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「人は幸せになるために生まれてきた」。綾小路きみまろを衝き動かす信念と引き際の覚悟

中西正男芸能記者
新型コロナ禍での思い、そして、自らの「終わり」について語る綾小路きみまろさん

 毒舌漫談で“中高年のアイドル”というオンリーワンの地位を築いた綾小路きみまろさん(71)。50歳を過ぎてブレークし約20年走り続けてきましたが、新著「我が家は前からソーシャル・ディスタンス」を上梓するなどさらに歩みを進めています。その中で向き合うことになった新型コロナ禍。そして、容姿イジリに厳しい世の風潮。あらゆる変化と対峙することで浮かんできた自らの引き際。今の思いを余すところなく吐露しました。

新型コロナ禍

 20代の頃からスナック、キャバレー、コンサートの司会、刑務所慰問などをやってきまして、50歳になって寄席に出るようになり、52歳で皆さんから注目していただけるようになりました。

 そこから約20年。ひたすら走り続けてきました。そして新型コロナ禍となり、否応なく立ち止まりました。以前の仕事量を10とすると今は2くらいです。

 これまではずっとバブルというか、客席数が1500人のホールなら1500人、2000人のホールなら2000人入るのが当たり前でした。

 それが今は公演ができても、各自治体のルールに則って半分ほどしか入れられない。お客さんもマスクをしている。ステージができたとしても、これまでとはガラッと様相が変わりました。

 70歳になろうかというところでの初体験でしたからね。しかも、昔のような体力はなくなっている。幾重にも不安はあります。

 でもね、逆に考えると、ずっと走り続けてきて今回初めて立ち止まったなと。そして「オレ、もう70なんだ」とも思ったんです。

 ほとんどの同級生は働いてないですから。いかに特別な状況にいさせてもらってきたのかも、立ち止まったおかげで思い知ることになりました。

 「きみまろさん、あなた、ちょっと休みなさい。今まで頑張ってきたんだから」

 そんな声が天から聞こえてきたような感じでした。

“毒舌”のモデルチェンジ

 それとね、ここ1~2年ほどですかね。人の見た目をいじらない。欠点を笑わない。そういうものが求められるようになりました。

 ただね、私の場合は最初から言われてました。“セクハラ漫談”だと。それでも、お客さんが喜んでくださり、足を運んでくださっていたんです。

 「ファンデーション、落ち着く先はしわの中」

 「ワンピース、肉に取られてミニになる」

 「中高年、デブでも手にはスマートフォン」

 ただ、最近の世の中の変化というか、笑いの質の変化というか。そこは私もね、強く感じています。

 なので、話を向ける“矢印”をお客さんではなく、自分に向けるようになりました。そこを切り替えました。

 もう自分が年寄りになりましたので「私がこんなことになっています」という自虐に持っていって、そこから共感していただく。今はそのベクトルです。

 世間知らずでガンガンやっていた時もありましたし、その頃はその頃で面白かったなと思う自分もいます。

 ただ、世の中の空気が変わりましたから。そこの意識は持っておかないと笑ってもらいにくくなる。この歳になっても、いろいろとね、考えさせられますよ(笑)。

そうなったら、終わり

 あとね、今回立ち止まったことによって振り返りもしましたし、今後についても考えました。

 今はコロナ禍でね、いろいろと“見えなくなっている”と思ってるんです。

 半分しかお客さんを入れられない。コロナ禍で気持ち的にも、お客さんがエンターテインメントをわざわざ観に行きにくい。

 そういう土壌があるから、本当の自分の人気がどれくらいなのか見づらくなっているとも思っているんです。

 みんながマスクを取って何の遠慮もなく行動できるようになった時。その世の中で「6割しか入ってないんですよ」と言われたらね、それが答えですよ。そうなったら、終わりです。綾小路きみまろという人間の時代が終わったんだと。

 今はコロナ禍というところで、そのあたりの意識がぼやかされているとも思いますし、ある意味、逃げてるところもあるんですよ。でもね、本当の自分の人気としっかり向き合う。シビアに向き合う。それをしないとダメだと思っています。

 ただ、これは本当にありがたいことなんですけど、この前、新潟でやった公演は“延期の延期の延期の延期”の末に行われたものだったんです。

 プロモーターさんに聞いたところによると、このご時世でも新潟公演のチケットをキャンセルせずに持ってくださっているお客さんが400人ほどいたと。

 そこで、プロモーターさんも「きみまろさん、私は損してでも公演をやります」と言ってくださって。皆さんの心意気が本当に沁みました。この世の中だからこそ、感じられることもあるんだと勉強させてもらいました。

 この商売は、人気商売です。人気というのは、人の気持ちと書くわけです。人の気持ちがないと生まれない仕事。それを改めて思い知らされました。

人は幸せになるために生まれてきた

 コロナ禍になって、考え方も、生き方も、みんなこじんまりとなっています。

 あらゆるものが内へ内へと向かいどんどん小さくなっている中で、何かしら心を解き放つようなことができないか。そんな思いで、今回「我が家は前からソーシャル・ディスタンス」を出すことにしたんです。本ならどこでも、一人でも、クスッとしてもらえるかなと。

 本を出すことで、またいろいろと感じることもありました。中にも書いてあるんですけど「人は幸せになるために生まれきた」。私もね、舞台ではいろいろ言ってますけど(笑)、本当にそう思うんです。

 そりゃね、生きてるといろいろありますよ。本当にいろいろある。70歳にもなると、より一層です。でも、根本は人間、みんな幸せになるために生まれてきたはずなんです。ただ、なかなか幸せを感じられないだけの話だけであって。

 幸せとはどういうものなのか。それは私も考えてますし、ネタの中でもそれを手を変え品を変え、言っているつもりでもあります。

 ネタである以上、笑ってもらわないといけないし、講話でもないのでストレートに幸せの形を説くのは違う。ひねりを加えて、自分なりの言い回しにする。それを毎日考えて、毎日書いています。これだけはずっと続けてきました。

 ただ、変わったのはね、昔は小さなメモ帳を持ち歩いて書いてたんですけど、最近はそれだと字が見えないのでコピー用紙に書いてます(笑)。

プライド

 これは私の持論ですけど、70歳になったらプライドを捨てる。それが大事だと思います。みんな、そりゃプライドはあるんですよ。でも、そこへの執着を捨てる。

 会社だとか縦社会で生きてきたところから、横のつながりで生きる世界になるわけです。70歳過ぎたら、みんな年寄りなんですよ。そうやって同じ世代の人と話すことには特別な味わいがあるわけです。そこときちんと向き合うには、妙なプライドは要らないんですよ。

 私は70歳を過ぎても、まだ働いてます。どこの現場にいっても、テレビ局に行っても、自分が一番年上です。なんなら「自分がいるのも場違いだな…」とも感じます。でも、求めていただくうちはしっかり頑張る。このプライドは持っておくべきプライドだとも思っています。

 そのために、自慢じゃないけど、エアロバイクね。あれを毎日40分こいでるんですよ。一番重たい負荷をかけて。何が何でもこぐ。何が何でもやる。その信念も捨てずに持っています。

 芸人としては、良い人生だったんじゃないかなと思います。遅咲きでしたけど。なんとか人生の後半まで花を散らさずにきましたから。花は散らないけど、アタマはカツラになりました(笑)。ま、それはそれでね、いいんですよ。

(撮影・中西正男)

■綾小路きみまろ(あやのこうじ・きみまろ)

1950年12月9日生まれ。本名・假屋美尋(かりや・よしひろ)。漫談家。落語協会会員。司会者を目指して上京。キャバレーの司会や森進一、小林幸子、伍代夏子らの専属司会者を経て、中高年の悲哀を語った漫談で50歳を過ぎてブレーク。“中高年のアイドル”と呼ばれるようになる。YouTubeチャンネルも展開中。著書「我が家は前からソーシャル・ディスタンス」(マキノ出版)を今月上梓した。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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