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「今死んでも悔いはない」。「リットン調査団」水野透61歳が貫く流儀

中西正男芸能記者
61歳で歌手デビューすることになった「リットン調査団」の水野透さん

 「バッファロー吾郎」、ケンドーコバヤシさん、「笑い飯」ら多くの後輩芸人から慕われるお笑いコンビ「リットン調査団」の水野透さん。約20年前にコントの中の曲として作詞・作曲した「はつ恋」が4月15日に配信リリースされ、61歳で歌手デビューすることにもなりました。自らの信念を貫き通してきた芸人生活。「今、死んでも何の悔いもない」という言葉に映る生き様とは。

手を抜かずに生きる

 時々思うんですけど、今、何かの拍子に死んでも「いい人生だったな」と感じると思います。

 今も売れてないですよ。ブレークなんてしないまま来ました。だけど、好きな世界に入って、好きなことをさせてもらって、イベントにお客さんが来てくれて。

 もちろんつらいこともありますけど、トータルで考えた時に何の悔いもない。そう思える道のりでもありました。

 まさか61歳で歌手デビューさせてもらうなんてことも、夢にも思ってなかったですから。そんなことがあるのも、この仕事の面白いところであり、ありがたいところだと思っています。

 そもそも曲の発端となったのは、YouTubeチャンネル「街録ch~あなたの人生、教えて下さい~」だったんです。そこに出演した時に、ディレクターさんと話をする中で昔作った曲の話になったんです。

 20年ほど前にやったコントイベントでコミックバンドのネタをやりまして、その中で一曲まじめにというか、自分が小学4年の頃に体験した初恋について綴った曲があると。そこにディレクターさんがすごく興味を持ってくださって「それを曲としてリリースしましょう」となったんです。

 作った時は38~39歳だから、もうオッサンにはなってるけど、まだ青春のカケラを歌っても成立する年齢でしたけど、もう還暦も過ぎてから小学4年の初恋を…って、何を歌ってんねん!と(笑)。

 そんな思いもありましたし、そもそも、そんなために作った曲でもないのでお断りをしたんですけど、ディレクターさんが本当に粘り強く背中を押してくださいまして。実際に出させてもらうことになりました。

 今回もそうだと思うんですけど、これを目指してやっていたわけではなく、その都度手を抜かずに生きていたら何かが起こる。誰かが見てくれている。それが自分がこの歳まで芸人をやってきた一番のポイントだったんでしょうね。

 今だったら「次は古希に向けてこれをやろう」みたいなことを考えるのではなく、全ては通過点。いつまでも疾走感を持っておく。そこかなと。

 特に、今は昔と違って60歳だからといって芸風が落ち着くということがない時代です。「ダウンタウン」さんにしても、さらに上の明石家さんまさんにしても、走りっぱなしです。

「今はまだ人生を語らず」

 あと、これも本当にありがたいことですけど、後輩たちが支えてくれているのが大きいです。こんなんを自分で言うのはアレですけど、よく後輩が言ってくれるのは「この人たちは、自分たちの好きなことを思いっきりやっている」と。

 ウケないと分かっているのに、思いっきり球を投げる。確かに、それはやり続けてきましたね。「今、これをやりたいんやから仕方ないやろ」と(笑)。

 王道の笑いをやる人はいくらでもいますから。ある時から悟るわけですよ。NGKのトリを務めるような芸人にはなれるはずがないと。それならば、とことん好きなことを貫く。それをホンマに貫いてたら今になってました。

 若手の頃、劇場を女子高生のお客さんが埋め尽くす中、プロレスやアニメ、下ネタてんこ盛りのネタをするわけです。オモロイことを言うてるはずなんですけど、そもそも女子高生の口には合わない“料理”ですから。誰も手を付けない。

 なので、アクセントとして、少しずつ女子高生も好きそうなところをちょっとずつエッセンスとして入れたりもしたんです。なんとか、ネタを見続けてもらうために。でも、結果的にそのエッセンスのところだけほじくって、見てもらいたい本体の料理は手つかず(笑)。そんな毎日でした。

 そんな姿を見て、若かりし日の後輩たちが、先生的に思ってくれた部分もあり、反面教師にしていたところもあり。そんな感じだったと思います。「さすがに、あそこまで振り切ったらウケへんねんな」となかなかいないテストパターンやったとは思いますので(笑)。

 吉田拓郎さんのアルバムで「今はまだ人生を語らず」(1974年)というのがあるんです。僕は拓郎さんが本当に好きで、実は今回の曲も拓郎さんの曲へのオマージュというか、歌詞の世界観もほぼそのまま拓郎さんみたいなところもあるんです。

 それくらい心酔してるんですけど「今は人生を語らず」というのが、今さらに自分の考えと合致するというか、疾走感を持っておきたいという部分にも重なってくるんですよね。いつまでも本当に走っておきたいなと。

 ただ、体は正直ですからね…。この前も、重いものを運ぼうと思って「これはアカン」と思ってピキッと来る前に荷物を置いたんです。それでも、3日ほど腰痛でバキバキでしたから。ま、そんな現実もありますけど、なんとか走り続けたい。それは思っています。

(撮影・中西正男)

■水野透(みずの・とおる)

1960年9月18日生まれ。大阪府出身。桃山学院大学のプロレス同好会で出会った藤原光博と86年に「リットン調査団」を結成。プロレス、アニメなど自らの信念を貫く独創的なネタで存在感を示し、「バッファロー吾郎」、ケンドーコバヤシ、「笑い飯」など多くの後輩芸人から慕われる。約20年前にネタの中の曲として作詞・作曲した「はつ恋」が4月15日に配信リリースされ歌手デビュー。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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