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またしても「狭窄部」か?水害が起こりやすい場所の特徴

中村晋一郎名古屋大学 大学院工学研究科 土木工学専攻 准教授
令和元年東日本台風での浸水被害の様子(写真:Motoo Naka/アフロ)

またしても発生した大水害

7月4日、熊本県を流れる球磨川が氾濫し深刻な被害が発生した。

既に一部報道で指摘されているように、今回の被害の拡大を招いた理由の一つが「狭窄部」である可能性が高い(図)。

狭窄部とは、川幅が急に狭くなる場所のことであり、川の流れが滞りやすく、古くから水害が起きやすい場所として専門家の間では知られている。

まだ記憶に新しい2018年西日本豪雨で被災した岡山県倉敷市真備町や、昨年の東日本台風で大規模な浸水が発生した長野市も、それぞれ高梁川と千曲川の狭窄部の上流に位置していたことがニュース等でも取り上げられた。

そして、今回甚大な被害が発生した熊本県人吉市も球磨川の狭窄部に位置している。

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水害常襲地とは?

水害が頻繁に起こる場所ことを、専門的には「水害常襲地」と呼んでいる。

私たちの研究グループで実施した調査では、全国には水害常襲地として特定できる地域が、少なくとも24市町村138カ所あることが分かっている。この中には、今回氾濫した球磨川も含まれる。

この水害常襲地を、地形や住まい方の特徴などで分類したのがこの表である。

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水害常襲地には様々な特徴があるが、大きな河川に着目すると「狭隘型」と呼ばれる場所に多くの水害常襲地が位置していることが分かる。今回被災した人吉市中心部は、人吉盆地から狭窄部へと抜ける上流に位置しており「狭窄部上流」型に属する。

また、今回の水害では人吉盆地より下流の狭隘部(山の谷間を縫うように川が流れる場所)でも川の氾濫が多数発生しているようだ。このような地域は「盆地下流」型に属し、川から氾濫した水を逃す場所がないため、水位が高くなり、深刻な被害が生じやすい。

まだ被害の全容は見えないものの、球磨川は洪水による被害が大きくなりやすい要因が重なっており、今後の被害の拡大が心配される。

今から考えるべき私たちの住まい方

近年多発する大水害の要因の一つは私たちの住まい方にある。

気候変動や人口減少などによって水害がさらに激化することが予想される今、私たちは新たな住まい方を模索すべき時にきている。しかし、水害に強い住まい方へと変えていくにはとても長い時間がかかる。

水害に強い住まい方への変革を社会全体で始めると同時に、一人一人が自分の住んでいる土地と水害の特徴をしっかりと認識し、水害への備えを確実に行っていくことが大切である。

名古屋大学 大学院工学研究科 土木工学専攻 准教授

国内外のフィールドで,水を通した社会、地域づくりに関する教育・研究を行っている.1982年宮崎県都城市生まれ.東京大学大学院 工学系研究科 修士課程修了後,民間建設コンサルタント,東京大学 総括プロジェクト機構「水の知」(サントリー)総括寄付講座 特任助教,名古屋大学 大学院工学研究科 専任講師などを経て,2018年11月より現職.そのほか,市民団体「善福寺川を里川にカエル会(通称:善福蛙)」共同代表等を務め,水辺や健全な水循環の再生に向けた実践を行っている.専門は国土デザイン学,水文学,水資源学.博士(工学).

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