地方だから給料安い?変化しつつある賃金相場~『転職賃金相場2019』より

地方だから賃金が安いという傾向に変化が見えている(画像・筆者撮影)

・東京都在住の若者の約4割は地方転職に興味がある

 パーソルキャリア株式会社が2019年7月に発表した20代~50代の全国のビジネスパーソン1,200人を対象とした「地方への転職」についての調査によると、東京都在住の20代~30代の男女の約4割(38.6%)が地方への転職に興味関心があると回答している。また、東京都出身で東京都在住の男性の2人に1人が地方への転職に興味があると回答しており、若い世代の地方への転職の関心の高さがうかがえる。

 この調査では、地方の企業に勤務している約6割(59.9%)の人が人手不足を感じていると回答している反面、自身の勤務先がUIターン転職者を受け入れるための工夫を行っていると回答した人は1割以下(6.5%)という結果になっている。

 しかし、優秀な人材を求める企業経営者は、地方の中小企業であっても採用に対する考え方を変えてきているようだ。

・経理財務は転職回数が多い

 民間人材サービスの業界団体からなる人材サービス産業協議会が、2019年12月13日に2019年4~8月の主要な職種における求人企業が提示した年収相場をとりまとめた『転職賃金相場2019』を発表した。

 それによると全職種において、年収600万円以上ではマネジメント業務が多くを占めており、管理職経験等も求められる場合が多くなっている。ただし、技術系職種では、高年収層でもマネジメント業務がない専門職が多くなっている。

 当然のことであるが、全職種に共通して当該職種の未経験者は、年収400万円未満となることが多くなっている。一方で専門的知識を持っている人材の流動化が進んでいることを示すように、経理財務など企業に共通して存在する職種の高年収層では転職回数が多い傾向にあることが明らかになった。

・地方企業の管理職で年収1,000万超えも

 『転職賃金相場2019』によると、本社所在地と勤務地の両方が、首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)・東海(愛知・岐阜・三重)および近畿(大阪・京都・兵庫)以外のエリアにあり、課長職以上の求人では、最高年収上位15%値の範囲で年収750万円から1,200万円となっている。もちろん年収1,000万円以上となると「地方の大規模~中堅企業でCXO、本部長、部長クラス。同業界内の転職が多い。大企業の管理職経験者、技術系あるいは経理系が中心。40代~50代、大卒・院卒が中心。」とかなり条件は厳しい。

 

・職務内容によっては、首都圏と同等以上の年収

 2019年の賃金相場は、「首都圏につづき、東海・近畿においても募集時年収相場の底上げが見られ、最低額・最高額ともに首都圏と大きく変わらない水準になってきている。地方企業(首都圏、東海、近畿以外)の管理職ではメインの年齢層が40代~50代であり、職務内容によっては、首都圏と同等以上の年収で決定する例もある」としており、首都圏と地方部での賃金格差は次第に小さくなりつつあると指摘している。

 

 『転職賃金相場2019』によれば、物流ドライバー(宅配)や介護職(施設・訪問)など比較的低賃金の業種においては、首都圏よりも東海圏、近畿圏の方が高額な求人も出てきている。また、製造業の現場管理系職種、経理財務、人事、法務、経営企画などの職種における上位15%では、ほとんど格差がなくなっている。

 地方においては労働者不足が深刻化し、職種によっては首都圏よりも賃金が上昇している場合もあり、また、企業の後継者不足やマネジメントスタッフの不足から高年収でも経験者を採用する場合が出てきており、首都圏との賃金格差を縮小する傾向になっている。

募集時上位15%値の最高値と最低値
募集時上位15%値の最高値と最低値
募集時上位15%値の最高値と最低値
募集時上位15%値の最高値と最低値

・生活費が安いというのは本当か

 「地方は生活費が安いから、給料が安くても大丈夫」という説明はよく聞く話である。しかし、実際に移住した人たちに話を聞くと、思っていたほど生活費が安いというわけではないと言う人が多い。

 「バスや電車だけで事足りていた都市部での生活から、移住してみるとどこに行くのも車じゃないとだめで、ガソリン代が一気に増えた。地方に前から住んでいる人にとっては当たり前のことなのだろうけど、予想を超えていた」というのは、中国地方に移住した男性だ。さらに、「もともと実家がある人たちとは負担額が違う。住居費のことを考えずに済む人たちとは、日々のコスト計算が根本的に違うのだなあと感じています」と言うのは、東北地方に移住した男性だ。また、「農産品が安いよと言われたけど、それはそこで採れるものだけ。ほかの地方から運ばれてくるものは、当たり前だけど東京とそんなに変わらない。それにネット通販なんかどこに住んでも同じでしょう」と、四国地方に転勤した女性は話す。

 

 「都会で充分稼いでいる優秀な人に、地方だから給料低いですけど来てくださいなんて、虫の良い話はないでしょう。親の介護の必要とか、そういうことで帰ってこざるを得ない人たちももちろんいますけど、そんな人の弱みに付け込むような、そして、そんなうまく話があるかどうかわからないうまい話を期待しているようじゃ、地方の中小企業だって潰れますよ」と言うのは、近畿地方の中小企業経営者だ。さらに「地方なんだから、低賃金は当然という発想しかしないのは、うちの親父のような高齢者に多い。低賃金しか出せないから、都会に若者が流れるんだろうがというと黙ってしまう」とも言う。

・どこででも仕事ができる時代だから

 インターネットの普及によって、テレワークが進みつつあり、「どこででも仕事ができる」時代になりつつある。しかし、そのことは単純に首都圏などから地方への人の流動を促進するわけではない。多くの人が地方への移住で懸念するのは、所得だ。特に現役世代で、子育てなどの負担が増加しつつある世代にとっては深刻だろう。

 一方で地方の企業においても、地方内だけではなく、首都圏や海外などを商圏として視野に入れていく必要に迫られている。そんな中で、マネジメント能力や専門技能を保有する人材を確保することが重要になりつつある。

 『転職賃金相場2019』の調査結果によれば、今までUターン Iターンにあたっては、地方や中部、関西などは給与が低いということが一つの障壁になってきたが、その差が狭まっている。そのため、居住地、転職の幅は拡がりつつあることが明らかだ。しかし、一方で地方だから賃金は安くても良いという判断では、経営幹部や技能の高い社員を獲得することは難しくなっている。

 しばしば、労働者の賃金格差が拡大していると指摘される。今回の調査結果でもキャリア形成によって転職市場での年収に格差が生まれていることが読み取れる。しかし、労働者ばかりが格差問題に直面しているわけではない。首都圏に見劣りをしない賃金を支給できる企業と、従来と同様に地方だからと低賃金しか支給できない企業との間の格差も拡がりつつあるのだ。

☆参考  

 「転職賃金相場2019」リリースのお知らせ 人材サービス産業協議会 2019年12月13日

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