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成田の貨物取扱量は3月も前年比プラス ~ 航空貨物が動いている

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
新東京国際空港は日本を代表する貿易港(写真:アフロ)

・貨物機ばかりの日本の上空

 Flightradar24というサイトがあります。このサイトでは、世界中の飛行機を飛ぶ様子をリアルタイムに地図上で見ることができます。知人が乗っているはずの飛行機は、今こんなところを飛んでいるのだなとか、さっき頭上で音がしたのは、この航空会社のかなどと、楽しめるサイトです。

 しかし、ここ最近、このサイトで日本列島を見ても、少し前とは異なり、飛んでいる飛行機が極端に少なくなりました。もちろん、今まで見たことがない人は、それでも「結構たくさんの飛行機が飛んでいるね」と感想を漏らしますが、飛行機のマークをクリックしてみると、そのほとんどが貨物機であることに再び驚くことになります。

・3月の成田国際空港の貨物取扱量は、2か月連続で増加

 4月20日に税関が発表した3月の成田国際空港の国際貨物の総取扱量は188,113トンと対前年同月比2.3%となりました。多くの航空会社が、全世界的に運航を停止する中で、航空貨物の輸送が大きな問題となる中で、前年同月と比較しても増加していたのです。

 内訳は、輸入に当たる取卸量が107,246トンと前年同月比で9.8%と約1割近くの増加を見せたのに対して、積込量は80,867トンと逆に6.2%減という数字になっています。

 一方、旅客便が中心の東京国際空港(羽田)は、総取扱量は40,180トンと前年同月比マイナス18.3%と2割近い大幅な減少となっています。

 関西国際空港は、総取扱量は63,013トンで対前年同月比マイナス8.5%。中部国際空港は12,162トンでマイナス25.6%と、旅客便の相次ぐ運航停止の影響を受けて、取り扱い貨物は減少しています。旅客便が運航休止し、大騒ぎになっている割には、航空貨物の落ち込みは軽微だと言えます。成田国際空港、関西国際空港、中部国際空港の落ち込みが軽微なのは、貨物専用機がフル稼働していることや、旅客扱いはせずキャンセルとなっているが無乗客で貨物だけで搭載して運航している便があるからです。

出所:https://www.customs.go.jp/tokyo/content/narita_kamotsuryo202003.pdf
出所:https://www.customs.go.jp/tokyo/content/narita_kamotsuryo202003.pdf

・貨物便の増発と旅客機の貨物専用便としての運航

 民間航空機には大きく分けて二つあります。一つは、多くの方が目にする旅客機、もう一つは貨物専用機です。もちろん、コンビと呼ばれるその中間の飛行機もありますが、少数です。

 旅客機は、メインデッキと呼ばれる上半分が客室になっており、ベリーと呼ばれる下半分に貨物を搭載します。一方、貨物専用便は、メインデッキにも貨物が搭載されるようになっています。

 成田国際空港の国際線の一日平均(2019年)で、旅客便が498便に対して、貨物便は67便となっており、圧倒的に旅客便の方が多いのです。一般的に、貨物便は貨物需要が多い路線でないと採算性を維持することが難しいとされ、どの航空会社も貨物専用機を保有することには消極的です。日本航空も、かつては貨物専用機を保有していましたが、2010年の経営破綻もあり、貨物専用機の運航を終了しています。しかし、日本航空が国際貨物運送から撤退したと言う訳ではなく、自社の旅客便や貨物航空会社からのチャーター便などで輸送を行っています。

 

 日本航空の方法は珍しいわけではなく、多くの民間航空会社では、同様の貨物事業を行っており、航空貨物需要のほぼ半部程度は旅客便での輸送で行われていると言われてきました。一方、日本では、全日空と日本貨物航空が、それぞれ貨物専用機を運航しています。また、大手運輸会社などが貨物航空会社からチャーターする形で運航することもあります。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、多くの国際航空会社が便数の削減や運航停止に追い込まれています。しかし、世界中で貨物専用機はフル稼働しています。一部ではエアバス社のように自社貨物専用機ベルーガを貨物輸送に提供したり、乗客扱いをせずに名目上は旅客便として貨物を輸送する航空会社も出てきています。中には、客席に荷物を積み込んだり、客席そのものを取り払って即席の簡易貨物専用機にしたって運航を始めている航空会社も出てきています。

・貨物が動き始めている

 「2か月近くたまっていた貨物が動き始めている。ただ、まずは溜まっていた貨物を順次出していくことからなので、これが本格的な流れになるか判らない。」大阪市内の機械商社の社員は、そう言います。一方で、「これまでいつ届くのか判らないと言われていたパソコンやその部品が、4月に入ってから次々と届くようになっている」と言う会社員の男性もいます。

 中国に工場を持つある中手企業の経営者は、「日本で報道されているよりも、中国では活発に生産活動などが復旧している」と指摘します。別の製造業経営者も「貨物運賃の値上げはすごいが、次第に物流が動き始めていることを感じる」と言います。そして、二人とも日本がもたもたしている間に、先を越されてしまいマーケットを奪われてしまうのではないかという焦りを感じていると言います。

 

出所:https://www.customs.go.jp/osaka/news/news_pdf/kanku_kamotsu_202003.pdf
出所:https://www.customs.go.jp/osaka/news/news_pdf/kanku_kamotsu_202003.pdf

・航空貨物は、社会の動きに一歩先んじて動く

 成田国際空港の航空貨物が増加していると言っても、他の空港の貨物が旅客便の大幅減少の影響を受けている中で、以前と同じとは言い難いでしょう。しかし、まだわずかとはいえ、一時は止まっていた中国などの海外製品が次第に市場に出回りつつあります。

 

 航空貨物は、社会の動きに一歩先んじて動くと言われています。「飛行機が止まって、航空貨物も止まっている」という印象とは少し異なった様相を成田国際空港の3月の貨物取扱量は示しています。

 実は、関西国際空港でも、輸出貨物は18%と2割近い落ち込みなのですが、輸入貨物はわずか0.2%の落ち込みでしかないのです。さらに1月、2月よりも輸入貨物量は増加し、新型コロナウイルスの影響のなかった昨年12月と同程度に戻っています。

 日本からの輸出が輸入よりも低迷しているのは、一時的なものなのか。しかし、日本政府の対応がもたつき、中国や東南アジア諸国が産業復興を急げば、マーケットを奪われるかもという懸念もあながち杞憂とは言えないかもしれません。

※本文中の「新東京国際空港」は2004年に正式名称を「成田国際空港」に変更しておりました。お詫びして修正いたします。

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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