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「それが一番イヤ」。コンビ結成20年「アンガールズ」田中からあふれる芸人としての“マグマ”

中西正男芸能記者
コンビ結成20年を迎えた「アンガールズ」の田中卓志

 コンビ結成20年を迎えた「アンガールズ」の田中卓志さん(44)。デビュー当初は“渋谷系芸人”とも言われ、そこから“キモかわいい”キャラなど様々な顔を見せてきました。今はフジテレビ「バイキングMORE」のコメンテーター、テレビ東京「ゴッドタン」のコーナー“勝手にお悩み先生”など説得力を求められるポジションへと変化してきました。芸能界のあらゆる立ち位置を横断してきた20年でしたが、根底にあるのは「それが一番イヤ」という、お笑いへのたぎるマグマでした。

「キングオブコント2017」

 20年。印象深いことはたくさんあるんですけど、一番緊張したという部分では、今から3年前「キングオブコント2017」の決勝は忘れられないですね。

 若手の頃は賞レースに出たとしても「そこにあるネタをやるだけ」という感覚だったんですけど、3年前はしびれるような緊張感がありました。

 テレビに出るたびにガチガチに緊張して何もできないという若い時の緊張ともまた違う感覚で。「この緊張感を経て、ネタが終わった時に味わうであろう脱力感で、自分はいったいどうなってしまうんだろう」と思うくらいの緊張というか。

 僕らは2000年からやってるので、2017年となると、そのまま芸歴17年。17年やってる状態で出るということは、出場者で芸歴も一番上だし、その中でスベッたら、今やってる仕事のマイナスにもなりかねない。

 若い頃なら、決勝に出た時点で確実にプラスだったんでしょうけど、ありがたいことに、仕事がある状況で決勝に行くということは、もし優勝したとしてもプラスはあまりない。それでいて、マイナスの可能性はしっかりある。独特の緊張感がありました。

 正直、予選の時から若手のファンの人たちには「出なくていいでしょ」みたいなことばっかり言われてたんです。「もし、あんたたちが決勝に行ったら、若手が世に出る枠がひと枠減るでしょ」と。

 ただ、自分の中ではそれでも「出る」という思いしかなかったんです。というのは、いろいろな番組に出してもらっていると、ネタのイメージはどうしても薄れてくるんですね。ネタではない形で画面に映っている時間の方が圧倒的に長いですから。

 ネタ番組も、なんとか出してもらってるんですけど、全部が全部出られるわけではないし、どうしても薄れてくる。だったら、どうしたらいいのか。「キングオブコント」というネタの極致、しかも戦う場に出ようと思ったんです。

 芸人という仕事をやって、最初にやること。そして、芸人を芸人にしているもの。それがネタだと思うんです。

 その中で「ネタ、作ってないじゃん」と言われる。芸人として、それが一番イヤだなと。もちろん芸人さんによって感覚はそれぞれ違うんだとは思いますけど、少なくとも僕はそうなんです。

 だからこそ、出る以上はしっかりと見せるしかない。いろいろな思いが乗っかった上での緊張だったと思うんですけど、オレとしてはその時の自分たちでないとできない、その時のいいネタができたと思っています。

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「思ってるほど見てないよ」

 ここまで、自分たちだけの力で来たわけではなく、いろいろな方に導いてもらいました。

 この世界に入ったばかりの頃、ビビる大木さんとよく遊ばせてもらってました。お正月の番組に大木さんが出るということで、ある日、その勉強を少し手伝ってくれないと言われてファミレスで会ったんです。

 そのクイズというのが、芸能人の血液型と星座と干支を答えるという番組で、バラエティー番組内のワンコーナーだったんですけど、何時間もずっと地道な作業を繰り返して、覚えては僕が出題し、また覚えてと。当然、その日だけでなく、大木さんはそれまでもその繰り返しを続けてきたわけで。

 番組の中の一つのコーナーに出るのに、これだけ時間と力をかけるんだ。当時、まだ僕はテレビにも出たことがなかったんですけど、その状況で、大木さんの姿からテレビに出ることの意味みたいなものをこれでもかと教わった気がしました。

 それと「FUJIWARA」の藤本(敏史)さんの言葉です。何とか僕もテレビにも出られるようになってきた頃で、そうなると、いろいろな企画もやらせてもらうようになりまして。

 その中で、いわゆるドッキリ企画も何回かやってきたんですけど、なんというか、ドッキリにも質があって、全然分からないような本格的なドッキリもあれば、正直、だいぶ粗いのもあるんです。

 ただ、藤本さんはものすごく粗いドッキリに、全力で乗っかって、全力でリアクションをしていく。僕はそういうのに引っ掛かった時、なんかノレないというか、ドッキリって分かり切ってるじゃんみたいな思いがあったんですけど、藤本さんは全力でいくんです。

 思わず「藤本さん、すごいですね」と言ったんです。そうしたら、藤本さんが事も無げにおっしゃったんです。

 「粗かろうがなんであろうが、視聴者の人が見たいのは、そこに乗っかってオレらがワーッとなってる姿やから」と。

 その言葉にこの仕事の本質がある気がしましたし、そういう言葉や学びを節目節目でもらえたことに本当に感謝だなと思っています。

 あと、芸人さんではないんですけど、漫画家の蛭子能収さんですね。僕は蛭子さんの漫画が好きで、ネタの“ジャンガジャンガ”で注目してもらった頃に、誰でも好きな人と対談ができるという企画をもらったんです。そこで蛭子さんとお話をさせてもらいまして。

 その頃はありがたいことに次々と仕事をもらうようになった頃で、勢いだけはあったので、どんどん仕事は入ってくるんです。でも、それだけの仕事で常に結果を出すような蓄積もないし、実力がないし、どの仕事でもスベるんです。

 それでも、また次の仕事は来る。仕事はあるけど、またそこでスベる。そのサイクルの中で、どんどんしゃべるのが怖くなりまして。しゃべれなくなってたんです。完全に追い込まれてました。

 そのことを蛭子さんに相談してみたんです。漫画家さんなのに面白いことを言うし、常にひょうひょうとしてるし、蛭子さんってどう考えてるんだろうなと思って。そこで言ってくれたのが、自分の連載の話だったんです。

 ある時期、蛭子さんがボート雑誌と麻雀雑誌で四コマ漫画の連載をしていたんです。忙しい中、両方の雑誌の締め切りが同時にやってきて、バーッと連載を描いて何とか原稿を送ったと。

 そこで、送ってから気づいたらしいんですけど、ボート雑誌に麻雀雑誌の連載を、麻雀雑誌にボート雑誌の連載を送ってしまっていたと。「うわ、どうしよう」となったけど、もう送ってしまったし。

 

 で、結果、掲載誌を見たら、当たり前みたいに、それぞれの雑誌に四コマ漫画がそのまま載ってたんですって(笑)。

 「だからね、田中君もスベってるとか悩んでるかもしれないけど、田中君が思ってるほどは世の中の人は見てないよ」とそこで言ってもらいました。

 最初は、ひどいこと言われたのかなとも思ったんですけど、確かに、誰もそこまで見てないし、覚えてないんですよ。

 テレビを見てて、もし誰かがスベッたとしても、それを何日も事細かには覚えてないんです。普通は。よっぽど熱を持って見ている一部の人、そして、本人以外は。

 それでね、肩の力がスッと抜けたんです。スベッてもいいからやろうと。今、自分ができることを全力でやればいい。だって、もともと実力がないんだから。そういう気持ちに変えてもらいました。若手の頃はすごくその言葉に救われました。

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自分が意図したようにはならない

 そうやって、直接的に言ってもらった皆さんもいれば、一方で“いつの間にか、そっちに引っ張ってもらってた”みたいなこともたくさんありました。自分のキャラクターは、決して、自分が意図したようにはならないということを僕は強く感じました。

 自分たちはそんなこと言ってなくても“渋谷系芸人”と言われたり(笑)、テレビに出始めたら“キモかわいい”みたいなワードで言われるようになって。

 そこから「クイズ!ヘキサゴン」(フジテレビ)に出してもらうようになったら、クイズができたので“キモかしこい”になって、そこから周りの芸人さんから「いやいや、シンプルにキモイだけやがな」と言われて“キモキモイ”になって(笑)。

 また今度は、後輩コンビ「Aマッソ」にYouTubeでテレビのことを教えるみたいなお仕事をいただいて、講義みたいにホワイトボードを使ってオレが教えていくという形の企画をやらせてもらったんです。

 そうしたら、そこで書いたことをスタッフさんたちに「これはすごい!」と思っていただいて、そこから「ゴッドタン」(テレビ東京)で「勝手にお悩み先生」というコーナーにもつながっていって。

 さらに「そろそろ にちようチャップリン」で芸人さんのネタを解説する役割もさせてもらうようになり、女性芸人の賞レース「THE W」で審査員もやらせてもらいました。そして、いつの間にか「バイキングMORE」(フジテレビ)でコメンテーターも。本当に、何がどうなって、どこに向かうのか、分からないものだなと。

 ここまで芸能界のイメージを横断してる人もいないのかなと(笑)。いろいろな立場から芸能界を見てきたという。人の言葉で、そして導きで、やってきた20年。その意味でも、自分は本当に恵まれていると思います。

結婚への思い

 だからね、例えば、10年先、芸歴30年で自分がどんなところにいるのか。それは余計に、想像がつかないです。

 ま、一つ言えるのは、仕事は誰かが導いてくれてやってこられましたけど、プライベート、特に結婚は自分で動かないとダメなんだろうなとは思ってます。

 結婚はね、絶対にしたいんですよ!そして、できれば、子どももほしいですし。

 出川哲朗さんが言ってた言葉があるんですけど、出川さんは今から16年前、40歳の時に結婚してるんです。

 その頃は「出川哲朗というものは結婚すべきではない」ということを言われてた部分もあったし、それはそれでキャラクターとしていいかという思いが出川さんにもあったそうなんです。

 でも、そこで松村邦洋さんから「いや、哲っちゃん、結婚した方がいいよ。40代、50代になって、この仕事だから『結婚してなくて…』と笑いにすると言っても、途中から段々笑えなくなってくるとオレは思うんだ」と言われたと。

 もちろん、そういうスタイルでやってらっしゃる方もいますし、結婚することだけが正解でもないんでしょうけど、僕にとってもその言葉はストンと胃の腑に落ちましたし、実際、出川さんは松村さんが愛情たっぷりにそれを言ってくれたことで結婚したそうなんです。

 ただ、アドバイスした松村さんは今も結婚してないですからね(笑)。あの人は何をやってるんだろうと思いますけど。また、そうやって笑ってるオレの方が、その当時のお二人よりも年上になってるのも、どうなってんだと思います(笑)。

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(撮影・中西正男)

■田中卓志(たなか・たくし)

1976年2月8日生まれ。広島県出身。ワタナベエンターテインメント所属。山根良顕とのコンビ「アンガールズ」として2000年にデビュー。コンビとして、04年には「お笑いホープ大賞」を受賞。「キングオブコント2017」で決勝に進出する。フジテレビ「バイキングMORE」、MBS「所さんお届けモノです!」、テレビ東京「そろそろ にちようチャップリン」などに出演中。DVD「アンガールズ単独ライブ 彌猴桃は7304日後に」を12月23日にリリースする。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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