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「廃業しろというのか」~個人事業者や中小企業経営者の悲鳴

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
外出自粛要請で客のいなくなった飲食店街(画像・筆者撮影)

・多くの経営者の悩み

 「廃業しろというのか」都内の寿司店経営者は、このひと月の惨状を話します。例年だと多い年度末の宴会の予約は、2月後半以降、ほぼすべてキャンセルだと言います。

 「うちは接待に使われるような店じゃないので、常連客のお客様に支えられていますが、自粛自粛でどんどん外食に行きにくい雰囲気が強まっているとみなさん言います。」

 この寿司店では、3月末から4月の第一週いっぱい休業することにしました。「資金が足りなければ、無担保無保証で借り入れろと言いますが、結局借金を増やすことになる。後継ぎもいるのですが、若い連中に借金を増やして、渡すことになるのはねえ」と嘆きます。

 別の都内の飲食店経営者も、「自粛要請だと政治家の方たちは簡単に言いますが、小企業、個人事業者の多い飲食店にとっては死活問題です」と言う。続けて次のようにも言います。「いつまで続くか判らない状態で、営業を自粛しろと言われても、私たちは生きていくために、お金を稼がなくてはいけないのです。誰も助けてくれないのですから。今回は、私たちのような自営業者のことを政治家の人たちはちゃんと考えてくれているのか、不安になりました。」

 

 3月に入り、筆者のところにも中小企業や個人商店の経営者のみなさんから、「どこに相談に行けばいいだろうか」という相談が寄せられることが多くなりました。それだけ「何とかしなくてはいけないが、どこから手を付けて良いか判らない」という経営者、自営業者が多い現実があるのです。

・3月期の売上高が急減

 東京商工リサーチが発表した3月31日18:00現在での「新型コロナウイルス」関連倒産状況によれば、経営破たんは25件(倒産10件、法的手続き準備中15件)に上っています。また、「新型コロナ」関連の経営破たんは、地域が全国に広がっており、食品製造販売、レストラン・飲食店、宿泊・観光業、アパレル販売など、インバウンド需要と消費者対象の小・零細企業で経営難に直面しているところが圧倒的に多くなっていると分析しています。

 同様に帝国データバンク「TDB景気動向調査」でも、3月に入り企業の売上高は減少傾向が強まっていることが明らかになっています。 2020年3月(速報値。 3月17日~24日の集計結果)で、 売上高が減少している企業は55.8%と半数を超えています。特に、旅館・ホテルや家具類小売、 飲食店、 娯楽サービスなどで売り上げが前年同月より減少している企業が多くなっていることも判っています。

・卸売業・小売業・宿泊業・飲食サービス業で働く人は全体の約3割

 新型コロナウイルスの深刻な影響は、流通業、飲食業などに及んでいます。2016年の「経済センサス」によると卸売業・小売業で働く人は約1千184万人、全体の約2割です。宿泊業・飲食サービス業で働く人は536万人、全体の約1割です。

 卸売業・小売業・宿泊業・飲食サービス業を合計すると、全体の約3割となり、製造業で働いている人をすでに大きく超しています。この傾向は、1990年代以降強まっているのです。それだけに、今回の新型コロナウイルスによる卸売業・小売業・宿泊業・飲食サービス業への悪影響は、そのまま多くの働く人たちに直結するのです。

 「相談窓口は、多くの経営者で一杯です。電話相談もなかなかかからないと言われるほどです。」都内の商工会議所所員は、さらに続けて次のようにも話してくれました。「政府の支援制度が、毎日のように拡充されているので、今日はダメでも、明日来れば受け付けられるということもあります。現場も混乱しています」とも言います。ただ、「借入金で、3月、4月を乗り切ったとしてもその先、どうなるのだろうかと、不安な様子で相談する経営者が多いです。」

 実際、都内で緊急の融資を申し込んだ小売店経営者は、「申し込みは受け付けてもらいましたが、審査が大量にあり、融資ができるのは、早くても一か月先。場合によると二か月先になるからと言われました」と言います。前出の商工会議所の所員も、「資金繰りが苦しくなるのが数か月先だとしても、それが予想されるのならば、今、手続きを行っておいた方が良い」とアドバイスします。

立派なオリンピックスタジアムが姿を現した東京の街だが(画像・筆者撮影)
立派なオリンピックスタジアムが姿を現した東京の街だが(画像・筆者撮影)

・はっきりしない政府の方針に不安

 

 「ロックダウン(都市封鎖)をするならば、早くして欲しい」と言う意見が飲食店経営者からも多く聞こえています。「中途半端な自粛ではなく、きちんと期間を定めてロックダウンしてくれた方が、諦めもつく」という意見や、「全額とは言わないまでも、従業員の給与やなにがしかの最低限の給付金を出してくれて、その代わり、一定期間閉店しろと言われる方が良い」という意見などもあります。

 

 緊急事態宣言を首相が行えば、都道府県知事は法律に基づいて外出自粛やイベント開催自粛の要請や指示を行えます。しかし、罰則規定がなく、強制力を持たない措置がほとんどなために、実効性を疑う意見もあります。一方で、緊急事態宣言によって企業活動など経済活動全体に影響を及ぼすという批判もあります。さらに、緊急事態宣言によって企業や事業者の事業活動を休止させることによって生じる損害をどの程度まで政府が補償するのかも議論の多いところです。

 医療関係者からは現段階で、すでに非常事態であるとの指摘も多くなされています。一方で、30日に東京都知事が行ったバーや酒場などの飲食店の営業自粛要請のようなことが、五月雨式に続くことに対する批判が強くなりつつあります。曖昧ではっきりしない政府や東京都の方針に対しての不安や不満が強まっています。

・先の見えない自粛ブームは限界

 ロックダウンによる感染防止の影響についての評価もさまざまで、賛否もあります。しかし、首都圏でのロックダウンの決断が先延ばしにされれば、自粛疲れからの人々の気の緩みが大きくなる危険性があるのも確かです。さらに、多くの小売業、飲食業の経営者が先の見えない自粛要請の継続の中で、売上高急減、運転資金の不足から廃業の決断を迫られることになります。

 もし、ロックダウンの効果がないというのであれば、それをちらつかせて、曖昧な形での自粛要請を繰り返す手法は止めにすべきでしょう。逆に効果があるというのであれば、早めの決断が必要でしょう。新型コロナウイルスの感染防止への効果に関しては、医療関係の専門家にお任せするとします。しかし、これ以上、中途半端な形での自粛要請を繰り返し、長期化させることは、小売業、飲食業の中小企業、個人事業主などを苦しめ、倒産、廃業を急増させることになります。

 「自粛は続けろ、しかし補償はしない。いつまで続くか判らんから、金が無いなら、無担保無保証無利子で貸してやるから、借金でなんとかしろ。そんなことを聞き入れられると思いますか。」都内の飲食店経営者は、そう憤っていました。フランス政府は、飲食店や商店に対して休業を求めていますが、ロックダウン中の水道光熱費、一部経費、家賃、正規雇用者の給与などの補填を行うという条件です。日本でもしっかりとした外出を制限するのであれば、同様の対応が必要になるでしょう。

 そうした財政負担の増加に反対する意見も多いでしょう。インフレを引き起こすきっかけになるかも知れません。しかし、新型コロナウイルスの世界的被害から復興するために必要な経費だとすれば、不可欠なものでしょう。国政を担う人たちの時宜を得た果敢な決断を求めたいと思います。もう一度、書いておきます。卸売業・小売業で働く人は約1千184万人、宿泊業・飲食サービス業で働く人は約536万人、合計で日本の全従業者数の約3割にもなります。多くの人に無関係なことではないのです。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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