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今日からスタート「サヨナラ・タックス」ってなに? ~地方の経済振興に役立てるために

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
東京オリンピックに向けてインバウンド誘致は正念場。 (撮影・筆者)

・サヨナラ・タックスとは?

 日本を訪れる外国人観光客の関心を集めているのが、今日(2019年1月7日)から始まる出国税だ。国際観光旅客税というのが正式名称で、日本人、外国人を問わず、日本から出国する際に一律一人1,000円が徴収されることになる。「観光先進国実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図るための恒久的な財源を確保するため」に新たに作られた税金だ。

 国内では、出国税という名前で報道されているが、外国メディアやSNSでは「SAYONARA TAX」(サヨナラ・タックス)という名称が使われている。観光を終えて、空港で日本に「さようなら」を言いながら、1,000円を置いていくというイメージだろうか。

・空港での混乱はない

 この出国税は、一部の例外を除き、航空会社が発券する際に、代金と一緒に乗客から徴収するオン・チケット方式が採用されているため、空港での支払いは基本的に行われない。

 また、空港での混乱を避けるために、1月7日以降の搭乗でも、6日までに搭乗券の購入が済んでいれば、出国税が免除されることになっている。そのため、出国税が実施される1月7日も、空港での混乱はないと考えられる。

・1,000円は高い?安い?

 出国税の金額1,000円については、高い、安い、様々な意見が出されている。諸外国の事例を見ても、すでに各国で出国税の徴収が行われており、珍しいものではない。例えば、シンガポールのチャンギ国際空港では、昨年(2018年)7月1日から利用に関する税金や利用料が大幅に値上げされ、旅客サービス・警備費(Passenger Service and Security Fee=PSSF)30.4シンガポールドル、空港税6.1シンガポールドルの合計36.5シンガポールドルに加えて、新たに設けられた空港開発税10.8シンガポールドルが加わり、47.3シンガポールドル、日本円にして約3,800円が徴収されている。シンガポール政府は、旅客サービス・旅客保安サービス料を今年(2019年)以降、2024年まで毎年4月に2.5シンガポールドルずつ増額すると発表している。

 こうした空港での旅客サービス利用料、旅客保安サービス料に加え、出国税を徴収する流れは国際的なものとなっている。そんな中で、新たに日本でも実施される出国税は、外国人観光客からも大きな反発は起こらないと思われる。また、一回当たり1,000円という金額も現状ではあまり話題にも上らない程度の金額だと言える。もちろん、年に一回程度の海外旅行を楽しむ利用客にとっては、1,000円の増税でしかないが、ビジネス利用で毎月一回は海外に出張するというような人や、そうしたスタッフを多数抱える企業にとっては、ジワリと負担が増えることになる。

・負担感覚が薄いオン・チケット方式

 

 税金や利用料を徴収する側からすれば、払う側が負担をできるだけ感じない方式が良い。例えば、新東京国際空港では、以前は旅客サービス施設使用料(PSFC)を国際線利用客が空港で支払う方式を採っていた。しかし、1991年1月から航空会社が発券するチケットの販売金額に上乗せする形で徴収するオン・チケット方式が導入された。この方式の場合、利用客は航空会社や旅行代理店に航空券代として代金を支払う際に、旅客サービス施設使用料(PSFC)が含まれているために負担感を感じさせない効果がある。

 したがって、今回の出国税の議論の中でも、先に挙げたシンガポールの約3,800円程度に比較すると、新たな出国税1,000円は安いという意見を持っている人もいるが、実際にはすでに旅客サービス施設利用料、旅客保安サービス料は、空港やターミナルによって差があるものの、相当金額が徴収されているのであり、海外との比較はそれらを加えた上で行う必要がある。

航空運賃以外に空港を利用するために必要な金額には差がある。
航空運賃以外に空港を利用するために必要な金額には差がある。

・最高は関西国際空港の4,040円。福岡空港、新千歳空港ならば、その約半額。

 それではいったい海外旅行をする際に、航空運賃とは別に、空港を利用するために、いくら必要になっているのだろうか。国内主要空港の国際線ターミナルを利用した場合を表にまとめてみた。(注 LCC専用ターミナルの料金は、表に示したものよりも低額に設定されているが、今回は通常のターミナルでの比較とした。)

 

 これで見ると、従来から徴収されていた旅客サービス施設利用料、旅客保安サービス料に、出国税を加えた金額は、関西国際空港が国内の空港ではもっとも高額で4,000円を超すこととなる。逆に、福岡空港や新千歳空港などでは、2,000円程度と関西国際空港の約半分程度となっている。地方空港などでは、富士山静岡空港のように旅客サービス利用料、旅客保安サービス料を徴収していない空港もあり、それらの空港からの出国の場合は、新たに設けられた出国税1,000円だけの負担ですむ。

・地域の観光振興に寄与するか

 政府は、この出国税によって年400億円以上の税収を見込めるとしている。この出国税に関しては、2017年11月にとりまとめられた観光庁の有識者検討会において、「高次元の観光施策」の実施を可能にするための新たな財源として提言されたものだ。2020年の東京オリンピックに間に合わせる必要があり、わずか約1年後での導入となった。

 政府は、この出国税を財源に、海外からの観光客の誘致に力を入れるために、出入国手続きの円滑化、海外での宣伝強化、地域観光資源の整備を実施するとしている。こうした出国税に関しては、日本人も支払うものの納税することによるメリットが少ないことなどが問題点として指摘されている。また、オン・チケット方式によって納税している感覚が少なく、日本人の納税者の関心が薄くなりがちなことや、納税者の多くが自国民ではないことから、資金の利用方法などが杜撰になるのではないかとの懸念が生まれている。

 また、東京オリンピックの開催に合わせるために急ぎ導入したが、日本にとっての観光戦略は、短期的なものではなく、長期的な視野で400億円以上の資金を地方の観光振興など地域経済の振興に役立てるように、各自治体からも積極的な提案や提言が求められる。

 「他国もやっているから」、「わずか一人1,000円だから」という発想ではなく、この厳しい時代においては、なかなか得ることのできない重要な資金であることを我々もきちんと認識することが大切だ。インバウンド誘致や国際化に関して、華々しく打ち上げたクール・ジャパン戦略の杜撰さが問題になったのは、最近のことだ。新たな財源ができたからと、クール・ジャパン戦略の二の舞になるようなことの無いよう多くの人が関心をもっておく必要があるだろう。

参考・国税庁『国際観光旅客税について』

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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