中野英雄を導く、緒形拳さん“最期の言葉”

映画「影に抱かれて眠れ」で初めてプロデューサーを務めた中野英雄

 映画「アウトレイジ」シリーズなどで存在感を見せる俳優・中野英雄さん(54)。作家・北方謙三氏の小説「抱影」をもとにした映画「影に抱かれて眠れ」(今秋公開、和泉聖治監督、主演・加藤雅也)でプロデューサーに初挑戦しました。常に新たな領域へと進む原動力は、故緒形拳さんから贈られた“最期の言葉”でした。

初のプロデューサー

 僕が20代の頃から北方謙三先生は憧れの存在でした。先生の作品が映像化される時には常にオーディションにも行ってたんですけど、全部落ちまして(笑)。なので、余計に憧れだけが増していくという形でした。

 そんな中、僕がすごく懇意にしている方2010年に発表された「抱影」という小説を映画にしたいと。「すごいなぁ、映画になるんだ」と遠いことのように思っていたら、その方が「いやいや、お前が作るんだよ」という感じでプロデューサーを打診されまして…。

 もちろん「え、オレが!?」とはなりましたけど、ただ、先生の映画を作れるなんて夢にも思っていなかった。北方先生の作品ということならば、何とか頑張ってみたい。その一心で、プロデューサーとして映画に関わることを決めました。

54歳で知ったこと

 2017年の11月から作品作りが始まったんですけど、プロデューサーということは、作品の中身のみならず、お金集め、そして、お金の使い方も考えないといけない。

 もちろん、これまでも映画に関わってきましたけど、日々やっていることは現場に行ってセリフをしゃべるという繰り返し。その現場がどうやって作られているのか。その奥がこんなに深いものだったというのを54歳になってリアルに知りました。

 「オレ、今まで何をやっていたんだ」と落ち込むくらいの衝撃と言いますか。ま、僕らの頃の空気で言うと、現場で何かしら不具合があったりすると「てめぇ、何やってんだ!この野郎!」という時代でしたけど、作る側の仕事をしてみると、オレ、とんでもないことをしちゃってたなと思いました…。

 あとは脚本作り。これも大変でしたね。僕らが決めた脚本を出演者が納得して「はい」と言うかどうか。ここにもひと悶着ある。こう見えて(笑)、僕はあまりそういうことは言わないようにやってきたんですけど、言う人は言うんだなと。

 もちろん、これはプロとして大切なことでもあるんです。セリフにこだわる。役にこだわる。これはとても大事なこと。ただ、どこかで折り合いをつけないと、作品が前に進まない。じゃ、どこを落としどころにするか。この感覚は俳優としては味わうことがなかったものなので、非常に新鮮でしたね。ま、非常に大変でもありましたけど(笑)。

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仕事への矜持

 あと、僕がプロデューサーとして矢面に立っていると「 君がやっているだけでV シネマっぽくなるんだよね」というような声もいただきました。

  V シネマに出ている俳優は、自分を “V シネ俳優”だなんて思ってないんですよ。もちろん、仕事は一生懸命にやります。そして、これはこれはきれいごとじゃなく、食べるためには働かないといけない。お仕事の中に映画があり、舞台があるように、その一つとしてVシネマがある。

 これって、変な話ですけど「仮面ライダー」のショッカーに似ているかもしれません。お仕事としてショッカー役をいただければ、それを一生懸命にさせてもらいます。ただ、ショッカーをやるために、ショッカーをやることが全てだと思って仕事をしている俳優さんの話を僕は聞いたことがない。ただ、周りはどうしてもショッカー俳優と見る。

 これは仕方のないことだとも思います。どうしても印象も強いですし。僕の場合、有り難い話、それこそ「アウトレイジ」シリーズもさせてもらって、怖い感じもするし、できれば付き合いたくないと思われている方も多々いらっしゃる。

 プロデューサーという、その作品を代表して対外的に交渉する役割をさせてもらう中で、これまで以上に、そこを強く感じるところもありました。勉強になりました。正直、ムカッとすることもありましたけど、ただ、そこで怒るのは違うし、とにかく、良いことも悪いことも、感じることを全て受け止めよう。それがプロデューサーをするにあたって、僕が大事にしたテーマでもありました。

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緒形拳さんの言葉

 今回はプロデューサーという新しいことをさせてもらいましたし、これまでも、いろいろな仕事をさせてもらって、いろいろな方ともお会いしてきました。なんとなくのイメージで言うと、中野英雄っていう俳優は兄貴分が哀川翔で、柳葉敏郎で、小沢仁志もいて、その上となると岩城滉一さんがいて…という感じなのかなと。

 実際、皆さんにはすごく、すごくお世話になっています。こういった方々のお話をしだすと、それこそ、話すことはいくらでもあります。さらに上で言うと、松方弘樹さんや渡瀬恒彦さんにも本当にかわいがっていただきました。ただただ、皆さんには感謝しかありません。

 ただ、そんな中、ほとんど付き合いはなかったにも関わらず、今も僕の心に今も突き刺さっている言葉をくださったのが緒形拳さんなんです。緒形さんとは全部で3回共演はさせてもらったんですけど、プライベートでご飯を食べに行くとか、そういうことは一切ありませんでした。だからこそ、その緒形さんがくださった言葉だからこそ、深く残っているのだろうなと思っています。

 緒形さんは仕事に厳しい方だとうかがっていましたけど、僕に対しては本当に優しくて、いつもニコニコされていたんです。なので、逆に「この人の目の中に、オレは映っていないのか」と思うくらいでした。

 ただ、3回目の共演となったドラマでご一緒した時、その頃すでにお体の具合があまり良くない状態だったんです。撮影中もおつらそうだったので、出すぎたマネではあるんですけど、撮影の順番を変えて緒形さんのシーンを先に撮って、少しでも早く帰っていただくことを僕がスタッフさんに提案したんです。

 ただ、スタッフさんからしたら「お前が、何を勝手なことを言ってるんだ」ということになりますし、そこでもめたんです。僕が降りる、降りないみたいなところまで一時はいったんですけど、どうも、そんなやり取りがあったことを緒形さんは人づてに耳にされたようでして。

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 それから少し経って、僕と緒形さんが控室でたまたま2人だけになる機会がありました。しばらくの沈黙の後、緒形さんがおっしゃたんです。

 「楽な道じゃなく、お前は、つらい道に行けよ」

 それまで、そんなお話を言われたことはなかったので、一瞬「え?」と聞き返したくらいでした。すると、もう一回それをおっしゃって「そういうことだよ」と。その時の言い方、トーン、視線、たたずまい。今でも鮮明に覚えています。

 そこから、例えば分かりやすくいうと、山奥での厳しいロケがあるような作品か、街中で綺麗なオネエチャンと絡むラブストーリーなら、絶対に山奥のロケを選びました。すると、そこで必ず「こっちを選んで本当に良かった」という思いに出会うことができるんです。

 世間的に、そちらの作品を選んだから俳優としての評価がグッと上がったというようなことは別にないのかもしれませんけど、自分の中の答えとして「これが正解だった」と思えることばかりが続きまして。

 ストレートに良いことばかりではなく「しんどかったし悔しかったけど、この作品をやったから、自分の力のなさが分かった」という方向性の“良かった”も含めて、自分の中では、緒形さんの言葉の力を痛感しています。なので、自分の中でこの言葉にどんどん磨きがかかるというか、言葉の輝きが増してきた感じなんです。

恩返しとは

 僕にその言葉をくださって、緒形さんはほどなく旅立たたれました。今となっては、僕の姿を見てもらうことも、緒形さんの言葉について、もう一回お話をすることもできません。

 なので、もし緒形さんに恩返しできることがあるならば、さらにこの生き方を続けることだと思います。楽せずに。

 この前も、久々に、ドラマの「相棒」に出してもらうことになったんです。撮影前日の夜、予習ということじゃないんですけど、僕はYouTubeで自分の好きな俳優さんの作品を見るのが好きなこともあって、朝まで水谷豊さんの映像を見てました。

 ただ、もう54歳ですからね。現場行ったら、寝てないんでフラフラでした(笑)。ま、これとはまた違うんでしょうけど、とにかく楽な道には行かず、これからも歩みを進めていきたいと思います。

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(撮影・中西正男)

■中野英雄(なかの・ひでお)

1964年12月22日生まれ。京都府出身。哀川翔と出会い「劇男一世風靡」に入る。92年、フジテレビの連続ドラマ「愛という名のもとに」に倉田篤(チョロ) 役で出演し注目を集める。 北野武監督の映画「アウトレイジ」シリーズでも存在感を見せる。映画「影に抱かれて眠れ」は今秋公開。出演は加藤雅也、中村ゆり、松本利夫、「湘南乃風」の若旦那、熊切あさ美、余貴美子、火野正平ら。