとぎょっとされる。ぎょっとされない世の中になったらいいですけど」

海外で働いた経験があり、3児を育てるパワフルなIさんも「赤ちゃん連れは難しいかもしれませんね」という。「職場でおむつ替えや授乳の場所をすぐには整備できない。家が遠い場合、夜遅くに電車に乗せるのはかわいそう。小学生以上なら子連れ出勤も可能だと思います。うちも保育園児の下の子連れは厳しい。幼児は、幼稚園が振替休日の日だけとか限定ならいいかもしれません」

「いいか悪いか」単純ではない子育て

【ふだんは子どもにとって大切な居場所であり親も安心できる保育園に預けられて、子どもが病気したら親が在宅ワークを選択できる。どうしてものときは、職場に連れて行ってもいい。子どもが連れて行ける成長段階・状況なのかは、よく知っている親が判断する】

Iさんと話していて「こういった選択肢があったらいい」と意見が一致した。さらに必要なときは、安心して預けられる関係の人がいたらもっといいだろう。子どもの命を預かり、右往左往している親からすると、「子連れ出勤がいいか悪いか」と単純に論じられるのは違和感がある。

念願の保育園に入れても、病気のときは保育園に行けず親の出勤に影響する。乳幼児はひんぱんに病気をすると知らない管理職も多い。お金を払ったら簡単にシッターやサポーターが来てくれるわけではなく、手続きして探してお願いするのも一苦労だ。

職場が「子連れウエルカム」ではない場合にも、事情がある。お互いの状況を想像すれば、少しだとしても理解につながるかもしれない。子育てをいろいろな方向から見て、どんなサポートが必要なのか探ることが大事だと、改めて考える機会になった。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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