長崎新幹線が2022年秋暫定開業。あと2年を切った期待と不安。

長崎市(画像・筆者撮影)

・長崎新幹線暫定開業が2022年秋ごろに

 長崎新幹線の武雄温泉駅・長崎駅間の暫定開業が2022年秋ごろ予定されている。

 すでに新幹線の高架部分や駅舎なども姿を現し、長崎駅周辺の再開発も進んでいる。しかし、地元の人たちの話を聞くと、期待の声と同時に不安の声も多く聞こえてくる。

武雄温泉駅の新幹線ホーム。右側が在来線ホームとなり並行に乗り換えできる。(画像・筆者撮影)
武雄温泉駅の新幹線ホーム。右側が在来線ホームとなり並行に乗り換えできる。(画像・筆者撮影)

 長崎新幹線は、正式には九州新幹線西九州(長崎)ルートと呼ばれ、本来の計画では博多から新鳥栖まで九州新幹線鹿児島ルート共用、新鳥栖から分岐し、佐賀駅、武雄温泉駅、そして長崎駅までつながるというものである。しかし、佐賀県が自治体の財政負担が重く、メリットが少ないという理由でフル規格での建設に難色を示してきた。そのため、政府が在来線を利用したフリーケージトレインの開発を提案したが、結果的に開発に失敗。こうしたことから、着工の見通しが立たないままとなっている。

 そのため、最高速度260km/hのフル規格で整備中の武雄温泉駅・長崎駅間約67キロ分だけが、2022年秋に先行開業することになっている。乗客は、当面の間、博多からは在来線特急を利用し、武雄温泉駅で新幹線に乗り換えることになる。

・乗り換え駅になる武雄温泉駅

 「どうなんでしょうか。乗り換えがあっても、途中で降りてくれるお客さんは少なくて、通過されるだけなんじゃないかと言ってます。」そう話すのは、武雄温泉の旅館の従業員だ。「工事で働く方たちが、結構多くて、泊まっていただけてましたから、完成に近づくにつれてそういう方たちも減ってきているように思います。このまま工事が続いている方がいいのにと、笑っています。」

 武雄温泉は、1300年の歴史ある温泉で宮本武蔵、シーボルトなど多くの著名人が訪れたことで有名だ。武雄のシンボル「楼門」を有する元湯は、1876年(明治9年)に建築された建物でも知られている。

武雄温泉の楼門(画像・筆者撮影)
武雄温泉の楼門(画像・筆者撮影)

 武雄温泉駅には、すでに新幹線のホームが姿を現し、在来線との乗り継ぎが同じホームでできるようになっているのが判る。

 「一時は図書館の視察の方が多かったですね。最近では、図書館の隣にある武雄神社の大楠がパワーポイントだと若い女性に人気なんですよ。」駅の観光案内所の女性は、にこやかに案内してくれた。

 「歩いてきたのなら、判ったと思いますが、以前は武雄温泉の門前などには多くの飲食店がありましたが、ずいぶんと減りました。駅前も新幹線の駅の工事に合わせてきれいになりましたが、寂しい感じですよね。開業すれば、ある程度の効果がでるのではと期待しているのですが」と、飲食店の男性経営者は話す。さらに不安もあると言う。「ただ、全線開通したら、博多から長崎まで一番速いやつは、武雄温泉駅に止まらない可能性あるんじゃないですかねえ。そろそろ本気出して、PRとかしていかないといけない時期ですよね。」

・再開発が進む長崎駅

 長崎駅は新幹線乗り入れを前に再開発が進んでいる。終着駅として、夜行列車が発着していた旧ホームはすでに撤去され、鉄道ファンに人気があった0番乗り場もすでに無くなった。

ブルートレインが発着したホームはすでに無い。長崎駅。(画像・筆者撮影)
ブルートレインが発着したホームはすでに無い。長崎駅。(画像・筆者撮影)

「再開発されると大規模商業施設が開店するだろう。人口が伸び悩んでいる長崎市で、新たな大規模商業施設が開業することは、市内の商業集積に大きな影響が出ることは間違いない」と長崎市内の中小企業経営者は言う。JR各社は、鉄道での収益確保が難しい中で、商業施設の運営やホテル事業などに積極的に進出している。

 長崎市も商業集積地は、長崎駅から路面電車で約15分ほどの地域である。「駅前に大規模な商業施設が開業すれば、人の流れも大きく変わる可能性もある。観光客が増えるという期待と、一方で不安も大きい」と長崎市で飲食店を経営する女性は、そう話す。

・新大阪駅までの直通への期待

 「長崎から武雄温泉までじゃあ、座ったら、すぐに乗り換え。なんだか落ち着かないよね。早く新鳥栖まで繋げて、新大阪から直通で長崎まで来ないと、本格的な観光振興にならないでしょう。」長崎市の食品販売店を経営する男性は、そう話す。「コロナの影響で、長崎の観光は大きな打撃を受けている。難しいのは判るが、少しでも早く、直通運転をしてもらえないだろうか。」

 新大阪駅から長崎駅に行く場合、現在であれば、博多駅か新鳥栖駅で在来線特急に乗り換えればすむ。しかし、暫定開業となると、博多駅もしくは新鳥栖駅で在来線特急に乗り換え、さらに武雄温泉駅で新幹線に乗り換え長崎駅に向かうこととなる。

・新型コロナ感染拡大が与える影響の大きさ

 暫定開業までまだ2年を切ったばかりであり、さらに新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けての観光客の激減などから、話を聞いた人たちからは、新幹線開業への大きな期待は聞くことがなかった。

 「まあ、開業の日程が決まって、いろいろPRとかして、盛り上がっていくのだろうけどね。」長崎市内の飲食店経営者は、そう笑った。

 一方で、「新型コロナウイルスの影響で、今まで前提にしていたことが大きく変化している。その変化に合わせた形で、いかに新幹線効果を最大にするかということを、考えて、行動しなくてはいけないだろう。時間は、2年を切っている。」長崎市の製造業を営む経営者は、地元企業の経営者の自覚が大切だと指摘した。

 新型コロナウイルスの影響で、インバウンドは復活までには数年程度かかると見られている。その間、近距離からの観光客の誘致など、これまでとは異なったPR活動も必要となる。

佐世保市は、長崎新幹線が全通すると直通特急が廃止されることを懸念している。(画像・筆者撮影)
佐世保市は、長崎新幹線が全通すると直通特急が廃止されることを懸念している。(画像・筆者撮影)

・悪化している状況から脱するために

 武雄温泉駅と新鳥栖駅の間は、もともと政府が、在来線をそのまま走行できるフリーゲージトレインを導入するとし、最終的にその開発に失敗した経緯がある。佐賀県は、新幹線開通によるメリットよりも、デメリットが大きいとし、財政負担の懸念からも、フル規格での整備を認めてこなかった。

 長崎県内でも、地域によって受け止め方は微妙に異なる。佐世保市は現在は博多駅から直通の在来線特急が走っている。しかし、新幹線が全線開通すると、博多駅からの直通特急が廃止され、武雄温泉駅で在来線に乗り換えになる可能性があり、全線開通への懸念がある。

 長崎新幹線は、これまでの経緯で問題が複雑化してきた。政府は地域振興の視点からも、佐賀県、長崎県などと調整を急ぐべきだろう。現在の状況が長期化することは、地域間での対立なども引き起こしかねず、好ましいことではない。さらに、新型コロナウイルスの影響で、九州各地の観光産業も大きな打撃を受けており、中長期的な視野に立った振興策として、長崎新幹線の整備の方針を早期に確定するべきだ。

長崎新幹線概略図 (各種資料より筆者作成)
長崎新幹線概略図 (各種資料より筆者作成)

All Copyrights reserved Tomohiko Nakamura2020

※NewsPicks等の他サイトへの無断転載・引用禁止