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君はきっとこない。あきらめのクリスマス商戦

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
街のクリスマス飾りも控えめになってきた(画像・筆者撮影)

・小売業界の11月は早い冬

 今年は、12月23日が休日ではなくなり、24日が火曜日、25日が水曜日と年末の忙しい時期であり、「クリスマスだからと予定はいれていない」という人も多いようだ。

 日本百貨店協会が12月10日発表した11月の全国百貨店売上高は、2カ月連続でマイナスの前年比6.0%減の4,937億円だった。訪日外国人向け売り上げも5.3%減となった。また、オール日本スーパーマーケット協会などが12月20日に発表した11月実績速報版のスーパーマーケット販売統計調査でも、11月の既存店売上0.4%減、一般食品1.2%減と消費税増税の反動などから消費市場が冷え込んでいることが明らかになっている。

 「ある程度、反動は予想していたが、それ以上の状況だ。ネット通販やフリマアプリの影響で、実店舗での販売が減少している。そんな中でその他の産業の指数も悪化しており、景気の先行きの不透明さがひどくなっている。特に個人経営の小売業では、これを機会に廃業や閉店を決める企業や経営者が増えるのではないか」と大手流通企業の社員は話す。

・ブラックフライデーは不発

 11月29日金曜日のブラックフライデー、12月2日月曜日のサイバーマンデーと、今年は日本でもアメリカに倣ってセールが続いた。ブラックフライデーは、アメリカ合衆国とカナダの祝日のひとつである感謝祭の翌日である。感謝祭のプレゼント販売の売れ残りを値引き販売するため、多くの人が買い物に訪れる。このため、アメリカでは1年間で最も小売業の売り上げが上がる日とされている。アメリカ合衆国では感謝祭(11月の第4木曜日)の翌日は正式の休暇日ではないが休暇になることが多く、ブラックフライデー当日は感謝祭プレゼントの売れ残り一掃セール日にもなっている。買い物客が殺到して小売店が繁盛することで知られ、特にアメリカの小売業界では1年で最も売り上げを見込める日とされている。さらに、このブラックフライデー後の最初の月曜日には、ネットショップでのセールが行われるサイバーマンデーとなる。

 2016年からはイオンがブラックフライデーのセールに参入、さらに、今年はアマゾンがブラックフライデーセールを開催するなど、日本でも知名度が上昇してきた。しかし、「11月末から12月の最初は、年末の売り出しに近く、小売店の多くでは業務が煩雑になることから、現場から実施には抵抗がある」と、大手スーパーチェーンの関係者は、その効果に疑問を呈する。「そもそも感謝祭の翌日のセールなんて、日本人にはなんだか判りませんからね。」本家アメリカでも、ブラックフライデーの売り上げはネット通販中心になっており、日本でも実店舗では、ほとんど影響はないと答える流通小売業関係者が多い。

JR阿佐ヶ谷駅前のクリスマスツリー(画像・筆者撮影)
JR阿佐ヶ谷駅前のクリスマスツリー(画像・筆者撮影)

・クリスマスセールは年々低調に

 「クリスマス商戦は、もう過去のものかも知れない」と東京都内の商店街組合関係者は言う。「20年くらい前までは、クリスマスの装飾とかイルミネーションなどで商店街も華やかだったし、お客さんたちもたくさん買い物をしてくれた。しかし、ここ数年はクリスマスセールの効果を疑問視する商店主が多くなった。」

 eBay Japan合同会社が、全国の20~40代男女500名を対象に行った「年末のお金の使い道と買い物に関する調査」(2019年11月26日)によると、今年の年末セールで買い物する予定の人は約4割(37.0%)で、そのうち約8割(75.7%)の人はネットショッピングを利用する予定だと回答している。

 「クリスマスはあんまり特別なイベントじゃあないですね」と言うのは、男子大学生だ。「プレゼントを買うのも、彼女と一緒にネットで調べて買います。デパートとか商店街とか、実物を確認するくらいしか出かけないです」という。いわゆるショールーミングという行動だ。「バイト先の店でも、年末のセールの準備はしてますが、クリスマスセールはちょっとした飾りつけをするぐらいです」とアパレル系の小売店でアルバイトする女子大学生は言う。「クリスマスプレゼントを贈るなんていうのは、私たちの世代ではあんまりないですよ。」

・フリマアプリでクリスマスプレゼント

 個人が個人と取引を行うCtoC市場、大きく流通小売業を大きく変えていると言われる。メルカリの日本事業の2019年6月期の流通総額は4,902億円、ヤフー株式会社「ヤフオク!」の2018年の国内流通総額は9,011億円などと急成長しており、今後も成長するとみられている。

 長引く不況の中で、若い世代を中心に中古衣料品やリサイクル品の利用が幅広く定着してきた。そこにこうしたネットを利用したCtoC市場が急成長させてきた背景に存在する。

 こうした傾向は、クリスマスプレゼントに関しても見られる。ヤフー株式会社が提供するフリマアプリ「PayPayフリマ」が20~50代の男女800名を対象に行った「クリスマスプレゼントに関する実態調査」(2019年12月5日)によると、「クリスマスプレゼントをフリマアプリで買うのはOKだと思いますか?」という質問に対しては、全体のうち61%の人が「新品ならクリスマスプレゼントをフリマアプリで買ってもOK」と回答し、子供のいる20代から40代の方に関しては31%以上が「新品・中古問わずOK」と回答している。

 特に子供のいる30代では、「新品・中古問わずOK」と「中古はNG、新品ならOK」の合計では76%がクリスマスプレゼントのフリマアプリでの購入に肯定的な回答を行っており、多くの人が小売店舗でなく、ネット上のCtoC市場での購入に抵抗感を持たなくなっていることを示している。

開業したばかりのグランベリーモールのクリスマスツリー(画像・著者撮影)
開業したばかりのグランベリーモールのクリスマスツリー(画像・著者撮影)

・クリスマスはもう特別なイベントではなくなりつつある

 楽天インサイト株式会社が、20~60代の男女1,000人を対象にした「クリスマスに関する調査」(2019年12月10日)でも、「特別な予定はない/いつもと変わらずに過ごす」(41.2%)と回答した人が最も多く、「自宅でクリスマスランチやディナーを家族と食べる」(36.4%)と続いている。特に女性20代・30代で「自宅でクリスマスランチやディナーを家族と食べる」(それぞれ51.3%・46.7%)とほぼ半数が「クリスマスは自宅」と回答している。従来、クリスマス商戦をけん引してきた20代・30代の女性たちにとっても、クリスマスが特別なイベントではなくなりつつあることがうかがえる。

・「ウチナカ・クリスマス」

 いずれの調査でも、自宅で過ごすウチナカ・クリスマスが主流になっていることが判る。「若いカップルが競ってフレンチレストランでディナーを食べるというのも、すでに過去のことです。うちでも20年前くらいまでは、クリスマスディナーのコースのみを12月に入ったらすぐにやっていましたが、今では21日から25日まで特別コースを提供するだけになっています」と、都内の飲食店経営者は話す。「かつては12月に入ってからでは予約が取れない店がほとんどでしたが、今年辺りは直前でも空きがあるところが多いようですよ。」

・クリスマスは中高年のための行事

 「ホームクリスマス用の食材や、来客への手軽なプレゼントが中心。クリスマスケーキも、家族の少人数化に伴って、大型のホールは売れない。」都内の百貨店関係者は言う。「もともと若者が中心のショッピングビルなどは、郊外型ショッピングモールや専門店、ネット通販に押されて、苦戦が続いている。クリスマスの豪華な飾りつけが見られるのは、中高年の多い百貨店などに限られてきている」とも指摘する。

 「1年中、なにかセールをやっている感じ。クリスマスだからといって、なにかお得感があるかというと、あんまりない」と言うのは30歳代の女性会社員だ。「以前のように今年の流行というのも少なくなっているし、品質の良い低価格品が溢れていて、セールだと言われても、そう安いと感じなくなってしまっている」と40歳代の女性経営者も指摘する。

・君はきっと来ない

 クリスマスの日には、独身男性がプレゼントの袋を抱え、女性のためにフレンチレストランを予約して散財するということも、既婚者が子供へのプレゼントを買い、大きなクリスマスケーキを抱えて家に帰るということも、過去のことになりつつある。「店頭にクリスマスケーキの箱を積み上げての臨時販売も、もう数年前から中止して、予約だけです。君はきっと来ないというのは、恋人のことじゃなくて、お客さんですね」と関西の洋菓子店の経営者は苦笑する。

 バブル景気を経験した世代に、かろうじて支えられているクリスマス商戦だが、次第に影が薄くなりつつある。ウチナカ・クリスマスが主流になる中、クリスマス商戦も次第に規模が小さくなる。「歳末商戦を、どう盛り上げていくのか。売れ行きが伸びないからと、連続するようになってしまったセールをどう整理していくのか、頭の痛い問題だ」と前出の百貨店関係者は、難しさを説明する。

 「ウチナカ」志向が強く、ネットで購買することが中心になってきている人たちを、どのように街に引き戻すのかは、流通小売業だけでは解決できそうにない。今年は年末で撤退するアパレルブランドや閉店する店も少なくない。流通小売業にとっては、本格的な淘汰の時代を迎えようとしている。

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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