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「我を消して自分を出す」。孤高のロケ芸人・チャンカワイがたどり着いた境地

中西正男芸能記者
ロケへの思いを語るチャンカワイ

 日本テレビ「世界の果てまでイッテQ!」など多くの番組でロケ企画を担当し、テレビ朝日「アメトーーク!」の「ロケリポーター芸人」の回でもインパクトを残したチャンカワイさん(40)。昨年206日をロケに費やし、新型コロナ禍の今年でも12月までに170日以上ロケで稼働するなどロケ芸人としての地位を確立しましたが、なぜそこまでオファーが殺到するのか。その根っこにあるものを語りました。

ネタも死ぬし、ラーメンも死ぬ

 今でいうと、レギュラー・準レギュラーを合わせて8~9本番組に出してもらってるんですけど、ほぼ全てがロケです(笑)。

 ただ、自分がロケ芸人という意識はそんなになかったんです。ただただ、いただくお仕事を日々一生懸命やるというだけで。

 それを意識するきっかけになったのは、去年10月に放送された「アメトーーク!」(テレビ朝日)の「ロケリポーター芸人」に呼ばれた時でした。

 それを機に、担当マネージャーさんに調べてもらったら、去年は10月の時点で170日以上ロケに行ってると。結局、去年全体でいうと、206日ロケで稼働してました。

 今年は新型コロナで数カ月は完全にロケも止まってましたし難しいかなと思っていたんですけど、なんだかんだで12月までで170日以上ロケに行かせてもらってまして。このご時世に、本当に、本当に、ありがたいことだと思っています。

 ま、大御所の漫才師さんだったら、15分劇場に立ってドーンと稼いでらっしゃいます。それはすさまじいまでにカッコいいし、芸人らしい姿だなと思うんですけど、僕は15分のVTRのために丸一日かけてロケしてますから(笑)。時間はかかります。

 そもそも、僕らは12~13年前の「爆笑レッドカーペット」(フジテレビ)ブームの時に出してもらった人間で、もともとはネタから出てきた人間だったんです。

 ネタの中のフレーズ「惚れてまうやろー!」をキャッチーに思っていただいたのはありがたいんですけど、その当時、僕の使われ方というのは「はい、このラーメン食べてください。そして『惚れてまうやろー!』と言ってください」という感じだったんです。

 「なんでラーメン食べて惚れなアカンねん!ネタも死ぬし、ラーメンも死ぬで!」とは思ってたんですけど、ただ、ディレクターさんからそれを求められる。

 そうなると“テレビのおもちゃ”としては言わなアカン状態になるわけで、これって悲しいなと思いながらやってたのが正直なところでした。

心の扉を開く

 そんな中、ターニングポイントというか、2013年、僕にしっかりと食レポの場をくださったのが東海テレビさんの「スイッチ!」という番組でした。

 「―レッドカーペット」で認知していただいたのは本当に嬉しいことだったんですけど、食レポのロケでは、現場での振る舞いやコメントなどが僕に委ねられます。重圧もありますけど、そこにすごくやりがいを感じたんです。

 毎回、ラーメンならラーメン店の店主さん、大根なら農家の方、工芸品なら職人さんといったように、それをお作りになった方と一緒にロケは進んでいきます。

 本音を言いたがらないのが日本人の美学だったりもしますよね。そして、職人さんはその気質が特に強い気もします。

 どれだけ静かな人でも、心の中を開いたら絶対に叫びたいことはある。ましてや、自分が人生をかけて取り組んでいる野菜であったり、魚であったり、作品であったりすると、そこの思いがないわけがないんです。でも、それを声高にはおっしゃらない。

 ただ、それを言いたくないわけではない。目の前の相手に対して「この人には、心を開こう」と思ったら、それこそ、堰を切ったように思いを言ってくださいます。僕は、ただただ、その役目をできたらなと思うようになっていきました。

 我(が)を出すのではなく、作った人を出す。

 最初からそれを思っていたわけではなく、いろいろなロケに行かせてもらってきた積み重ねとして少しずつ感じてきたことです。

 ロケをさせてもらい始めの頃、あるロケですごく良いお寿司屋さんに行かせてもらったんです。本当に良いお寿司屋さんって、お客さんに「はい、どうぞ」と寿司を出す瞬間から逆算して魚を熟成させたりもする。それをしっかりと教えてもらったんです。

 その1週間後、めちゃめちゃ頑固なご主人が経営されているお魚のお店にロケに行かせてもらいました。最初は、テレビのロケで芸人が来ているというシチュエーションもあまり腑に落ちないところがおありだったのか、ぶっきらぼうな感じでもあったんです。

 そんな中、まずお刺身をいただいたら、1週間前のお寿司屋さんと同じ“熟成の味”がしたんです。そこで僕が思わず「これ、時間の技、感じますね」と言ったら、ご主人の顔が一瞬で変わって、心の扉がパカーッと開く音が聞こえました(笑)。そこから、ものすごくしゃべってくださったんです。

 あと三重テレビさんの「ええじゃないか。」という番組で神戸の宮大工さんのミュージアムにロケに行かせてもらったんです。そこで、いろいろな昔の技術を分かりやすく教えてもらって、今の鉋(かんな)とは違う槍鉋(やりがんな)というものの存在も知ったんです。

 またその少し後に、今度はテレビ東京さんの「開運!なんでも鑑定団」のロケに行って、全く別の場所にある大先生が作った建物を見る機会があったんです。

 その門構えが、明らかに槍鉋で作ったような形だったので、これも思わず「もしかして宮大工さんをイメージされてますか」と言ったら「なぜ分かったの!?」となりまして。

 そう考えると、いろいろとロケに行かせてもらうことで、思いもよらぬ形でロケとロケが繋がる。それがまた深いお話をいただけることになって、次のロケにつながる。そんな、この上なくありがたいサイクルをいただいてもいます。

我を消して自分を出す

 それとね、僕が“感動しぃ”というところもあるんですけど、技術的なことだけではなく、素直に感じたことを思わず言葉にしたら、そのことで、ものすごく喜んでくださる。

 「わかめにここまでのうまみを感じたのは初めてです」みたいに純粋に美味しいと伝えるとか、その作品にいかに驚いたかなどをただただ素直に伝える。そうすると、本当に喜んでいただけることが多いんです。

 こちらがきっかけになって、心を開いてもらう。一言でも言いたいことを言ってもらったら、それが一番大切な言葉だからテレビはそこを使う。そうなると、見ている人がそれをキャッチして買ったり、行ったりしてくれる。そんな流れになったら、幸せだなと。

 逆に言うと、ロケでは、こういうことを言う人があまりいないのかなとも思ったんです。自分の食レポ技術というか、そういう部分を見せる人が多かったから、僕のそのままの言葉に反応してくださるのかなと。

 もちろん、タレントである以上、テレビに映るとなったら、自分を出すのは当然です。それが悪いなんてことはない。

 でも、僕はもともと、我をどっかにやってしまっているというか(笑)、元来、我を出すのが得意ではない人間なんです。

 それがネタという“マスク”をかぶれば、女性にキレたりもできるし、我を出すこともできるようになる。だから、お笑い、そして、ネタというのは僕にとってすごく新鮮なことだったんですけど、そもそも、普段の僕は我を出せない人なんです。正味のところ。

 だからこそ、ロケでも、とにかく「スタジオの皆さん、これ、めちゃめちゃ美味しいですよ!」とか「視聴者の皆さん、これ、ホンマにすごいですから!」ということを伝えることだけに力を注げるのかなと。

 あくまでも、ロケリポーターの役割はつなぎ役です。現場とスタジオをつなぐ。現場と視聴者の皆さんをつなぐパイプみたいなものです。このパイプに味があると、例えば、イカ徳利みたいな材質でできてたら、パイプを通る時にイカの味がつきます。

 イカの味がつくことは悪いことではないし、イカ好きな人もいるし、その味を求めて見てくださっている人もいるはずです。そして、それこそが“タレント性”と呼ばれるものでもあるんだと思います。ただ、僕の場合は、そこにだいぶ臭みがあるんだろうなと(笑)。

 それを痛感してもいるし、もともとの性格も多分にありますし、我を出さないというのは毎回自然とやってきたことだと思います。

 ただ、これが不思議なことに、我を消した瞬間、周りが僕を認識してくださるというか。我をなくしたら、自分が出てきたというか。その感覚が強くなればなるほど、ロケのオファーも増えていったんです。

 それと、ロケ先の方々、そして、これは世の中全般かもしれませんけど、我を出せない人の方が多い。その気持ちを、僕はイヤというほど分かりますし、その意味においても、元来、我が出せない自分が生きる場を与えてもらっているなと本当に思います。

 そうやって、たくさんロケに行かせてもらって、いろいろな話をうかがってきた経験値って、気付けば、あまりヨソにはないものなのかなと思うこともあるんです。

 なので、例えば、旅行雑誌さんとかとコラボするとか、そういうのもできたらなと思わないではないんです。

 ただ、そこが我の無い人間の弱さで、いざ「本を出しませんか?」みたいなお話があったとしたら、そこは「チャンが出しても、そんなん誰が買います?」というモードに入ってしまいまして…。なので、万が一、出す時は偽名で出してるかもしれません(笑)。

(撮影・中西正男)

■チャンカワイ

1980年6月15日生まれ。三重県出身。本名・川合正悟。高校3年の時、吉本興業のイベント「アンダーグランド花月」に同級生と出場し、漫才で優勝。20歳の時、今の相方であるえとう窓口とコンビを結成。日本テレビ「進ぬ!電波少年」などで注目を集める。ネタ中の「惚れてまうやろー!」のフレーズも人気に。日本テレビ「世界の果てまでイッテQ!」、TBS「あさチャン!」、東海テレビ「スイッチ!」、NHK「ひるブラ」などに出演。2015年に、結婚。16年に長女が誕生した。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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