Yahoo!ニュース

お盆休みが突きつける、それぞれの家庭の高齢化と少子化

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
例年恒例の帰省ラッシュ(画像・筆者撮影)

・ゴミ処理センターの行列

 愛知県郊外の市営ゴミ処理センターには、お盆休みに入って自家用車の列ができていた。「多いですねえ。午前中は、処理待ちの車がかなり行列を作り、待ち時間が1時間以上になってましたよ。みなさん、帰省して実家に溜まっていたゴミを処分しようというのでしょう。」受付をする係員は話す。ここ数年、お盆の時期には混雑する。処理センターはお盆休みの期間中も休みなく稼働する。列を作る車の中には、レンタカーの軽トラやバンも混じっており、様々な家財道具が積まれている。

・遺された物を活かしたいが

 「数百冊の書籍は、古書の引き取り業者に送り、わずかな代金はボランティア団体に寄付するようにした。タンスや押し入れにしまい込まれていた粗品や贈答品のタオルや衣料品で使えるものも、ボランティア団体に送った。それだけでも手一杯。アンティークショップやリサイクルショップで引き取ってくれるなら、無料でいいし、物によってはネットで売れば儲かると子供たちは言うが、もうそんな余裕も時間もない。」

 50歳代の会社員の女性は、両親の遺したものを処理しに来ていた。「もったいない気分もあるが、暑さと疲れで、処分できたことによるすっきり感の方が強い」と言う。NPO団体などの中には、宅配便などで送るだけで寄付できる制度を持っているところもある。しかし、この女性のように「雑多な物をまず出してきて、分類して、整理してという作業が思った以上に大変でした」ということになり、結局、廃棄物としてまとめてしまうしかない場合も多い。

・人はいなくなっても

 「ご両親が亡くなって、空き家になっている家屋を貸し出しませんかと声をかけても断られることが、けっこうある。貸せるなら、貸したいが、家財道具が家に詰まっていて、とても整理できないと言われる。」東北地方の自治体職員は、空き家問題の課題の一つをそう説明する。「人が生活してきた後には、大量の物が残されている。直接の身内だと思い出があったり、場合によっては自分のものが残っていたり、中には、骨董品的な価値があるのではないかと思われるものもある。ゴミだから整理してしまえと単純には、他人からは言えることではない」とも言う。人がいなくなっても、物が残る。その物が空き家活用の差し障りになることも多い。

空き家の手入れは予想以上に大変だ(画像・筆者撮影)
空き家の手入れは予想以上に大変だ(画像・筆者撮影)

・お盆休みは草刈り

 「お盆休みは、実家に戻って、空き家の整理と庭の草刈り。近所から、お願いだから草刈りだけは年に二回はしてくれと言われている。」そう苦笑するのは60歳代の会社員だ。山陰地方の実家の両親が亡くなって、すでに10年以上が経過し、実家は空き家のままだ。「売ろうと思っても買い手もつかない。放置して荒れると、治安にも良くないと近所の人たちから頼まれているので、このところ毎年、休暇は草刈りです。」実家で過ごしたのは、高校生までで、大学からは関西地方に移り、その後、家も大阪市近郊で購入しているため、戻る積もりもないし、子供たちは早く処分してほしいと言っている。「そろそろ決断しなくてはいけないのですが、壊すにしても費用がかなりかかる。頭の痛い話です。」

・10軒に1軒が空き家

 総務省が今年(2019年)4月に発表した平成 30 年住宅・土地統計調査によると、全国の空き家総数は846万戸、住宅総数に占める割合は過去最高の13.6%となり、実に10軒に1軒が空き家という状況になっている。空き家率が高いのは、山梨県の21.3%、和歌山県の20.3%、長野県の19.5%、徳島県の19.4%、高知県及び鹿児島県の18.9%など。一方で、空き家率が低いのは、埼玉県及び沖縄県の10.2%、東京都が10.6%、神奈川県が10.7%、愛知県が11.2%などだ。

 「首都圏や中部圏が低いといっても、10軒に1軒が空き家という状況。大都市近郊では、エリアによって状況に大きな差がある」と関西地方の不動産会社経営者はそう話す。「団塊世代が働き盛りだった頃には、住宅が不足し、郊外をどんどん造成し、鉄道の駅から路線バスで30分以上かかるようなところでも飛ぶように売れた。かつては数千万円した物件が軒並み1千万円以下。それでも買い手が現れればラッキーという状況。」手放したいが、手放すこともできないという状況は、地方部だけではなく、大都市近郊でも起っている。

余剰インフラをどう活かすかには知恵が必要だ(画像・著者撮影)
余剰インフラをどう活かすかには知恵が必要だ(画像・著者撮影)

・墓を継承する人も減っている

 さて、お盆というとお墓参りも重要だが、厳しい状況だ。『ヤシロによる”お墓に関する”意識調査・40歳~79歳男女 約25,000名に聞いた 現代の”お墓事情”』(2019年8月6日)によれば、お墓参りは「1年に1回以下」であるとの回答者が5割を超しており、その理由としては家から遠いとの回答が最も多い。さらに、「お墓を継承する人が少ない(いない)」と回答している人も3割を超している。全体の約半数の人が「先祖代々のお墓」を保有していると回答しているが、そのうち4人に1人は、お墓の引越(改葬)の可能性があると答えている。

 「夫婦ともども一人っ子で、子供がいない。お墓は両家で一つずつある上に、父方の実家から男系がお前しかいなくなったら、分家のお前が墓を継いでくれないかと言われ、気がついたらお墓が三つもある。」ため息をつきながら話してくれたのは、首都園に住む40歳代の会社員男性だ。「それぞれの墓を改葬して、まとめてしまいたいのだけれど、地方にある墓を整理して、首都圏に新たに墓を購入するとなると、費用を調べてみて、躊躇している」と話す。

 都心部では墓が足りないという状況が注目されているが、一方では家族の人数が減るのに従って墓を継承する人も減り、参る人のいなくなった墓も増えつつある。

・余ってくるものをどう活かすのか

 団塊世代が後期高齢者となり、これから本格的な人口急減時代に突入する。公的なインフラはもちろん、個人の所有物も余剰が大量に出てくる。様々なものが余る時代に、それらをいかに活かしていくかが、これからの日本の進む方向にあるのではないだろうか。

 余っているものと呼べば、負の遺産のように思える。しかし、豊かなストックだと呼べば、将来に向けて活用できる資産だと考えられる。もちろん、これらを活用するには、時間と金と、そして知恵が必要だ。それぞれの家庭で、多くの人がそれを実感したお盆休みであるだろう。

 お盆休みが突きつける、それぞれの家庭の高齢化と少子化は、そのまま日本の社会問題に繋がっている。このお盆休み、これからの縮小社会をどう生きていくのか、それぞれの家庭でも話し合うきっかけにしてはどうだろうか。

 

 

*参考資料

総務省「平成30年住宅・土地統計調査」

厚生労働省政策統括官「平成30年国民生活基礎調査(平成28年)の結果からグラフでみる世帯の状況」

株式会社ヤシロ『ヤシロによる”お墓に関する”意識調査・40歳~79歳男女 約25,000名に聞いた 現代の”お墓事情”』2019年8月6日(PR Times) 

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

中村智彦の最近の記事