元「Bコース」ナベが語る引退芸人の現実

元お笑いトリオ「Bコース」のナベこと、渡辺謙司さん

 芸人を志す人はたくさんいますが、スターになるのはほんの一握り。ほとんどの人は、道半ば、次の人生を選ぶことになります。そんな中、新たなパターンを示してもいるのが元お笑いトリオ「Bコース」のナベこと渡辺謙司さん(42)です。トリオは2012年に解散し、渡辺さんも2015年に芸人を引退しましたが、今はお笑いコンビ「カラテカ」の入江慎也さんの会社「株式会社イリエコネクション」にサラリーマンとして働いています。主な業務はアスリートのセカンドキャリアの支援。「自分も芸人から次の仕事に就く時にさまざまな思いを味わった。だからこそ、寄り添って話ができると考えています」と言葉に力を込めました。

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雑誌記者、ニトリで勤務

 3年前に芸人を辞めました。そこから雑誌記者のお仕事を目指したんですけど、力及ばずでままならず…。そこからは家具の「ニトリ」でアルバイトをしていたんです。

 本当によくしていただいて、アルバイトで1年働きました。そこから正社員を目指そうと思ったんですけど、いかんせん、その時で41歳。今後、店長やエリアマネージャーを見据えるには、年齢的に非常に厳しいと。

 なので、全く違う仕事を探してみようと思って、就職のアドバイスをしてくれる相談所みたいなところに行ったんです。そこで、愕然としました。自分は“職歴なし”ということになるんだと。

職歴に書けない

 というのは、僕が芸人としてやってきた19年は“転職する際のオフィシャルなルール”に照らし合わせると、キャリアとしては全く認められないことになってしまう。例えば、「文房具の営業をやっていて、これくらい売り上げをあげました」「システムエンジニアとして、こういう開発に携わっていました」というのはキャリアとしてカウントされるんです。一方、「芸人をやってきました」というのは、その観点からすると、カウントされない。履歴書に正式に書けるものではないと。

 となると、僕の場合、そういうルールに則って履歴書を書くとしたら“短大卒”“職歴なし”“41歳”という経歴になるんです。その条件だとかなり限られた職種になりますし、選べる数もほとんどないくらいの状況になってしまう。今まで自分が芸人をやってきた時間は“意味のない時間”と扱われるんだ。公にはそうなってしまうんだ。この感覚は非常にショッキングなものでした…。

 自分の時間には意味がなかった。もう、今の自分は求められない人間なんだ。必要ないんだ。どうしたらいいのか分からない。そんなネガティブな思考に入っていって、かなり追い込まれてもいきました。

芸人としての時間を生かす

 そんな時に入江さんから「アスリートのセカンドキャリアを支援する業務を会社でやろうと思っている」という話を聞いたんです。もともと月1回くらいのペースでご飯にも行ってましたし、入江さんが3年ほど前からコンサルタントの会社「株式会社イリエコネクション」を立ち上げたことも知っていました。

 ただ、セカンドキャリア支援の話を聞いた時に思ったんです。「今こそ、そのお手伝いをすることで、自分の19年に意味が出るんじゃないか」と。そう思って「お手伝いをさせてもらえませんか」と入江さんに話したんです。それが今年2月。そこからは入江さんの会社でサラリーマンとして固定給で働いています。

 今は日々、元アスリートの方とかとお会いして次のお仕事をどうするかという話を中心にさせてもらっています。例えば、サッカー選手の人でも、高校を卒業してプロになっている人が多い。なので、選手を辞めたら“高校卒”“キャリアなし”というカウントになってしまう。その時の思いは、僕も痛いほど味わっていますので、その気持ちに寄り添ってお話をさせてもらえたらなと思っています。

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東野幸治さんの言葉

 オフィシャルには認められなくても、個人的には芸人の時のキャリアは今になって役立っていると感じています。“大物”と言われる、あらゆる方々と日常的にお会いしたりもしてましたし、なんと言いますか…“気後れしない心”というか。肝の据わる経験は血肉になっているな、と考えています。

 芸人の時には本当にいろいろな方にお世話になったんですけど、細かく目をかけてくださったのが東野幸治さんでした。8年ほど前に、東野さんが中国語の勉強を始められたんです。そのタイミングで僕も一緒に勉強させてもらうことになりまして、そこから頻繁にお会いするようになりました。

 つい先日もご飯に連れて行ってくださったんですけど、いろいろと言葉をくださるんです。「とにかく、腐ったら終わり」「“辞め癖”が付くから、どんな仕事でも1年はやった方がいい」「『もう結婚はできない』とか、決めつけてあきらめる考え方はしない方がいい」とか。

 どれもシンプルな言葉でもあるんですけど、東野さんがおっしゃると深く胸に刺さるんです。あと、本当に、本当にそのとおりだなと思ったのが、「最後、笑えればいい」という言葉でした。

最後に笑えるように

 結局、最後に笑えたらそれでいい。僕も芸人を辞めて、今、そう思って仕事をやらせてもらっています。そして、僕が話を聞かせてもらっているアスリートの方々にも、最後に笑ってもらえるように頑張らないといけないなと。

 せっかく、こうやって取材をしてもらっているわけですから、社員としては「株式会社イリエコネクション」のPRもやった方がいいんですけどね…。ただ、この前も、会社のブログ更新は僕の担当なんですけど、僕が美味しいと思っているお店のランチ情報をブログに書いて、「会社に関係ないだろ!」とつっこまれたところでして…。

 ちょっと、PRに関するイップスみたいにもなっていますけど(笑)、ま、それでいうと、11月2日に入江さんの単独ライブが新宿レフカダで行われます。入江さんの芸人としての新ネタが中心で、あとは会社の話というか、経営の話もする場になるはずです。う~ん、会社自体の話ではないですけど、一応、関連情報のPRになってますよね?少なくとも、お店のランチ情報よりは(笑)。

(撮影・中西正男)

渡辺謙司(わたなべ・けんじ)

1976年3月28日生まれ。神奈川県横浜市出身。専修大学北海道短期大学で同級生だったタケト、ハブと96年にお笑いトリオ「Bコース」を結成。芸人時代はナベの芸名で活動していた。トリオ名は、3人とも短大の専攻コースが専修大学への編入コース(Bコース)だったことに由来している。 2012年12月にトリオを解散。その後、3人ともピン芸人として活動していたが、2015年8月にナベのみ引退した。引退後は、週刊誌記者、ニトリの勤務を経て、お笑いコンビ「カラテカ」の入江慎也が社長を務める「株式会社イリエコネクション」に就職。芸人やアスリートなどのセカンドキャリアを支援する業務に就いている。

立命館大学卒業後、デイリースポーツ社に入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。2003年、故桂米朝さんにスポーツ紙として異例のインタビューを行う。「上方漫才大賞」など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、株式会社KOZOクリエイターズに所属する。現在、読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」などにレギュラー出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞する。また、CNN、BBC、ニューヨークタイムズなどが使用する記事分析ツール「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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