又吉直樹「エエ感じなのはフラれた時」

モノ作りへの思いを語った「ピース」の又吉直樹

 小説「火花」で芥川賞を受賞し、作家の道も歩むお笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さん(38)。現在3作目の小説も執筆中ですが、作・演出を手掛けるコントライブ「さよなら、絶景雑技団」も来春に上演されます。多角的に次々と作品を生み出す又吉さんですが、モノ作りの感覚が研ぎ澄まされるのは「フラれた時」だと明かしました。

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死なないため

 来年、芸歴20年目になるんですよ。初めて本を出したのは2009年だし、いわば作家としては来年10年目。いろいろな節目が重なるのが来年なんですよね。ま、今、取材を受けている中で、ふと気づいたんですけど(笑)。

 本もそうですし、来年3月のライブ「さよなら、絶景雑技団」もそうですし、なんで作るんかなって考えたんです。多分ですよ、それって死なへんためやろうなと。

 というのはね、少し説明をさせてもらいますと、以前“サッカーと野球とどっちが優れているか!?”みたいな議論をするライブがあったんです。僕はずっとサッカーをやっていたので、サッカー側に立つ人間として出演していました。

 そこで野球側の人たちがサッカーへの攻撃として言ってきたんです。「サッカー選手、点を取った後に叫びすぎや!なんで、あんなに叫ばなアカンねん!」と。流れの中で、なんとなく僕が答えないといけないみたいになって「…あれね、叫ばないと死ぬんです」と言ったんです。とっさに言ったことなんですけど、それがものすごくしっくりきましてね。

 サッカーにとって、1点ってすごく重みがある。試合という緊迫した空間で、みんながパスを回して、ボールが自分のところに来る。さらに緊張感が高まる中でシュートをする。決まった。最高の緊張から、最高の喜びにいきなり変わる。いろんな感情が一気にグワーッとくる。あれで声を出さないと、死ぬと思うんです。出さないと耐えられないというか。それって、自分の中では、創作とつながる部分があるんです。

 生活で腹が立つことあったら「コラッ!」てキレるじゃないですか。面白かったら笑うし、悲しかったら泣くし。もし、それを一切出さずに、ずっと“無”でいなさいと言われたら、マジで死ぬかもしれんなと。あらゆるものが溜まってしまって。

 日常にある複合的な感情が体内に溜まりすぎないように出す。それが表現だし、モノを作るということでもあるんやろうなと。ま、これは一昨日くらいに思ったことなんで、まだそんなに付き合いが長くない考え方なんですけど(笑)。

 ストレスを発散するためにカラオケに行く人もいる。バッティングセンターに行く人もいる。それもある種の表現なんやと思います。溜まったものを別の力に変えて体から出す。バッティングセンターに行った後みたいに、僕も書いたらスッとしますしね。そうやって生まれてくるもんですから、自分の人生とか日常みたいなものが反映されたネタとか文章が出てくるのは、極めて普通のことなんやなと。当たり前のことのおさらいみたいになりますけど。

ゲージが溜まる

 逆にというか、作るために何かを意図的に溜めにかかるということはしないですけど、日々の生活でナチュラルにゲージは溜まっていきやすいタイプやと思います。

 最近でいうと、先日、ライブに出してもらったんです。しりとりの要領で出演者が次々と即興でギャグをやっていくという内容で、その場で考えてギャグをやるんで、かなり怖いというか、難しいというか、恐怖心が出てくるライブではあるんです。でも、好きな先輩がやってらっしゃるライブですし、芸人としての矜持というか、そこで出ずに逃げるのは違うという思いもあって、初めて出してもらったんです。

 当日、舞台裏のモニターを見ながら出番を待っていたら、司会の人が「今日、初めて来られた方っています?」とお客さんに聞いたんです。じゃ、半分くらいのお客さんが手を挙げた。そこで、僕と一緒にモニターを見ていた(お笑いコンビ)「しずる」の池田が「初めての人が半分もいますよ!あ、又吉さんが今回初めて出るから、又吉さん目当てのお客さんじゃないですか?」と言ってきたんです。

 そして「これ、又吉さんがウケたら、完全に又吉さんのお客さんだな」とアホみたいな顔して言いよったんです。池田は仲の良い後輩やからよく分かるんですけど、ホンマにアホでエエやつなんです。だから、何の他意もなく言ってるんです。間違いなく。

 ただ、ということは、僕からしたらリスキーなライブやけど、覚悟を決めて“ウケる”か“スベる”かの勝負に来たのに、池田がそう言った時点で“滑る”か“自分のファンが多かった”かの2択になってしまったわけです。このライブに出てくる芸人さんはみんな勝負に来ているし、尊敬できるし、自分も勇気を振り絞って勇者感覚で劇場に来たのに「あれ?オレだけどこにも勝利という出口がないやないか」と(笑)。

 …というようなことが一瞬で頭を駆け巡って、池田に「やりにくなるわ!」と言ったんですけど、さらにアホみたいな顔してヘラヘラしてました(笑)。ま、そういう時にも、グッとゲージが溜まります。

 こんなんもね、ま、僕が考えすぎなんですよ。フラットに見て。ただ、そういう感じで生きているので、ゲージは溜まりやすい。だから、より一層、出さないわけにはいかないんだろうなとも思います。

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フラれた時

 あとね、モノが作りやすくなる一つの法則みたいなものはある気がします。

 というのは、なんかこう、フラれたとか、恋愛がうまくいかなかった時とか、そういう時はモノを作る感覚が研ぎ澄まされるんです。さすがに、フラれた直後は厳しいんですよ。正味、ショックがあるから。ただ、そこから3日経った頃からだいたい2週間。この期間はめちゃめちゃエエ感じになります(笑)。

 カッコつけようとか、人に好かれようとか、そういうものって制御装置にもなってしまっていると思うんです。「これを言ったらダサいかな」とか「こんなんしたら嫌われるかな」とか。

 フラれたということは、もう嫌われているわけですから。感覚としては「もう、知るかい!!」みたいな(笑)。それがすごくいいんじゃないかなと思いますね。

朗読ライブ

 今後、作りたいモノですか?そうですねぇ、ちょっと前から、何回か朗読ライブみたいなのをやってるんです。自分で書いたお話を僕が自分で読むというライブで、1本20~30分くらいの作品をいくつかやるという感じで。それがすごく面白くて。表現方法として、すごくしっくりくるんです。

 昔から、書いたものを読んで人に聞かせるというのは大好きだったんです。友達とか後輩とか、彼女がいる時には彼女とかに書きあがったらすぐにその場で読むんです。自分の書いたもので目の前の人の感情が動いている。それを見るのがたまらないというか。

 なので、この朗読ライブは考えに考えて作り出したエンターテインメントというよりは、僕がただただ根源的にやりたいことを欲望のまま出している場でもあるんです。

 朗読作品、今は15本くらいなんですけど、何年かかるか分かりませんけど100本作りたいなと思っています。100本って、なんかアホみたいでエエし、それだけあったら、お年寄りから子どもまで誰の前でもできるなと。噺家さんが高座に上がってお客さんの顔を見てからその日にやるネタを決めるみたいな話がありますけど、あれはカッコいいなと。100本あったら、それもできるでしょうしね。

 今(相方の)綾部はアメリカに行ってますけど、戻ってきた時に100本できあがっていたら、まずは綾部に100本全部聞いてもらうところから始めるでしょうね(笑)。

 その中で、綾部に読んでもらった方が良いセリフがあったら読んでもらうかもしれないし、立って動いてやった方が面白いとなったら、コントになるかもしれないし。この朗読はいろいろなネタのタネにもなるものだろうなと思っています。自分でも想像できないくらい、いろいろな広がりを見せるもののような気がしています。

 ま、確実に言えるのは、朗読作品が100本もできる頃には、僕は完全なる“朗読の変態”になっているやろうなと(笑)。それは間違いありません。

(撮影・中西正男)

■又吉直樹(またよし・なおき)

1980年6月2日生まれ。大阪府寝屋川市出身。大阪・北陽高校時代はサッカー部に所属し、大阪府代表としてインターハイにも出場する。99年、東京NSCに5期生として入学。お笑いコンビ「線香花火」解散後の03年、同期の綾部祐二と「ピース」を結成する。10年には「ピース」として「キングオブコント」で準優勝。15年には、初の純文学作品「火花」で芥川賞を受賞。作・演出を務めるコントライブ「さよなら、絶景雑技団」(2019年3月22日~24日、東京・三越劇場)を開催。出演は又吉、「しずる」、「ライス」、「サルゴリラ」、「井下好井」好井まさお、「パンサー」向井慧、「スパイク」小川暖奈ら。