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「それがどれだけ苦しいことなのか」。エド・はるみが語る“一発屋”の苦悩、そして今の自分

中西正男芸能記者
今の思いを語るエド・はるみさん

 “グ~”で2008年に新語・流行語大賞を受賞したエド・はるみさん(58)。日本テレビ系「24時間テレビ」のチャリティーマラソンランナーも務めるなど一躍時の人となりました。しかし、周囲の変化に葛藤を覚え、16年からは慶應義塾大学大学院のシステムデザイン・マネジメント研究科へ。ネガティブな気持ちをポジティブに転化させる研究を続け、その発露として人間関係を疑似体験できるカードゲーム「シンパサイズ」を6月28日に発売することになりました。一気に注目されたからこその苦悩、そしてそこからの再生とは。

“一発屋”というレッテル

 一生を通じて何もなく順調に終われる人なんてほとんどいない。何かしらトラブルがあって、気持ち的にも波がありながら暮らしている。むしろ、それが普通なんだと思います。

 私も、元気を出したくても出せない時がありました。

 2008年に“グ~”をやって、そこから“一発屋”というレッテルを張られました。他のネタをしたくても「それは要らないです」と言われ、いつも同じことをする。

 求められることをするのがこのお仕事だとは思います。ただ“一発屋”というカテゴリーに入れられると、こちらの行動が極端に狭められる。

 それを体験してきた中で“一発屋”という言葉は一つの差別用語だと思うようになりました。そもそもの母数が少ないのであまり問題視はされてないだけで。

 しかも「お笑いだったら笑われてナンボだろう」という考えが問題の根本をさらに見えにくくしている。それも感じたんです。

 誰かを貶めて笑う。それがそもそも健全ではない。私は、そう思うんです。もちろん、そこに愛があったり、信頼関係があったらまた別なんですよ。そうではない中で「あの人は一発屋だからね」とカテゴライズされる。

 それがどれだけ苦しいことなのか。私を含め、そこは結構な割合の人がそう感じていたと思います。職業柄、声をあげにくかっただけで。

目指さないと進まない

 近年、人を傷つけないこと。やさしい笑いが意識されるようになってきました。私はこの流れは歓迎すべきものだと思っています。

 もちろん、ここにもいろいろな考えの方がいらっしゃるでしょうし、これだけが正解というものではない。

 この問題だけでなく、急にどちらかに話が振れ過ぎると、また逆の作用が生まれるところもあります。慎重に考えるべき領域だとは思いますが、いたずらに人を傷つけて笑いにする。その割合が減っていくならば、私としては良い流れだなと。

 お笑い論みたいなところを私が云々する気はないですし、それぞれの思いがあるところだと思いますが、誰かが陰で泣いている。それが減っていく世の中であってほしいとは強く思います。

 誰もが「生きてて良かった」とか「楽しい」「うれしい」と自然に思える社会。そこを目指す。難しいことですが、目指さないと進まない。その思いの一つの出し方として考えたのがゲームだったんです。

 スタートラインは4年前くらい。大学院の中に社会問題の解決を目指すゲームの研究会がありまして。こういう形もあるんだなと。だったら、自分が普段から感じているものをそこに投影できないかと思ったんです。

 2020年のコンペで私の案が賞をいただきまして、それが今回ありがたいことに形になった。そういう流れだったんです。

 ゲームの中身としては人間関係、コミュニケーションで遊ぶものなんですけど、なぜそんなゲームにしたのか。

 生意気な言い方をすれば、人生って全てが本番なんですよね。しかも、いきなり本番。そこでかわしたあいさつとか、ちょっとした反応とか、そういう一瞬一瞬が全てリアルで、やり直しがきないものになっている。

 全てがうまくいけばいいんですけど、なかなかそうはいかないじゃないですか。悪気がなくても、違う印象を与えてしまったりもする。それが人間関係の難しさでもあると思うんです。

 それを考えた時に、ゲームだったらやり直しがきく。リセットができる。全てが本番の人生の中で、ゲームならリハーサルができる。そう考えたんです。

 リハーサルだから、失敗してもリスクはないけど経験は残る。そうすることで、少しでも前向きなものが増やしていけないかなと。

 実際の社会でも、車で言えばガソリンスタンドのように、そこに行けば元気がチャージできる。そういうスポットを駅前ごとに作るとか、そういうことも今後できないかと研究しているところです。

幸せになるために生きている

 しんどい時こそ、目線はうつむきがちになりますし、視野が狭くなってしまう。私の場合は、大学院に行くことで視野が広がったと思います。

 基本的に自分のいる場所は変わってないんですけど、今まで森の中で下ばかり見て暮らしていたところ、木に登って上から景色を見ることで「あ、周りはこうなっていたのか」と気づくことができる。ここが一番大きなことだったなと。

 簡単に言うようなことではありませんけど、いろいろな経験をしたからこそ、今の思いがある。それもまた事実ではあると思います。

 若い頃は自分のことを中心に考えてたんですけど、もうこういう年齢になってきたので考え方が変わってきました(笑)。

 みんな幸せになるために生きてるんですから。そのために何か自分にできることはないか。そこをこれからも求めていきたいと思っています。

(撮影・中西正男)

■エド・はるみ

明治大学卒業。慶應義塾大学大学院SDM研究科修士課程修了。17歳で映画デビュー。女優として舞台やドラマ、CM等で活動を続け、05年に笑いの道に転じ吉本興業の養成所東京校に11期として入学。06年卒業と同時に「エンタの神様」などに出演。08年「さんまのまんま」で“グ〜”のギャグで注目され、同年「24時間テレビ」のマラソンランナーとして当時の最長113kmを完走した。同年持ちネタの「グー!」で流行語大賞を受賞。10年に一般男性と結婚。16年、前述の大学院に合格し入学。ネガポジ反転について研究し、18年3月には修士号を授与された。その研究成果として著書「ネガポジ反転で人生が楽になる」を上梓。19年には「第104回二科展」で初出品ながら絵画部門で初入選。翌回も選出され2年連続入選を果たす。そのほか落語で初舞台、ホノルルでトライアスロン完走。又、大学院にて約2年かけて独自に開発し、20年にコンペティションで賞を受賞したカードゲームが、「シンパサイズ」として22年6月28日発売される。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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