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ラツィオ、理想のスーパーサブがセリエAの新代名詞? 神がかり的活躍が新たな「ゾーン」に

中村大晃カルチョ・ライター
9月30日、セリエAアタランタ戦でのカイセド(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

11月9日に46歳の誕生日を迎えたアレッサンドロ・デル・ピエーロは、美しいカーブを描く左45度からのシュートで知られた。彼の名前がついた「デル・ピエーロ・ゾーン」という言葉は有名だ。

イタリアには、「チェザリーニ・ゾーン(ゾーナ・チェザリーニ)」という表現もある。1920年代から30年代にかけてプレーしたレナト・チェザリーニを由来としたものだ。

アルゼンチン出身で同国とイタリアの代表としてプレーしたチェザリーニは、1930年代に5連覇を達成したユヴェントス黄金期のメンバーのひとり。1931年のハンガリー戦で終了間際にイタリアを勝利に導く決勝点を挙げるなど、土壇場での劇的ゴールで知られた。

サッカーにとどまらず、他スポーツや一般社会でも、ギリギリの状況で決着がつく際に用いられる「ゾーナ・チェザリーニ」だが、約90年の時を経て新たな言葉に生まれ変わるかもしれない。

◆次々に劇的弾

11月8日のセリエA第7節、ラツィオ対ユヴェントスの一戦は、1-1のドローに終わった。クリスティアーノ・ロナウドに先制を許し、敗戦濃厚だったラツィオに勝ち点1をもたらしたのは、54分から出場して95分に劇的な同点弾を挙げたフェリペ・カイセドだ。

カイセドの劇的なゴールはユヴェントス戦にとどまらない。1日のトリノ戦では、73分から出場して98分に決勝点をマーク。4日のチャンピオンズリーグのゼニト・サンクトペテルブルク戦でも、59分から出場して82分に同点弾を挙げている。まさに神がかり的な活躍の1週間だった。

データサイト『Opta』によると、昨季からの2シーズンで、カイセドはアディショナルタイムに5ゴールを記録しており、これはリーグ最多の数字という。

劇的弾が続けば、だれもが「ゾーナ・チェザリーニ」を思い起こす。『Il Sole 24 ORE』紙のダリオ・チェッカレッリ記者が「さらばチェザリーニ、ゾーナ・カイセド誕生」と題した記事を記したように、多くのメディアが新たなゾーンの名にふさわしいカイセドを称賛した。

◆謙虚な「12番目の選手」

魔法がかった決定力には、味方も驚いている。試合後、フランチェスコ・アチェルビは「どうやっているのか分からない。論理的な説明はない」と感嘆した。(『EUROSPORT』より)

本人は「みんなのゴールだ」と謙虚な姿勢を崩さない。「正直得点できるとは思っていなかった」と明かしたカイセドは、アシストしたホアキン・コレアを筆頭にチームメートを称賛した。そんなカイセドの人間性には、シモーネ・インザーギ監督も賛辞を寄せている。

元インテルのダニエレ・アダーニやクリスティアン・ヴィエリは、インスタグラムのライブ配信で、「12番目の選手」としての役割をこなすカイセドを絶賛した。アダーニは元インテルのフリオ・クルスと比較し、ヴィエリは自分がインテル幹部ならロメル・ルカクの控えとして獲得すると話している。

◆総力戦に必須

実際、ラツィオの絶対エースはチーロ・インモービレだ。ユヴェントス戦のように彼が欠場しても、今季から加入したヴェダト・ムリチがいる。在籍4年目のカイセドは、夏に移籍する可能性もあった。

だが、少ない時間でカイセドは結果を出し続けている。今季は公式戦8試合出場で4得点だが、スタメンは2試合のみ。それでも、82分ごとに1ゴールというペースでネットを揺らしているのだ。

短いオフシーズンに過密日程と、異例の2020-21シーズンだけに、各クラブは総力戦を求められている。レギュラー以外の貢献が欠かせない。インザーギとチームにとって、これほど頼もしいスーパーサブはいないだろう。

ラツィオは10月20日のCLボルシア・ドルトムント戦以降、公式戦6試合で3勝3分けと負けなし。負傷や新型コロナウイルスの影響で欠場者が相次ぐ中、奮闘を続けている。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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