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深刻化する部品不足~「納期が見えない」中小企業経営者の悲鳴

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
世界的なコンテナ不足と運賃の高騰が起きている(画像・筆者撮影)

・年度末の売上げが消える

 「今年の売上げは、昨年の売上げの半分。経営陣の給与を半減、夏のボーナスも大幅にダウンさせ、保険などの解約や経費の大幅削減などでなんとかわずかな黒字決算。部品や機械の納期が軒並み遅れたり、見込みが立たずで、現場は混乱しています。」

 関西地方の中小企業経営者は、苦しい状況を説明してくれた。半導体不足による自動車や電気製品の不足は話題になった。しかし、スイッチやリレー、各種素材の価格高騰、納期の延期や未定は、製造業全体に広がり、大きな問題となりつつある。

・見積もりをとっても、納期が判らない

 やはり関西地方の経営者は、「装置関連で言うと、サーボモーターとかリニアガイドなどが、見積もりを取った段階では判らない状況です。通常1か月から2か月のものが、半年から1年と納期が長期化してしまっています」と言う。

 納期が長期化しても、受注できるのであれば、それで良いではないかと言う人もいるかも知れないが、中小企業にとっては大きな問題となる。

 新型コロナ禍からの復興需要が高まりつつあるが、同時に年度末を控えて、発注が増加する時期でもある。「いつもならば、秋口に見積もりをやって、11月頃に発注を受け、納期は年度末と繁忙期となる。しかし、部品調達が難しくなり、年度末までに納入できないことになると、年度末の資金繰りが困難になる」と中国地方の中小企業経営者は、苦しい状況を説明する。

・ドミノ倒しのように

 「コロナ禍になってから、サプライチェーンの状況に不安を持ち、通常の倍の在庫を積んでおいたのが正解だった。うちの取引先で生産機械が故障したが、補修部品の調達に時間がかかり、供給に問題が出た。投機目的で買い集めている企業もいるという噂もあるが、需要拡大で供給が間に合っておらず、メーカーも直販での得意先を優先し、商社経由は後回しになっているようだ。」

 こちらも関西地方の経営者の話だが、ドミノ倒しのように影響は広範囲に及んでおり、中小企業がコロナ禍からの復興を実感できるのは、来春以降ではないかとも指摘する。

 一方、関東地方の中小企業経営者は、「最近は、大手電機メーカーも自社の海外工場ではなく、商社を通じて現地企業から自社ブランドで調達するOEM生産の部品や資材が多くなっている。中国などからの調達の見込みを営業担当に尋ねても、曖昧な返事しか返ってこなかったり、自分たちも見込みが立たないと正直に言ってくる状況だ」と言う。重要部品は自社工場で製造を続けるが、それ以外の汎用品や低価格品は、外注に出し、できる限り自社での在庫も削減するという効率重視の手法が、今回は裏目に出たとも指摘する。「だからと言って、そうした部品製造を国内で再開するなどということは考えられないだろうし、中小企業は事態が正常化するまで、いかに持ちこたえるかということだろう」と、この経営者は指摘する。

北米航路の運賃水準は、2020年の1.4倍近くに高騰している
北米航路の運賃水準は、2020年の1.4倍近くに高騰している

・運送費の高騰とコンテナ不足

 アメリカでの需要回復に伴い、中国から輸入が急増。それによって大量のコンテナがアメリカに集中している。一方、陸送トラックの運転手や港湾労働者の不足によって、滞留するコンテナも急増。さらに、貨物が急増している中国・アメリカ航路に船会社がコンテナ船を集中させているため、日本への輸入に支障が出ている。

 2020年の新型コロナ禍が世界的に拡大したことによって、国際的なサプライチェーンが寸断され、原材料や部品の調達が不安定となり、価格も上昇してきたところに、港湾作業者や陸送トラック運転手の不足、さらにはコンテナ不足が重なり、世界的に製造業に影響が出ている。

 ドイツ工作機械メーカー協会(VDW)は、11月に入り、2021年度の工作機械業界の成長予測を8%から5%に下方修正すると発表した。新型コロナ禍からの復興によって、ドイツの工作機械メーカーには多くの注文が入っているものの国際的なサプライチェーンの混乱によって、部品が不足し、稼働率を上げられなくなっているのがその原因だ。

 このように、影響は諸外国にも広がりつつある。各国とも、このような製造業が需要増の恩恵を受けられない状況が、コロナ禍からの復興の足かせになるとの見方が強くなっている。

・一般からの注目は薄いが

 「トヨタは、半導体不足での生産の遅れを取り戻そうと、下請け企業への発注を増やしている。これまでの協力会社だけでは足りず、他社の協力会社へも声をかけているほどだ」と、中部地方の自動車部品製造の中小企業経営者は話す。「正直なところ、当社としては他社の協力会社が参入してくるのは好ましくないが、トヨタからはフル生産をお願いしたいが、今後の見通しができないので新たな投資はしないで欲しいと言われている」と明かす。

 日本メーカーを狙い撃ちする形で、コロナ禍の間にドイツやフランス、中国などが自動車の電動化を強力に進めてきた。日本メーカーも、対応を急ぐが、自動車の電動化は、部品点数の大幅な減少につながり、このまま進めば日本の自動車産業の構造そのものが大きく変化せざるを得ないと考えられている。

 「現在起きている部品不足による中小製造業への影響や、電動化による産業構造の変化などに関しては、一般の人からは関心を持たれていない。今回の衆院選挙でも、産業政策に関して、問題にしていた候補者はわずかだった。世の中は、コロナ禍も一段落で、これから急速に復興だと明るい話題しか取り上げていない。危機感が薄いのではないか」とこの経営者は批判する。

・正常化までには、まだかなり時間がかかる

 ある自治体の産業支援担当者は、「これまで政府が進めてきた無担保無利子融資の返済も始まる。部品調達ができないことが、ボトルネックとなり、売上げを確保できない中小企業では、コロナ禍からの復興の恩恵も受けられない。今後、エレベーターや消火装置、水道関連などの部品も不足、価格も上昇してきており、製造業だけではなく商業やサービス業にも影響が拡大する可能性もある」と言う。

 原材料、部品の調達は、すでに中小企業の経営に大きな影響を与えている。そして、その範囲は拡大しつつある。国際的なサプライチェーンの正常化には、まだかなり時間がかかる見込みである。その間に、日本国内の製造業の弱体化が進むのではないかと懸念する経営者の意見は少なくない。

 新型コロナ禍からの復興で、大手企業の売上げ見込みの上方修正など明るい話題が増えてきているが、足元が覚束ないようでは、景気回復や産業、経済の国際競争力の維持も危ういものとなる。日本経済の根幹を成す製造業のあり方を含め、国策としてその対策が求められる。

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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