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エージェント契約とバンジー&激辛。40歳を超えて「天竺鼠」が見せる生き様

中西正男芸能記者
「天竺鼠」の川原克己(左)と瀬下豊

 「キングオブコント」で3回決勝に進出するなど実力派コンビとして知られる「天竺鼠」。事務所退所など芸能事務所との向き合い方が取りざたされた昨年ですが、ボケ担当の川原克己さん(40)は吉本興業でも数少ないエージェント契約を選びました。そして、ツッコミの瀬下豊さんは41歳にしてバンジージャンプ、激辛チャレンジなど体を張った仕事で注目されるようになりました。40歳を超えて新たな道を歩み始めた二人ですが、その根底にある思いを語りました。

どんな世の中になろうとも

 瀬下:新型コロナ禍で、かなり生活も意識も変わりましたね。緊急事態宣言に伴って、劇場が閉まった時は一気に仕事がなくなりましたし。テレビに出ていれば、まだ活動できた部分もあったんだと思うんですけど、とにかくずっと家にいてました。

 劇場という吉本興業の“核”まで止まってしまった。これは本当にまさかの事態だったんで、じゃ、何をしたらいいんだろうと。

 オンラインでファンの方々と一緒にお酒を飲む「スナック吉本」という企画があって、それをやってみたりもしました。自分が配信で収入を得ることになろうとは思ってもなかったですけど、それがあって助かったのは事実です。

 そして、何かにつながればと思って野球の審判の資格を取ろうとしたりもしました。ただ、コロナで審判の講習会も中止になって。

 子どもらとゆっくり過ごすこともここまではなかったので、今は子供の成長を見る時期やと前向きな考えに置き換えてみたり。本当にいろいろと模索する時間になりました。

 川原:僕は計算があって人生計画しているタイプではなくて、これまでも行き当たりばったりで生きてきた。なので、コロナだからといって、そんなに変わらなかったんです。

 変な話、明日舞台ができなくなっても、お笑いができなくなっても、それはそれで仕方がない。それがあるのが当たり前ではない。そう思ってやってきました。

 ただ、これまではありがたいことに上がる舞台があったので、やらせてもらってきた。でも、それがなくなったら、それはそれで、そういう生き方をするだけだと。

 コロナ禍で時間ができたのは事実なので、そこでたくさん絵を描こうとはなりました。でも、これまでも時間があったら絵は描いていたので、その時間の長さが多少変わったくらいで、そこも根本としては変わってないんですよね。

 もちろん世の中としてはとても大変なことなんですけど、僕の心の中では、実はそんなに変化はないんです。どんな世の中に、どんな状況になろうとも、常にニヤニヤと面白いことを考えている部分は変わらないですし。

 瀬下:…今、メチャクチャ恥ずかしいですね。焦って動こうとしていた自分の話が完全に“ダシ”というか、フリみたいになってますけど(笑)。

そこにエージェント契約があったから

 川原:去年でいうと、僕だけ吉本興業とエージェント契約をしました。(2019年の闇営業騒動を経て)契約方法をもう一回見つめ直そうという中で、3つの選択肢があったんです。

①これまで通りの契約。

②それをさらに強くした感じの専属マネジメント契約。

③仕事先との折衝も自分でやって、必要に応じてマネージャーも自分で雇うエージェント契約。

 これも、まぁ、目の前にエージェント契約の契約書という新たなものが来たからという。そういうものがあったから、そうしたということなんです。

 瀬下:「極楽とんぼ」の加藤さんとか、たむらけんじさんとかごく一部の方はエージェント契約をされてるんですけど、ほとんどいないパターン。なので、吉本の偉い人からも「なんでや?何か理由があるんか?」と何度も聞かれてたみたいで。

 川原:「エージェント契約がそこにあったから」というのが本当に本当の理由なんですけど、なかなかそれでは伝わりにくいので「3種類の契約書の上でおしっこして、一番多くおしっこがかかったのがエージェント契約だった」とか、いろいろ考えもしたんですけど…。

 瀬下:それ聞いて、誰が「なるほど…」と納得すんねん。

 川原:結果「吉本は実家みたいなものだと考えています。そこを出て一人暮らしをしてみて、実家の意味をより知ろうと思いまして」とお伝えしました。イチかバチかでもっともらしいことを言ったら(笑)、エライ方が「なるほど、そうやったんか…」となってくれまして。

 ま、でも、本当に吉本側も純粋に心配してくれてたんですよ。エージェント契約になったら、本当に大変だよと。

 仕事やオンエアのかぶりがないか自分で逐一チェックしないといけないし、交通費が出るのかとか細かいところまで仕事先と自分で折衝をしないといけないし。

 去年の6月、7月頃から、新たに入ってきた僕一人の仕事はエージェント契約を適応するようになってます。

 ただ、コンビの仕事はコンビのマネージャーが来て何も変わらずやっていますし、これまでやっていた僕一人の仕事はこれまで通りの契約でやってるんです。なので、実は、そこまで劇的には変わってないんですけどね。地方で一人の仕事の時に、自分でホテルを取るという手間が増えて、生活がちょっと面倒くさくなったくらいで(笑)。

 でも、その面倒くささを楽しんでいるというか、面白がっているというか、その部分はありますね。そして、やっぱり実家としての吉本の意味を今一度認識するきっかけにはなりました。吉本への気づき。自分への気づき。いろいろなきっかけをもらいました。

死ぬこと以外NGナシ

 瀬下:コンビの仕事は今まで通りなので、そこは全く変わってないんですけど、相方がエージェント契約をしたことで、僕は僕で動ける仕事も持っておきたい。その気持ちは強くなったと思います。

 そんな中、去年の秋ごろから自分の気合と根性という部分がフィーチャーされて、そこに特化した体を張る仕事が増えてきたのはありがたいことだと思っています。

 もともと若い頃から同期の中では性格的にもそういうタイプだし、僕が気合と根性でムチャなことをやって、それを見て周りがゲラゲラ笑うというノリがよくあったんです。

 川原:それこそ、まだNSCに在籍している時に同期の「藤崎マーケット」「かまいたち」らと沖縄旅行に行って、かなり臭みが強いヤギ汁を食べる流れになったんです。そこでも、瀬下が気合でヤギ汁を一人で一気食いして、その間に僕らは車でお店を離れるというドッキリみたいなことをやったんです。

 僕らが車で走ってるところ、瀬下が赤鬼のように顔を真っ赤にしてヤギ汁を口から垂らしながら追いかけてくる。それを見ながらゲラゲラ笑って。当時はまだ若かったからか、車と同じスピードで10分くらい追いかけて来てましたから。ヤギ汁垂らしながら。それを見て、またさらにゲラゲラ笑って。

 もちろん、プライベートなのでカメラはまわってないんですけど、そういうことをずっとやってきたという文脈もあったんです。

 瀬下:そんな時代を知っている「かまいたち」が番組で話をしてくれて、僕にそういう仕事が来るようになった。

 それがまた「アメトーーク!」(テレビ朝日)でフィーチャーされてから、さらに体を張った仕事に拍車がかかりまして。直近の仕事を振り返ってみたら“バンジー、激辛、激辛、バンジー、ドッキリ、ドッキリ、激辛、激辛”となってました。

 「かまいたち」が言ってくれたこともですし、僕にとってはうれしいばかりのことなので。“死ぬこと以外NGナシ”という心構えで全力でやらせてもらっています。

 ただ、初めて経験することもたくさんあるので、戸惑いますけどね。

 この前はマラソンで給水代わりにタバスコを飲むという仕事だったんですけど、タバスコって酢が入ってるので、ものすごく咳が出るんです。咳が止まらなくなって、ぶっ倒れそうになりながら最後まで走りました。もう41歳とは言え、タバスコを飲んでマラソンを走った経験がないので(笑)、咳の対処に困りはしました。

 川原:ただ、さすがにムチャをする仕事でもあるので、相方としては体も心配ですしね。しかも、こういうことって、どんどんエスカレートしていくと思うんです。その中で、例えば、相方が耳だけになった時に、その場合は漫才をする時のギャラ配分はどうするのか。

 さすがに漫才で僕が耳を持ったまましゃべるパターンだったら、僕の負担の方が大きくなりますし9:1くらいなのか。もしくは、耳だけになったら、体の大きさ的にはもともとの1割もないので、相方の歩合も1割以下になるのか…。

 瀬下:いや、そこ、体積で決めんといて。

 川原:ま、いろいろな形に応じて吉本さんと話ができるのが、エージェント契約の強みでもありますので、そこは全面的に生かしていきたいと思います。

(撮影・中西正男)

■天竺鼠(てんじくねずみ)

1980年1月21日生まれの川原克己と79年7月29日生まれの瀬下豊が2004年にコンビ結成。ともに鹿児島県出身。NSC大阪校26期生。同期は「かまいたち」「藤崎マーケット」ら。08年、09年、13年と「キングオブコント」で決勝に進出。16年から活動拠点を大阪から東京へと移す。1月29日には東京・ルミネtheよしもとで単独ライブ「高級ジャンピングボレーライブ」を開催する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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