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「仕事量10分の1」。新型コロナ禍で彦摩呂を襲った二つの不安と再生の道

中西正男芸能記者
新型コロナ禍での葛藤、不安を語る彦摩呂さん

 「宝石箱や~」などのフレーズを駆使し、グルメリポーターのトップランナーとして走り続ける彦摩呂さん(55)。飲食店でのロケが中心の仕事ゆえ新型コロナ禍はまさに死活問題となりました。実際に仕事量が「10分の1」になった中で心を支配した二つの不安。そして、そこから見出した再生の道とは。

スケジュール真っ白

 2020年4月、緊急事態宣言が出て飲食店の皆さんがストップすると、僕の仕事も一気に止まりました。

 僕らみたいな仕事は飲食店さんと運命共同体ですから。お店が閉まればロケができません。2019年の仕事量を100とすると、2020年は10もなかったと思います。10分の1です。スケジュール、ホンマに真っ白でした。

 必然的に自宅にいることになるんですけど、朝起きてリビングのソファに座ったらもうそこから動かないんです。気づいたらそのまま夜。そんな日々でした。

 心が動かないというか、出てくるのは不安ばっかりやったんです。まずは「このまま仕事がなくなってしまうんじゃないか」という不安。これが常にずっしりのしかかってきました。

 あと、つらかったのが「誰もがグルメリポートをやる時代になった」ということです。コロナ禍でさらに加速したYouTubeなどの映像文化の高まりで、芸人さんやタレントさんのみならず、一般の方も何かを食べて味の感想を話すことがいとも簡単にできるようになった。

 この二つの不安が妙な相乗効果じゃないですけど、どんどん心の中で膨らんでいきまして。心も体も動かなくなっていったんです。

ピンマイクで涙

 ただね、今もコロナ禍の中ですし、こんなことは簡単に言うことではないんですけど、そんな中でも感謝することがありました。

 というのはね、東京の新橋、有楽町のあたりに全国各地の地方局の東京支社が集中しているんです。コロナ禍で県をまたぐ行き来はしにくかったけど、そこなら行くことができる。マネージャーが一社一社を尋ねてあいさつ回りをしてくれたんです。「また機会がありましたら、彦摩呂を何卒宜しくお願いします」と。

 もちろん、コロナ禍ですから人と会うこと自体がはばかられる部分もあって、なかなかご挨拶にあがれないところもありました。ただ、大変好意的に迎えてくださるところもたくさんありましたし、会いにくいけど資料だけでもいただけますかと言っていただけるところもあり。そんな状況ながら、まわってくれたんです。

 その結果、少しずつロケができるようになってきた中で、これまで行かせてもらったことがなかった放送局さんからもお話をいただくようになったんです。

 まだ100には戻ってませんが、今年に入っての感触でいうと、70~80にはなっていると思います。本当に、本当に、ありがたいことです。

 そんな経緯で久々にロケに行かせてもらって、自分でも驚きました。収録前に音声さんがこちらの胸元にピンマイクをつけに来てくださるんですけど、その時に、あれは何なんでしょうね…。涙が込み上げてきたんです。

 ナニな話ですけど、これまでは毎日のようにマイクをつけてもらい、そこに特別な感慨はなかったんですけど、そうやってマイクをつけてもらえる喜び。日常のありがたさ。そんなところが一気に込み上げたんでしょうかね。

 これまでももちろん一生懸命にお仕事をさせてもらっていたんですけど、そんな胸いっぱいの思いでロケにあたるからか、番組の視聴率も軒並み記録的に良い数字になったんです。マネージャーがまいてくれた種が花を咲かせ、実も結んだ。

 …なんかね、カッコつけるわけじゃないんですよ。スマートフォンでもアップデートしてる時は画面は動かないし、使えない。携帯電話としては止まっている。でも、携帯の中では全力で生まれ変わろうとしている。

 自分もコロナ禍で止まってしまいましたけど、そこで何をするのか。これこそ、そんな簡単なことではないし、飲食店の皆さんや影響を受けてらっしゃる方々のご苦労を考えたら軽々しくは言えませんけど、希望を捨てたらアカン。言い古された言葉ですけど、それを今一度痛感しました。

一番うれしいこと

 僕ね、ロケに行ったら、それこそ「宝石箱や~」みたいなけったいなコメントをしてます(笑)。「それでは味が分からんがな」と言っていただいたりもしますけど、それを彦摩呂の代名詞的に言っていただくこともある。

 それはもちろんタレントとしてはうれしいことです。でも、一番うれしいのは僕が行ったお店にお客さんが行ってくれることです。ものすごく基本的なことですけどね、ホンマにそこに尽きるんです。

 「彦ちゃんが行ってたから今度食べてみよう」「おいしそうだったから、行ってみよう」。いかにその流れを生むか。それができたら報われる。あくまでも主役はお店であり、お料理です。そこに集約されます。

 それを心がけてきて、横柄な言い方ですけど、それが少しずつでも伝わってきたのか、今は食レポする人が増えた中で、そこに先生的に教えさせてもらうお仕事をいただくようにもなってきました。

 食レポする人が増えるということは、いわばライバルが増えることでもありますけど、また別のビジネスチャンスを生むことにもなる。動いていれば、動き続けていれば、チャンスはある。それも実感として思うところです。

 ホンマにね、いろいろな流れに感謝しかないんですけど、一つ意外というか「そこはそうならんか」ということもありまして。

 仕事がなくなってたくさん食べる機会が減ったら痩せるのかと思いきや、これがね、痩せないんです(笑)。家で動かなくてもね、勝手にお腹は空くんです…。

 だから、今も体型が変わらないので、体調を心配されたりもするんです。もちろん、体型としてはメタボですし、膝に負担もかかるし、痩せた方が絶対に良いんですけど、血液検査をすると本当にどこも悪くないんです。ホンマの話。

 いろいろな思いを今日はお話しさせてもらいましたけど、ここはとりわけ強く、できたら太字で書いておいてもらいたいくらいのところです(笑)。

(撮影・中西正男)

彦摩呂(ひこまろ)

1966年9月15日生まれ。大阪府出身。本名・原吉彦。太田プロダクション所属。アイドルグループ「幕末塾」としての活動を経て、タレントに転身。自身のキャラクターを生かしてグルメリポートの分野を切り開いた。「宝石箱や〜」など独特の表現方法でオンリーワンの地位を築く。舞台「リプシンカ ~ヒールをはいた男⁉たち~」(作・演出、仲谷暢之)に出演。共演は室龍太、高汐巴、松浦景子(吉本新喜劇)ら。大阪公演はCOOL JAPAN PARK OSAKA TTホールで6月17日~19日。東京公演は博品館劇場で同22日~26日。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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