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「これでダメなら、もう3人でやる意味はない」お笑いトリオ「我が家」の決意

中西正男芸能記者
「我が家」の(左から)坪倉由幸、杉山裕之、谷田部俊

 坪倉由幸さん(42)、谷田部俊さん(41)、杉山裕之さん(42)のお笑いトリオ「我が家」。2012年には杉山さんが福岡を拠点に活動することが発表されるなど、トリオ仲を不安視する声もありましたが、9月に放送されたテレビ朝日「ロンドンハーツ 深夜の家庭訪問」で坪倉さんが杉山さんの酒癖や素行の悪さを吐露。解散まで考えたことを明かし、それをきっかけにトリオ再生プロジェクトとして「我が家」公式YouTubeチャンネルを開設し、11月16日から「我が家・杉山の悪口を1000個いただくまで帰れない酒場」を配信することになりました。取材中も、何度も沈黙の時間が流れ、生の感情がぶつかりあうような空気となりましたが、赤裸々という言葉では足りないほど、3人がリアルな思いを明かしました。

坪倉:もともとは、30代前半くらいの時ですかね。「我が家」がテレビに出していただけるようになったあたりから、杉山の素行の悪さがあまりにも目立つと。基本的には、酒癖が悪すぎる。その延長で後輩たちにありえない態度をとる。そんなことがいくつもあったんです。

谷田部:そうですね。実際にあった許せないことを言いだしたら、1時間くらいすぐ経ってしまいます。

坪倉:そんな中、3年ほど前に杉山と大きなケンカをしまして。酒癖、そして素行の悪さ。いい加減、直せと。話し合いの中で解散という言葉も出て、杉山も「解散でもいいよ」ということを言ってきて。本気で言っても直らない。火のついたタバコを投げてくる。顔面を殴る。そこでケンカにもなり…。「40歳にもなって、こいつは、こんななのか…」。腹が立つというか、悲しくなりまして。そんな流れの中で、僕が「我が家」としての活動に線を引いたというか。

杉山:…。

坪倉:そんな中、今年9月に「ロンドンハーツ」に3人で久しぶりに出していただきまして。坪倉のガチの悩みを相談してほしいという企画だったんで、僕が思っていることを洗いざらい話しました。その番組を見ていたウチの事務所の社長が「『我が家』がうまくいってないのは薄々気づいていたけど、そこまで深刻だとは知らなかった」ということで会社総出というか、動いていただいて。「我が家」を再生させるためのプロジェクトとして、フジテレビ「めちゃ×2イケてるッ」の総監督も務められていた片岡飛鳥さんにお願いをして、YouTubeの番組を立ち上げた。それがここまでの流れなんです。

―通常、芸人さんがYouTubeチャンネルを立ち上げるとなると、エンターテインメントとして楽しいことをアップするイメージがありますが、ここで配信されるものは?

坪倉:先日、7時間かけて収録をしたんですけど、タイトル通り、集まってくださった皆さんが杉山に悪口というか、思いをぶつけてくださるというのが基本の軸です。来てくださったのは「ロッチ」の中岡創一さんとか、「ハライチ」、サンシャイン池崎だったり、芸人さんが中心なので、もちろん笑いもたくさん入っているというか、笑いに持って行ってくださるところもあるんですけど、根本にあるのはリアルに、ドキュメントとして、杉山の再生であり「我が家」の再生。ということは、いわば、僕たち3人のために皆さんが集まって、7時間もの収録に付き合ってくださった。笑いはまぶしてますけど、皆さんからのエピソードや思いは全部本当だし、杉山に直してほしいことも本当だし、根本は本気の本気。だからこそ、どこまでもありがたい場でした。それしかありません。

谷田部:周りが芸人さん、しかも、本当に優しい芸人さんばかりだったということで、結果、笑いにしてくださっているところも多々あります。ただ、僕らとしては真剣に杉山に「こうしてほしい」ということを言っただけです。

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―当事者の杉山さんとしてはどうでしたか?

杉山:僕は、過去にやってしまったことを純粋に謝罪し、まず、そこにわざわざ来てくださったこと。そして、別に言わなくてもいいというか、言うことにすごく力が要るようなことをわざわざ言ってくれていること。それに対して感謝する。その思いでいっぱいでした。

谷田部:もちろん、杉山だけに「お前がちゃんと直せ!」と言うことではなく、僕ら3人で「我が家」としてもう一度やっていく。それが一番の趣旨なので、杉山だけじゃなく、僕と坪倉も変わらないといけないと思っています。

坪倉:7時間収録をしながら、僕が再確認したのは「杉山は変わらない」ということも覚悟するということ。42年、それできたんだから、そうそう変わらない。変われない。だったら、嫌われ続ける。文句を言われ続ける。今後も。じゃ、その現実を受け止めた時に、芸人として、そこをどう返すのか。相方として、その杉山をどう活かして笑いにするのか。それをこちらも考えないといけないなと。

杉山:…。

坪倉:なので、変にいい奴ぶって、カッコつけないでくれと。おかしいなら、おかしいことを前提にこっちも考えるからと。これは前から思ってたんですけど、お酒絡みのトラブルで一回捕まればいいのにと。それくらいじゃないと、心底懲りない。気づかない。もちろん、そんなこと本当にあったら、大変ですよ。でも、そんな考えが出るくらい、周りは思い悩んできたということですからね。

杉山:僕はこの企画をやらせてもらって、気づきましたというか。その、やっぱり、酔っぱらって分かんなくなってやったことを、わざわざ来てくださった皆さんからの本当の思いと、本当の言葉で直接聞いた。本当に変わらないといけない。本当に反省しなきゃいけない。ここに来て、悪口を言ってくれる。その時点で、まだ見捨てられていない。でも、ここでちゃんとしなかったら、もう次はない。それくらいのことを皆さんにしてもらっているんだなと。

坪倉:…。

杉山:それプラス、芸人という仕事をしてますから。そうやって言ってくださったことを受けて、ただただシュンとしているだけではいけない。心で感謝しつつ、感謝しているからこそ、芸人として言われたことを笑いに変える返しもしないといけない。それが、この仕事としての“ありがとうございます”になると思っています。

―7時間の中で、最も心に突き刺さった言葉や瞬間は?

坪倉:僕がすごく思ったのは、悪口が多ければ多いほど、まだ愛されているんだなと。それを一番感じたのは「ロッチ」の中岡さんでした。これは後から聞いた話ですけど、中岡さんは「本当は出たくなかった」そうなんです。悪口言ってもかわいそうだし、ずっと言い続けたら立ち直れないくらい杉山がダメージを負うんじゃないかと思って。でも、フタを開けてみたら、しっかりと悪口を言ってくださった。しっかりとボコボコに攻撃してくださった。そこまでやってくださるということは、どういうことなのか。それがひしひしと伝わってきました。

杉山:今まで、周りの人たちへの感謝が本当になかったんだなと…。スタッフさんもそうだし、今回わざわざ悪口を言いに来てくれた芸人さんもそうだし、自分のために動いてくれている人がいる。それを今回の企画で改めて痛感したというか。当然、そこには感謝の思いがあってしかるべきなのに…。

―7時間、杉山さんを見ていたお二人としての思いは?

坪倉:正直、そんなにすぐ変わるとは思っていなくて。変わろうとしているのは分かりますけど、僕はまだ変わったとは思っていない。そして、反省するだけじゃ、芸人としてはつまんない。反省して、自分がどんな人間か分かった上で、どう相手と接していくか。7時間を経て、感謝は勿論ですけど、自分が分かったと思うので、そこを踏まえて、じゃ、そういう人間だったら、どうすれば面白くなるのか。こんな自虐はどうだろう。こういうツッコミが面白いんじゃないか。それを考えるのが今だと。いい奴になれとは一つも思っていなくて、何よりもまず今の自分で面白くなることを考えてくれと。いい奴にはなれるとも思ってないし、なれるわけないし。

杉山:…ん~。「なれるわけないし」は言いすぎだね。

谷田部:いや、これはね、なれないんだよ。そこをまず認めるところからスタートしないと。「いい奴にはなれない。ただ、面白い返しはしよう」。それでいいんだよ。あとはさっきから出てる感謝。本当にシンプルに「悪くてもいいから、笑いにする」。それだよ。

坪倉:これだけのことをやってもらったんだから、今、解散ということはないです。でも、これだけやってもらって、ここで変わらないともうダメだとは思っています。それは杉山だけじゃなく「我が家」がもうダメだという意味で。

谷田部:杉山がどうなっても、どんな奴であったとしても、オレと坪倉が変われば、その杉山をうまく活かすことができるかもしれない。それでこそのトリオですから。

坪倉:だからこそ、これでダメだったら、もう3人でいる意味は今度こそないのかなと思っています。

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―新たな「我が家」に向けて、既に始めていることなどは?

坪倉:本番やステージ以外、楽屋とかでも杉山をイジるようにしてます。しょうもないことでも。一時期はそんなイジりはもちろん、会話もなかったこともあるんですけど、そこを面倒くさがらず、ちゃんとイジる。試しているわけじゃないんですけど、どう変わったかなと。7時間の収録を終えてからは、つっこんでくるし、返してくるし。それが面白いかどうかは別にして(笑)、こちらの仕掛けに応えようとしてくるというか。リハビリというか、しょうもないことでも仕掛けてみようと思っています。

谷田部:新たな動きというか、これはいいことだと僕は思ってるんですけど、この企画をやって、悪口があまりにも衝撃的だったのか、ツッコミの時の声のボリュームがだいぶ小さくなっていて(笑)。こたえてるのは、しっかりとこたえてるんだなと(笑)。

杉山:それはこたえてるよ。意気消沈しますよ(笑)。一日にもらう悪口の量じゃないからね。

谷田部:ここを乗り越えたら、また次の杉山になるだろうし、次の「我が家」になると思うんです。杉山とは中学の時から一緒にいるんですけど、今みたいな杉山を見るのは初めてです。大好きだった彼女と別れた時に、ガリガリになったことがあったんですけど(笑)、それ以上です。今、ツッコミの声が小さくなってるのも、全く動かないさなぎになるみたいなもので、ここから蝶になる。それは杉山も「我が家」も。そして、お仕事で皆さんに恩返しをしていく。本当にそれしかないと思っています。

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(撮影・中西正男)

■我が家(わがや)

坪倉由幸(1977年9月9日生まれ、神奈川県出身)、杉山裕之(77年4月23日生まれ、埼玉県出身)、谷田部俊(77年12月14日生まれ、埼玉県出身)が2003年にトリオ結成。ワタナベエンターテインメント所属。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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