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飲み水と水害について考えておくべきこと

中村晋一郎名古屋大学 大学院工学研究科 土木工学専攻 准教授
(写真:アフロ)

本日の朝日新聞の朝刊にてショッキングな報道がありました。

浸水想定578浄水場、対策せず 台風19号、福島では被害も

出典:朝日新聞

この紙面で私のコメントも掲載されていますが、限られた中ですべてをお伝えするのは難しいため、紙面ではお伝え出来なかった、私たちの飲み水と水害の関係について記したいと思います。

浸水想定区域の中に浄水場が?

今回の報道の中心は氾濫などで浸水する恐れがある場所に、私たちの水を届ける浄水場が数多く位置しているというものでした。まず、この事実に驚かれた方もいらっしゃったと思います。しかし、これはある意味仕方のないことでもあります。

水は高いところから低いところへ、水が流れやすいところへと流れます。私たちが使う水を川からもってくる際には、水の流れやすいところ、つまり効率的に導水できるところに水の施設を置くことが一般的です。日常的に水が流れやすい場所というのは、洪水にとっても水が流れやすい場所です。よって、洪水が流れることが想定される場所(浸水想定区域)に浄水場が立地していることは、ある意味、必然であると言えます。

仮に、浸水しにくい高い場所に浄水場を設置すると、電気ポンプなどを使って水を送る必要があり、その分コストとエネルギーが必要になります。水の利用(恵み)は、水の危険性(リスク)とともにあります。

では、被害は防げないのか?

今回の台風では、実際に浸水した浄水場の被害が多く報道されています。浄水場自体の対策としては、浸水すると被害が長期化する電気機械設備を高い位置に移設する、防水扉を設置するなどの浸水対策があり、これらは早急に実施されることが望まれます。浄水場が浸水被害を受けると、断水が長期化するなど深刻な被害が生じるからです。

しかし、今回注意すべき点は、各地の断水の原因の多くが、浄水場の浸水ではなかった、ということです。今回の台風では、川から水を引き込む取水施設や取水井戸、そして取水施設から浄水場へ運ぶ導水管などの付随施設が数多く被害を受けました。これらの付随施設が被災すると、浄水場は孤立してしまい、家庭まで水を送ることができません。必ずしも浄水場本体の浸水を防いだからといって安心とは言えません。あくまでトータルで見た安全性を目指す必要があります。

とはいえ、すべての施設に対して浸水や洪水対策を行うことは、予算的制約があるため長い期間を要します。よって、被害後の水道施設の早期復旧を行うための技術者の育成、そして被害がなかった自治体からのサポートを行う体制の構築といったソフト面の対策も充実させていく必要があります。

私たちが今回の台風で考えるべきこと

私たちの飲み水は、私たちが日ごろ支払っている水道料金によって成り立っています。水道というインフラの問題は私たち自身の問題であると言えます。

人口減少社会において、水道事業費は今後、減少していくことが予想されます。上に記したような対策を、すべての地域で即座に実施することはより難しくなります。よって、水道の管理者の災害対策だけでなく、個人や地域での備えが今後ますます重要になってきます。台風が接近することが分かれば、事前にお風呂に水をためておく、飲み水を備蓄しておく、地域内の共同井戸を確認しておくなど、自助・共助の取り組みを心がけることが大切です。

自分たちが使っている水がどこからきているのか、それは誰に、どのように支えられているのかを知り、その中の恵みとリスクを認識して、自ら行動することが重要です。

名古屋大学 大学院工学研究科 土木工学専攻 准教授

国内外のフィールドで,水を通した社会、地域づくりに関する教育・研究を行っている.1982年宮崎県都城市生まれ.東京大学大学院 工学系研究科 修士課程修了後,民間建設コンサルタント,東京大学 総括プロジェクト機構「水の知」(サントリー)総括寄付講座 特任助教,名古屋大学 大学院工学研究科 専任講師などを経て,2018年11月より現職.そのほか,市民団体「善福寺川を里川にカエル会(通称:善福蛙)」共同代表等を務め,水辺や健全な水循環の再生に向けた実践を行っている.専門は国土デザイン学,水文学,水資源学.博士(工学).

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