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ミラン、欧州復帰は黄金時代の夜明け? ザックの懸念は「イブラヒモビッチ、その後」

中村大晃カルチョ・ライター
9月17日、EL予選シャムロック戦で先制点を決めたミランのイブラヒモビッチ(写真:ロイター/アフロ)

失うものしかなかったシーズン初戦での勝利は、上々の船出と言えるだろう。

9月17日、ミランはヨーロッパリーグ(EL)予選で勝利した。ズラタン・イブラヒモビッチとハカン・チャルハノールのゴールで格下シャムロックを沈め、本大会出場に向けて一歩前進している。

◆確かな一歩で開幕

データサイト『Opta』によると、ミランのユニフォームを着たイブラヒモビッチが欧州の舞台でネットを揺らしたのは、2012年2月15日のチャンピオンズリーグ(CL)のアーセナル戦以来、じつに3137日ぶりという。

ミランにとって、欧州戦は2シーズンぶりだった。昨季はファイナンシャルフェアプレー違反でEL本大会に出場していなかったからだ。CLではなくEL、それも予選とあり、黄金期を知る者は喜べないかもしれない。だが、とにもかくにも、ミランは欧州の舞台に戻ってきた。そして、勝った。

もちろん、これは序章に過ぎない。序章でなければならない。2020-21シーズンの最低目標は、CL出場権獲得だ。そのためには、セリエAで4位以内に入るか、ELで優勝しなければならない。ELはミランにとって「あるべき場所」、つまりCLに復帰のための重要な道のひとつなのだ。

だからこそ、シャムロック戦の重圧は小さくなかった。一発勝負で負ければ終わり、しかも相手は格下。予選敗退なら経済的にもクラブの痛手となる。何より、ここで躓けば「勝者への回帰」など、夢のまた夢となっていただろう。

ステーファノ・ピオーリ監督や幹部のパオロ・マルディーニが強調していたように、気を緩めることなど万が一にも許されない一戦だった。そして、ミランは歩みを間違わなかった。

◆明るい未来

昨季からの好調が途絶えなかったのも吉兆だ。『Opta』によれば、公式戦14試合連続無敗は、2008年11月の16試合以来となる数字。カルロ・アンチェロッティ監督のラストシーズンだ。

すべてのミラニスタが夢見るのは、そのアンチェロッティ時代のような黄金期への復活だろう。当然、道のりは長い。ただ、混迷が続いた近年と違い、希望の光は少しずつ大きくなっている。

ロックダウン後のセリエAで最高成績を収めたミランは、ラルフ・ラングニック体制への移行から、ピオーリ続投に方針を転換。39歳になるズラタン・イブラヒモビッチとも契約を延長した。

自らを「神」と呼ぶイブラヒモビッチの存在が、若い選手たちを変えたのは周知のとおりだ。その筆頭格ハカン・チャルハノールは、公式戦直近7試合のうち4試合で得点とアシストを記録している。

一方で、ミランはイタリアの未来を担うと期待される20歳のサンドロ・トナーリも獲得。さらに、レンタルで21歳のブラヒム・ディアスも手に入れた。シャムロック戦はともに終盤からの出場だったが、これからチームに溶け込んでいければ大きな武器となるはずだ。

ただ、ミランの若手は彼らだけではない。テオ・エルナンデスやイスマエル・ベナセルは22歳、フランク・ケシーも23歳だ。前線には21歳のラファエウ・レオンやアレクシス・サーレマケルスがいる。経験豊富で忘れがちだが、ジャンルイジ・ドンナルンマもまだ21歳だ。

加えて、チャルハノールや完全移籍を果たしたアンテ・レビッチが26歳、キャプテンマークを巻くアレッシオ・ロマニョーリが25歳と、脂が乗る時期を迎えた主軸も少なくない。

バランスの取れた年齢構成で、イブラヒモビッチによる“教育”が実を結べば、ミランの将来は明るいのではないか。OBのフィリッポ・ガッリは、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』で「新たなゴールデンエイジの始まりであることを願おう」と、シルヴィオ・ベルルスコーニ時代の再来に期待を寄せた。

◆大黒柱の不在時が不安

しかし、そのイブラヒモビッチ効果に懸念があるのも事実だ。39歳の「神」が全試合をフルにこなすことは想定できない。そして、イブラヒモビッチ退団と同時に他選手の確変も終わらないかどうかだ。

元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニも、その点を指摘している。『TUTTOmercatoWEB』のインタビューで、ザッケローニは「イブラヒモビッチがいないと、パーソナリティーの限界が露呈された。いなくなったときに、あの選手たちがどうなるか」と話した。

ザッケローニは「言われていたほど選手たちは悪くなかったと思う」と、イブラヒモビッチ以外のメンバーを評価したうえで「だが、パーソナリティーの点では非常に疑問」と続けた。大黒柱不在でも強い気質を出せるようでなければ、優勝はできないと断じている。

10日付の『ガゼッタ』でも、ザッケローニは「スクデットにはさらなる仕上げが必要」と話していた。ファブリツィオ・ボッカ記者も、『レプッブリカ』で「イブラヒモビッチがミランのリーダーなのは確かだが、遠くに行くにはほかもまだ必要」と記している。

フェデリコ・キエーザ、ニコラ・ミレンコビッチ、ティエムエ・バカヨコの獲得が取りざたされるが、財政的に全員の獲得は不可能。9年前に獲得したスクデットに再び手を伸ばすのは、まだ難しそうだ。

◆国内外で夢に向かって…

とはいえ、今のミランが目指すべきは、スクデットではない。世界の人々がミランに連想する姿、つまり欧州最高峰の舞台の常連に戻ることが先決だ。そして、ザッケローニも、ミランにCLを狙う戦力があるのは「疑いない」と答えている。

繰り返しになるが、それにはセリエAで4位以内に入るか、ELでトロフィーを手にするしかない。アルベルト・チェルッティ記者は、『Calciomercato.com』で、ラ・リーガを4位で終え、ELでインテルとの決勝を制したセビージャを模範とし、国内外の双方で目標達成を目指すべきと訴えている。

その第一歩となるシャムロック戦で、ミランはしっかりと勝ち切った。まずは、ひとつ目のハードルを乗り越えた。もちろん、新たな黄金期を築くまでの道のりは、まだ果たしてなく長い。今のミランにはとても大きな夢だ。だが、夢は見なければかなわない。

次の舞台は、国内だ。21日、ミランはセリエA開幕戦で冨安健洋所属のボローニャと対戦する。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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