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マレーシアから日本へ。そして、極貧生活から医師へ。山分ネルソンが示す日本の可能性

中西正男芸能記者
これまでの道のり、今の思いを吐露する山分ネルソンさん

 マレーシアで生まれ育ち、18歳で来日して産婦人科医になった山分ネルソンさん(48)。文化人として吉本興業に所属し、4月3日からABCラジオ「月曜から元気に!Powerful Monday」も始まります。貧しい生活への失望感から日本を目指し、まさにゼロから今の状況をつかみ取りましたが、その中で体感した日本の可能性とは。

このまま終わりたくない

 マレーシアで生まれまして、親は屋台でお菓子を売る仕事をしていました。家はものすごく貧乏でした。

 親はさらに貧乏なところで育っていて、父は小学校を2年で中退。母は学校に行ったことがなかったので読み書きと計算ができなくて、一歩家の外に出たらバスの時刻表も見ることができない。

 苦労を間近で見ていましたし、何とか頑張って高校までは卒業しよう。そう思って子どもの頃から暮らしていました。

 もともと勉強は得意ではなかったんですけど、中学で化学の先生とすごく相性が良くて、頑張って勉強したら学年トップになったんです。化学がトップになれるなら他も頑張ったらできるのではと思って、少しずつ勉強していった感じでした。

 そして、18歳で高校を卒業する時に思ったんです。「このまま一生貧乏な家で、貧乏な環境で終わるのは悔しい。このまま終わるくらいなら、飢え死にしてもいいから海外に行ってみよう」。そして日本を目指したんです。

 マレーシアにも日本の製品がたくさんありましたし、これだけ優れた製品を作る国はどれだけ大きいのだろうと思ったら小さな島国だった。そして、戦争の後は本当に何もないところから始まって、数十年で世界でもトップの豊かな国になった。そんなすごい日本人を見てみたい。そう思って、行先に日本を選んだんです。

 両親に借金をしてもらい成田空港までのチケットを片道分だけ買いました。それが1992年の3月19日。なので、日本に来て丸30年が経ちました。

 日本に来た時は日本語も全くしゃべれなかったので、日本語学校に行って勉強するところから始めました。そのお金も作らないといけないので、死ぬほどアルバイトはやりました。

 日本に来た頃から、なんとなく医学への興味はあったので医師ということも考えはしたんですけど、日本語を覚える。アルバイトをする。それをやるのに必死で、とてもじゃないけど、医学部に行く勉強もできないし、お金をためることもできない。そう思って一旦あきらめたんです。

 ただ、そこから北海道大学の薬学部に入って薬剤師の資格は取ることができました。

 大学に入らないと不法労働者として逮捕されて強制送還される。最悪、そうなってもいい。そうしてでも、お金だけ稼いで両親の借金を返す。そんな思いもあったくらいなんですけど、ラッキーなことに大学に受かり道が変わりました。

 薬剤師の資格を持っていたら、それで食べていくことはできると思ったんですけど、やっぱり医師への思いがあきらめきれなかったんです。

 挑戦せずにあきらめるのは悔しすぎる。とにかくやるだけのことはやってみようと思って勉強して、大阪大学の医学部に受かりまして医師免許をとったんです。

 そこから病院勤務を経て、結婚もして、子どもも3人授かり、さらに人の縁に恵まれて大阪の十三というところにクリニックも開院することができました。

日本の可能性

 日本に来て30年、今でも日本ほど素晴らしい国はないと思っています。

 上から目線で本当に申し訳ないですけど、一番残念なのは「日本の素晴らしさに日本人が気付いていないこと」やと思っています。不平不満、愚痴もたくさん聞きますけど、それは日本のいいところを気づいていないだけやと思うんです。

 小さなことかもしれませんけど、成田空港に降りた時トイレを見て「公衆トイレがこんなにきれいなのか…」とまずそこで心底驚きました。

 2018年に大阪北部で大きな地震があった時も、涙が出ることがありました。クリニックがある十三でも電車は止まって、バスはなんとか動いている状態でした。

 バス停には長蛇の列ができていて、6月の暑い日だったので、2~3時間並んでらっしゃる方もいる。脱水症状になってはいけないと思い、昼休みにコンビニで水を買って配りに行ったんです。

 そうしたら30代くらいの男性が「お水は大丈夫です」と断られたんです。何かあったのかと思ったんですけど「向こうの列に並んでいる人たちはこちらよりも1時間以上長く並んでいるので、良かったらあちらから渡してもらえたら」と。

 その瞬間、本当にすごいなと思いました。我先に「こちらにくれ!」となりかねないところで譲る。これが日本人本来の姿なんやろうなと思いました。

 最近はSNSなどで言葉の刃みたいなことも言われます。ひどい言葉を投げかける人が多くなったとも言われますし、それは良くないことでもあるんですけど、裏側には日本人の礼儀正しさや寡黙さがあるのかなとも感じます。

 すごく礼儀正しい。そして、人が嫌がるようなことを言わない。そのベースがある中で抑圧されている部分もあった。それが匿名性が担保されている中で、変に弾けているということなのかなと。

 もちろん、それで傷つく人がいるしダメなことなんですけど、そこにも日本人の良い特性が関係してしまっているのかなと思います。

 以前、選挙に立候補して、結果的には落選したんですけど(笑)、街頭演説をしている時に若い男性が足を止めてすごく感動してくださったことがあったんです。

 日本語もしゃべれない。お金も全くない。知り合いもいない。その僕が日本に来て、大学に入って、医師になって、たくさんの人に支えられながら暮らせている。日本は死ぬ気で頑張れば、夢が実現できる国だと思います。実際、僕はそれを体感してきたので、きれいごとで言っているわけではなく、本当にそう思う。

 そんな演説をしていたら、こちらの言葉にすごく響いてくださって。選挙はダメでしたけど、もし日本に恩返しできることがあるとしたら、そういうことを伝えていくこと。それも一つのやり方なのかなと思っています。

 僕のクリニックには「希咲」という名前をつけたんですけど、そこには「日本という国は、希望が咲く国」という思いを込めました。

 いろいろな方からメディア出演のお話をいただくようになったのも本当にありがたいことだと思っています。その中で、窓口として吉本興業にお世話になることにもなって、少しでも日本の良さを日本の人に感じてもらう。そんな活動ができればなと思っています。

 いくつか芸能事務所からお話をいただいたんですけど、一番こちらの取り分が少ないのが吉本興業でした(笑)。ただ、こうやってたくさんの人に伝える機会ももらえますし、一つ一つすべてを大切に、これからも頑張っていこうと思っています。

(撮影・中西正男)

■山分ネルソン(やまわけねるそん)

1973年9月9日生まれ。マレーシア出身。本名・山分ネルソン祥興。貧しい家庭に育ち、92年に18歳で来日。ゼロから日本語を学びながら、北海道大学薬学部、大阪大学医学部を経て産婦人科医となる。現在は大阪・十三で「希咲クリニック」の院長を務める。吉本興業とマネジメント契約を結び、読売テレビ「朝生ワイド す・またん!」などメディア出演多数。また、4月3日からABCラジオ「月曜から元気に!Powerful Monday」(日曜、深夜12時)がスタートする。先月、キックボクシングのジム「kick box style 十三」もオープンさせた。家族は妻と3人の子ども。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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