笑福亭銀瓶が語る師匠・笑福亭鶴瓶の核

師匠・笑福亭鶴瓶さんへの思いを語る笑福亭銀瓶さん

 師匠・笑福亭鶴瓶さんとの日々を綴った著書「師弟」を上梓した笑福亭銀瓶さん(53)。二人の生々しい関係性を描いたドキュメンタリーでもありますが、師事して33年。鶴瓶さんから言われて最も心に刺さった言葉とは。

残しておきたい

 去年4月、以前僕が本を出した出版社の社長さんと会いまして「また本を書いてくださいよ」とお声がけをいただいたんです。

 ただ、僕なんかが落語の話を正面から書くのはおこがましい。もし、書けるとしたら、自分の話なら、エラそうにならないかなと。

 落語を知らず、噺家になる気もなく、タレント志望で笑福亭鶴瓶の弟子になった。修業中に師匠から落語を提示され、そんな私が少しずつ落語に近づいていった。その中で、いろいろなこともあった。

 そんな僕の半生を通じての落語の話。そんなんやったら、興味を持ってもらえるかどうかは分かりませんけど(笑)、書くのは書けますとお伝えしたんです。

 そんなやりとりがあって、さらに、コロナ禍も続く中で、いつ何がどうなるかも分からん。そんな世の中で、僕みたいな売れてない落語家でも、何かを残しておきたい。そんな思いも出てきて、今回の本となったわけなんです。

入門の日の言葉

 本を書くということは、師匠との時間をもう一回、反芻することにもなりました。

 そうやって一つ一つ振り返っていくと「ものすごく我慢してくれてたんやろうな」と感じました。師匠も、奥さんも。

 僕は弟子としてはかなり突っ張っていたし、あからさまに不本意な態度も見せてました。もし僕に自分みたいな弟子がいたら、とっくに破門してると思います(笑)。でも、師匠はそうしなかった。

 心に残っている言葉はたくさんあるんですけど、入門した日に言われたことは大きかったですね。

 「今日からお前は在日韓国人でも、日本人でもない。今日からお前は芸人や」

 クドクド言うわけやないけど、心に残る。それが師匠の言葉であり、僕の在りようも含め、そういったものがこの言葉に集約されている気がします。

 ウチの師匠は本当に分け隔てないというか、人の外側の部分ではなく、何をするのかという内側のところで見ているんです。

 それはフラットでもあり、ある意味、厳しいことでもあるんでしょうけど、師匠自身が努力の人ですから。きちんとアクションを起こしている人なのか、怠けている人なのか。そこはすごく見ています。

適当に済ませない

 まさに、そこのど真ん中というか、いろいろ怒られてきた中でも、一番印象に残っていることがありまして。比較的最近なんですけど、2017年の秋でした。

 東京で師匠との二人会があったんですけど、チケットの売れ方が遅かったんです。

 主催はこちらだったので、師匠にはゲストという立場で来てもらう。そういうパターンで、チケットを売る責任は主催のこちらにあるわけです。

 ただ、これは、僕が甘く見ていたんですよね。「師匠と一緒やし、ま、売れるやろ」と。ところが、伸びが悪い。

 師匠も気にかけて「チケット、売れたんか?」と2日に1回くらい電話をもらっていました。まだ残っていると伝えると「そうか。それやったら、オレもインスタにあげたり、いろいろ手を打っとくわ」というやり取りが何回か続いてたんです。

 で、ある時、また電話がかかってきて、今回はいつもと声が違う。

 「お前、これ、宣伝したんか」

 全くやってなかったわけではないんですけど、正直、そこまで一生懸命にやったんかと言われたらやってないと答えるしかないレベルです。

 素直にそう答えたら、すぐに言葉が返ってきました。

 「そんなもん、宣伝せな売れへんに決まってるやろ。なんで、やるべきことをやらへんねん。必死にならなアカンよ。なんで、必死にならへんねん」

 返す言葉がなかったです。

 僕が高を括っていたのを見透かされていたのか。

 最終的にはチケットも完売し、当日も、機嫌よくやってくれたんですけど、ここで怒られたことは今も胸に染み込んでいます。

 これはね、一事が万事で、師匠は何をするにしても、全てにおいて適当に済ませないんです。徹底的にやる。

 例えば、何か人に頼みごとをするとか、御礼を伝えるということでも、直接その人に会いに行きます。人づてに伝言するとか、メールするということをしないんです。

 業界内の人に対することだけでなく、たまたま会った一般の方とのご縁も大切にして、結婚式に花を贈ったりもされています。ここが芯というか、核というか、全てを貫いていることだと僕は思っています。

 そういう姿勢が「A-Studio+」(TBS)にも表れているんだと思いますし、仕事においてはなおのことです。

 今年で70歳の、あれだけ売れてる人がそれだけ徹底しているので、師匠の前では「しんどい」という言葉は使えないんです。

 僕なんかよりも歳取ってる人が凄まじいまでのハードトレーニングしてるわけですから、どの口が「しんどい」言うてるんやと。

恩返し

 もし、恩返しなんてことがあるならば、まず、この世界でご飯を食べていけること。「あなたのおかげで、ご飯が食べられています」という事実を示すこと。これは最低限の恩返しだと思います。もちろん、もっと看板を上げることも含め。

 あと、時々、師匠から言われるのが「お前も早く弟子を取れ。取ったら、オレとか嫁さんの気持ちが分かるわ」ということです。

 確かに、僕が弟子を取ることも恩返しにつながると思います。というのも、これも師匠はよく言ってました。

 「オレがお前らを弟子に取るのは、おやっさん(故六代目笑福亭松鶴さん)に弟子にしてもらったからや。自分が取ってもらったから、取ってるんや」と。

 今残ってる弟子で言うと鶴瓶のところには12人いるんです。自分のことを考えても分かりますけど、これだけいろいろな弟子がいて、それを育てる苦労を12人分している。僕はそこが0です。

 だから、一人でも弟子を取って育てたら、それが恩返しになるのかなと。

 …だからといって「弟子、大募集!」というわけではないんですよ(笑)。来られたら来られたで、こっちにも事情というものもありますしね!

 そら、スジで言うたら、取らなアカンのですけど、そこはしっかり考えて。とはいえ、誰も来ないのも、それはそれで「そない、興味ないか」と寂しいもんですけどね(笑)。

(撮影・中西正男)

笑福亭銀瓶(しょうふくてい・ぎんぺい

1967年10月15日生まれ。兵庫県出身。松竹芸能所属。本名・松本鐘一。国立明石工業高等専門学校電気工学科卒業。88年、笑福亭鶴瓶に入門し銀瓶を名乗る。在日韓国人3世で96年に日本国籍を取得。映画をきっかけに独学で韓国語を習得し、韓国語落語に取り組む。2005年から韓国でも落語を披露し、06年にはソウルの高麗大学校などで落語会を開催。10年には文化庁文化交流使として韓国で1カ月生活しながら釜山などで韓国語落語を披露した。09年、第4回繁昌亭大賞を受賞。著書「師弟~笑福亭鶴瓶からもらった言葉~」を先月上梓した。

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。noteで「全てはラジオのために」(note.com/masaonakanishi)も執筆中。

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