Yahoo!ニュース

「低学歴の外国人単純労働者をかき集める国」で未来は拓けるのか

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
大阪・道頓堀 聞こえてくる声は、ほとんどが外国語 (撮影・筆者)

・来年4月から外国人労働者がやってくる

 外国人労働者受け入れ拡大を進める出入国管理法改正案が、国会で成立した。これで、2019年4月からは、新しい在留資格「特定技能」の対象14職種での外国人労働者の受け入れが始まる。介護や外食産業など14業種が「特定技能1号」に分類され、初年度に最大4万7550人、5年間で約35万人の受け入れが見込まれている。

 

・「技能実習制度は使わない」と言う若手経営者たち

 中部地方で開かれたある経営セミナーで、人材不足に関する発表を行った中小製造業の経営者は、「うちは技能実習制度を使ったこともないし、これからも必要ないと考える」と発言した。「うちが欲しいのは低賃金で働く単純労働者ではない。留学生なども含め、優秀な人材であれば、外国人でも正社員として日本人と同賃金で迎えている。」

 同じセミナーで出席していた別の中小製造業の経営者も、「日本人が集まらないような低賃金しか払えない経営で、将来、事業を続けていけるのか。自分の代だけ、当面しのげれば良いという経営者とは話は合わない」と言う。

 ここ数年、特に若手経営者を中心に外国人雇用に力を入れる企業が増えている。しかし、それらはいずれも国内外の大学や大学院を卒業した外国人などを正社員で雇用しようとする動きだ。首都圏のある経営者は、周辺の企業経営者と連携して、東南アジアの大学や大学院からインターンシップ生を積極的に受け入れたり、それらの大学への企業説明会などを実施している。「うちが欲しいのは、自社の次世代の経営を担ってくれる人材。外国人を採用すると、もちろん習慣の違いや発想の違いからトラブルになることも多いが、それも経験とノウハウになっていく」と話す。

・外国人労働者の受け入れ緩和は良いニュースではないのか?

 もちろん一部の企業経営者は、技能実習制度への批判に反発する。「うちは今まで、失踪したり、自殺したりした実習生はいない。一部企業の問題を全体のように批判されるのは納得いかない」と東北地方の中小製造業経営者は話す。しかし、「同じ業界で外国人実習生に対して虐待や性的暴力などが行われているという噂は以前、聞いたことがある。」とも話す。

 今回の政府の出入国管理法改正でも、技能実習制度をどうするのかはっきりとは示されていない。政府の見込みでは、現在の技能実習制度で在留している人のほぼ半数、業種によってはほぼすべてが、在留資格を「特定技能1号」に変更するだろうと見込みながら、廃止を打ち出していない。

 首都圏の中小企業経営者は、「労働者であって労働者でないという中途半端な技能実習制度よりも、きちんと労働者として受け入れる新制度の方がすっきりして良い。なぜ経営者側が、ここまで問題が噴出している技能実習制度の存続を主張しなくてはいけないのか理解できない」と批判する。「要するに日本人よりも低賃金で、逃げられないように囲い込んで働かせることができるからだと勘繰られても仕方ない。そういう経営者と話をする機会もあるが、どこかアジア諸国の人たちを下に見ているというか、自分たちの方が上だという意識が見え隠れしている気がする。」

・「日本で就職しない方が良いのではと親に言われた」

 ある留学生が苦笑しながら、「親から、日本はもっと良い国だと思っていたが、危ないようなので、日本で就職しない方が良いのではないかと言われた」と話した。別の留学生は、「日本人は気が付いていないかもしれないが、アジア各国でネットのSNSなどを通じて、ベトナム人が会社で虐待されている映像が流れ、日本に働きに行くのは危ないという話になっている」と話す。

 人材派遣企業に勤務し、外国人雇用にも詳しい社員は、「10年前と状況が大きく変化している。何か起これば、SNSなどであっという間に拡がる。以前は問題が起こっても、口コミで広がる程度だったが、今はみんなスマホで動画を撮影し、すぐにネット上に拡散する。どこの国でもそうだが、そういった拡散のスピードを理解できない人たちが、まだまだ多いのではないか」と話す。さらに、「大学卒で中国の給与はだいたい7万円程度。そう言うと日本では3倍出せるから魅力的だろうと言う経営者が多い。2倍程度でも喜ぶのではないかとも言った経営者もいてびっくりした。」と話す。「中国に住み、ほかの中国人の3倍、2倍の給料がもらえるのならば、すごく喜ぶでしょう。しかし、日本で日本人と同じ給料をもらっても、生活費も中国の3倍かかるのです。日本にいるのに、日本人より安い給料で満足するという考えがどこから出てくるのか判りません。安くて優秀な人材なんていたら、紹介なんかせずにうちの会社で採用しますよ。」と苦笑いする。

 中国の給与の3倍出していると言っても、それは平均的なものである。中国をはじめとする諸外国では、競争の激しいIT関連や先端産業では、大学新卒者でも30万円を超す給与も出す企業も増えている。もはや日本は、「給与の高い」国ではなくなりつつある点も注意が必要だ。

・「うちの給料では日本人が来てくれないので、留学生を紹介してください。」

 現実に筆者も、昨年から複数の中小企業経営者から「うちの給料では日本人が来てくれないので、留学生を紹介してください」という連絡を受けた。「人手不足で困っている。日本人の大卒を採ろうにも、給与が安くて来てもらえない。労働条件も悪い。しかし、留学生ならば、就職に困っているだろうから、うちの安い給料でも来てくれるのではと思って」と言われる。真剣なのは判るが、そんな都合の良い人材はいない。

 そもそも日本語レベルが高く、アルバイトも経験し、日本で就職しようとしている留学生は、日本人学生の給与水準も知っているし、なによりすでに多くの企業が留学生の採用に力を入れている。実際に筆者の教え子の留学生の中には、日本の大手企業に就職し、日本人同僚と同様か、中には語学力などを生かし、それ以上の給与を得ている者も少なくない。さらに、留学生たちの行動が10年前とは大きく異なっており、「なにがなんでも日本で就職したい」という学生は減ってきている。自国の経済発展による給与水準の上昇や、日本での生活費の高さなどを勘案し、帰国を選ぶ学生も多くなっている。

・低学歴の単純労働者をかき集める国?

 アメリカの調査会社ギャラップが12月10日に発表した調査結果は、日本にとっては厳しい示唆を与えている。日本では外国人労働者の導入や移民の話題で盛り上がっているが、世界から見た場合、それほど「行きたい国」ではないのだというのが、調査結果から伺えるのだ。

 そもそも少子高齢化、人口減少で労働力不足に悩む国は、日本だけではない。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど先進国はほぼ同じ状況であり、そのための対策として外国人労働者や移民の確保が重要な課題になっている。

 そうした中で、152カ国の約45万人に、「仮に世界中の人々が自由に移動できるとしたら、どこの国に行きたいか」と尋ねたアンケート結果が発表された。それによると最も人気があったのがカナダで、移住による潜在的人口増加率は147%。以下、アメリカ46%、フランス44%、イギリス37%と大幅な増加が見込まれることが判った。ところが、日本はわずか1%の増加しか見込めないという結果だった。

 さらに、15歳から29歳の潜在的人口増加率を見ると、カナダ120%、アメリカ7%、フランス170%、イギリス133%に対して、日本は51%。

 問題なのは大学卒業以上の人材の潜在的人口増加率=PNMI(ポテンシャル・ネット・ブレイン・ゲイン・インデックス)は、カナダ343%、アメリカ112%、フランス27%といずれもプラス。ところが、EU離脱決定前にはプラスだったイギリスがマイナス1%。そして、日本はなんとマイナス8%という数字になっている。

 つまり、日本に対する評価は、そもそも移住したい国ではない上に、若年層では若干の移住希望者が見込めるものの、それも低学歴の単純労働者が中心だということになる。

・冷ややかな反応をする若い世代

 今回の外国人労働者問題に関して、経営者に話を聞く機会が多いが、総じて30歳代、40歳代の経営者は冷ややかな反応をする。外国人「単純」労働者ではなく、彼らが求めているのは国籍に関係なく優秀な従業員である。

 以前から留学生の採用に取り組んできた経営者の一人は、こう言う。「機械化、省人化、IoTの活用など、人材不足を乗り切るためにできる限りの努力をする。それで足りない分に関して、外国人労働者を導入するのであれば判る。しかし、今の段階で給与も充分払えない、労働環境も悪いままという経営者を救済するために、外国人単純労働者を導入することは、むしろ日本経済を弱体化させるのではないか。自分たちの保身のために、国の将来を危うくするのは止めて欲しい。我々、日本の中小企業にとって必要なのは、国籍関係なく優秀な人材であって、それが来なければ国際競争には勝てない。」

・「単純労働者と呼ぶな」という経営者も

 関西地方のある介護施設経営者は、「法改正は待ち望んでいた。介護の現場は人手不足で、入所施設への入所希望者は増加している。当社でも施設はあるのに、介護スタッフが足りないために受け入れができない状態が続いている。」と言う。さらに「介護施設のスタッフは、単純労働者ではない。日本語の能力だけではなく、介護の専門知識や資格取得なども必要になってくるので、一定の能力がある人たちに来てもらわないと回らない。私は、こうした仕事を単純労働者と呼んでまとめてしまうことに抵抗がある」と続ける。この経営者は、「送り出し国には専門学校を設置し、日本に来た段階で資格取得を目指す。日本に来てからは、給与や待遇は当然、日本人と同じだ。違えたら、すぐに判ってしまうでしょう。」とも言う。

・日本の社会のこれからのあり方を左右する

 そもそも、単純労働を担ってもらうために導入する外国人単純労働者と、国際競争力を維持するために技能、技術、ノウハウ、資金などを持つ外国人に移住してきてもらう移民、そして戦災や災害、政治的迫害から逃れる人たちを人道的に受け入れる難民とは、それぞれ別個のもののはずである。

 労働力が足りないから、外国人単純労働者を大量に導入し、その中で良い者は定住させて、人口減少対策のために移民を認めていこうなどと言う発想で、日本の将来が切り開けるのだろうか。出入国管理法改正の導入には賛成だが、外国人単純労働者をそのまま滞在させ、「特定技能1号」から「特定技能2号」に移行させ、家族帯同させるという制度には疑問を抱いている人が多い。

 そもそもこれだけ問題が噴出している外国人実習制度の廃止や、現在実習制度を利用している優良企業が新たな外国人労働者受け入れ制度にスムーズに移管できるような整理もできないままで、多くの競争相手国の中から「日本」が外国人から選ばれるのだろうか。目の前の問題を解決できれば良いと、「低学歴の外国人単純労働者をかき集める国」で未来は拓けるのか、もう一度、考えるべきだ。

※Don't PICK, please.

 参考  Gallup, " Japan May Want Migrants More Than They Want Japan " BY JULIE RAY DECEMBER 10, 2018

 

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

中村智彦の最近の記事