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ピルロ新監督のファーストインプレッションは? ユヴェントス仰天人事に「魅力より狂気」

中村大晃カルチョ・ライター
2018年12月3日、イベントでのピルロ。指導者初キャリアがユヴェントス監督に(写真:Shutterstock/アフロ)

チャンピオンズリーグ(CL)でベスト16敗退に終わった翌日、イタリア王者ユヴェントスが驚きの監督人事を発表した。1年目で国内9連覇を遂げたばかりのマウリツィオ・サッリを解任し、10日前にU-23監督に就任したばかりのアンドレア・ピルロを後任に据えたのだ。

◆解任ではなく新監督に驚き

サッリ解任は、サプライズではなかった。就任初年度で9年連続スクデットを実現したが、得点・失点・黒星の数でいずれもリーグトップに立てず。内容の悪さを指摘する声は後を絶たなかった。加えて、スーペルコッパにコッパ・イタリアと、国内カップ戦でトロフィーを逃している。

極めつけが、CL決勝トーナメント1回戦敗退だ。リヨン相手に敵地で敗れ、ホームでは勝利こそしたものの逆転に至らず。クリスティアーノ・ロナウドひとりが奮闘したが、チームとして妥当な敗退だったとの評価が大半だ。欧州制覇を最優先目標としているクラブでは許されない。

ただ、後任ピルロに目を見開いた人は少なくないだろう。稀代の司令塔だったのは言うまでもない。IQの高さと類まれなる視野、現役時代のチームメートたちが称賛する気質と、大きな期待を集めるだけの素地はある。C・ロナウドとの関係が良好と言われ、コストも抑えられる

だがいかんせん、指導者経験が皆無だ。バルセロナにおけるジョゼップ・グアルディオラ、レアル・マドリーにおけるジネディーヌ・ジダンと比較する声もあるが、彼らはBチームの監督やアシスタントコーチで下積みをしている。

新監督候補には、様々な名前が挙がっていた。ラツィオを飛躍させたシモーネ・インザーギに元トッテナムのマウリシオ・ポチェッティーノ、マドリーでC・ロナウドと栄光を分かち合ったジダンは「夢」と言われた。イタリア代表のロベルト・マンチーニの兼任説、前任者マッシミリアーノ・アッレグリの復帰案、OBのパウロ・ソウザといった声もあった。

その中で、経験ゼロのピルロに白羽の矢が立てられたのだ。イタリアと世界の名門、セリエA優勝が半ば義務化し、欧州の頂点に立つことを求められるメガクラブのベンチに、新米監督が座る――驚きの声が上がるのも不思議ではない。

◆案の定、多方面から「リスキー」の声

実際、一般のファンもリスキーな選択と考えている。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』電子版のアンケートでは、6000人を超えるユーザーのうち、75%強が「危険。経験を積む時間が必要だった」と回答。「正しい。選手同様、監督としても規格外のはず」は25%に達していない。

OBのパオロ・ロッシも、『コッリエレ・デッラ・セーラ』で「危険でとてもリスキーな選択」と発言。ステーファノ・アグレスティ記者は、『Calciomercato.com』で「魅力よりも狂気」の人事と評している。

「このセンセーショナルで改革的な選択には、さらに前進したいという会長の意欲もある。9連覇だけでなく、才能ある監督を発見した会長、ということだ。見方が正しければ、ほぼ伝説的な存在となる。うまくいかなければ、少なくともごう慢とみられるだろう」

ファブリツィオ・ボッカ記者は、『レプッブリカ』で、ピルロが4-3-3とポゼッションを重視する点でサッリと大きく違わないとしたうえで、そのスタイルが現チームに合うかは分からないと指摘した。

「C・ロナウドなどの偉大な選手は、ポゼッションにうんざりし、もっと縦に速く、得点可能な良いボールをもっと早くストライカーに入れることを望んでいると感じた。ピルロがその土台から始めるとは思わない。だが、様子をみよう。C・ロナウドはピルロと素晴らしい関係にあると思う。しかし、彼のサッカーに観点に適応し、それを好むかは分からない

御大ファビオ・カペッロも、ピルロが「非常に進んだアイディアを持つ」としたうえで、それがサッリの二の舞となる危険もあると指摘。「自分の手にある素材をしっかり検討し、それと自分の考えや経験に基づいてチームをプレーさせる」ことが大切と助言している。

◆期待せずにはいられない?

しかし、危険なのはユヴェントスだって百も承知だ。リスキーだが期待する――そんな人も多いだろう。『ガゼッタ』のステーファノ・バリジェッリ編集長は「勇敢な選択」と評した。

少なくとも、ピルロは自身がよく知り、自身を信頼する環境でスタートできる。カペッロは、監督として成功する人物に元MFが多いことがアドバンテージだと話している。

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』によると、OBのアレッサンドロ・デル・ピエーロは、『スカイ・スポーツ』で「もちろんビッグサプライズ」と発言。一方で、ピルロには「特別な知的クオリティー」があり、「素晴らしいことをやってみせるはず。そう願っている」とエールを送った。

アレッサンドロ・コスタクルタは、「カリスマとパーソナリティ-がある。インテリジェントな人」とピルロを評価。「本人にもユーヴェにも危険な選択」としつつ、「素晴らしいギャンブル」と話している。

勝てば、周囲がひれ伏すのは間違いない。負ければ、王朝崩壊もあり得る。ある意味、分かりやすい賭けだ。大勝負に打って出たユーヴェの選択は、吉と出るか、凶と出るか。あと1カ月強で早くも始まる新シーズンのセリエAに注目だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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