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新型コロナでセリエAの公平性が問題に…一部延期で混乱、「歪められた」との声も

中村大晃カルチョ・ライター
2019年7月14日、親善試合でのインテルのマロッタCEO(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

2月最後の日、新型コロナウイルスの影響で、セリエA第26節の5試合が延期されることが決まった。無観客開催が決まっていたウディネーゼ対フィオレンティーナ、ミラン対ジェノア、パルマ対スパル、サッスオーロ対ブレッシァ、ユヴェントス対インテルの5試合だ。

代替日は、第36節と最終節の間、ミッドウィークの5月13日。当初予定されていたコッパ・イタリア決勝は、5月20日にずれ込んだ。報道によると、EURO2020に向けて5月18日にはオリンピコをUEFAに明け渡さなければならないため、開催地がサン・シーロに変更される見通しという。

延期理由は様々だ。当局の希望もあった。優勝争いを左右するイタリアダービーという大一番が、スタンド空席の状態で世界に中継されるイメージの損失も指摘されていた。だが、2日前のヨーロッパリーグでインテルが無観客試合を開催していた中での延期への変更は議論を呼んでいる。

◆延期するなら全試合にすべきだった?

確かなのは、今回の延期がリーグ戦に多大なる影響を及ぼしかねないということだ。すでに一部の関係者からは不満の声が上がっている。

29日付イタリア『スカイ・スポーツ』の記事から、関係者たちの発言をピックアップしてみよう。

ファビオ・リヴェラーニ(レッチェ監督)

「イタリアでは自分のタイミングで決めたい人に有利な決定が下されると思う。無意味で非論理的な決定だ。今から5月24日まで、誰もがサッカーの闇の側面を見ることになる。スクデット、残留、欧州出場権など素晴らしい争いがある。このような解決策が利益になるのは少数クラブだけだ」

パウロ・フォンセカ(ローマ監督)

「難しい時期に最善の決定を下そうとしている当局を信頼する。そのうえで、スポーツ面での整合性に関する問題がある。疑うことがないように、リーグの整合性を保証するために、観客ありでもなしでもすべてのチームが試合をするか、すべての試合を延期にするのが正しいと思う」

ロランド・マラン(カリアリ監督)

「リーグ戦において影響を及ぼすかもしれないから、代替日がこれほど遅いのは残念だ。だが、こういった決定に対しては、スポーツマンは一歩引かなければならない」

ジュゼッペ・マロッタ(インテルCEO)

「健康第一なのは当然だが、私は今後のことが心配だ。次節の試合も危機にある。日程は埋まっている。疑問の余地がない、均整の取れた基準の適用が必要だ」

ステーファノ・ピオーリ(ミラン監督)

「評価を下す前にまずは冷静が必要だ。どんな試合よりも市民が重要であり、これで良い。無観客で試合をするのはサッカーの死だ。現実じゃない。練習みたいで、好きじゃない。私は延期するほうが良い。だが、すべてはサポーターと一緒にするべきだ」

ジェンナーロ・ガットゥーゾ(ナポリ監督)

「無観客開催と決めたなら、すべて試合させるべきだ。延期は正しくない。日程を見つけ、すぐに試合する必要があると考える。全部無観客にするか、全部延期するかだ。2カ月後に試合をするのでは価値が異なる。今と2カ月後では同じじゃない」

◆日程が不利になるインテルは怒り

特に、優勝を争う3強の一角インテルは、日程が不利になるとあってフラストレーションを隠さなかった。第25節サンプドリア戦も新型コロナウイルスの影響で延期となった彼らは、コッパ・イタリアとヨーロッパリーグで決勝に勝ち進んだ場合、5月3日から27日までの間に8試合をこなさなければならない。しかも、空き日程がない中で代替日未定のサンプドリア戦も残る。

最終節でアタランタ、その前週にナポリと、もともと厳しい終盤戦だった中で、間にイタリアダービーが組まれ、さらに過密日程…3月1日付『ガゼッタ・デッロ・スポルト』で、マロッタは今後の試合も延期になるならリーグ戦全体が決着しない危機にあると主張。「大会は歪められた」と非難した。

おまけに「ユーヴェが今回の延期を希望」との声もあったため、一部インテリスタの間では「歪められたリーグ」というハッシュタグもトレンドになった。リーグオフィスには「またカルチョーポリか」と書かれた横断幕も現れている。

2006年の不正スキャンダルを示す「カルチョーポリ」という言葉を用いての文句に、ユヴェントスとそのファンは怒るだろう。非常事態を生んだのは、ユーヴェではない。そもそも、カップ戦で決勝まで進めば、ユーヴェも過密日程になることは変わらない。

一部だけを延期するという決定が、疑いを招いた。まさに、前述のようにフォンセカが懸念したとおりの事態だ。そしてそれは、優勝争いだけにとどまらない。リヴェラーニが指摘したように、カップ戦出場権や残留を巡る争いも接戦だからだ。

『スポーツ・メディアセット』のアンケートでは、約1万8000人のユーザーのうち、80%以上が「リーグは歪められた?」の質問に「イエス」と回答している。

◆将来的な18チーム制も検討すべきか

いずれにしても、想定外の非常事態が発生した際に、空き日程にゆとりがなさすぎることがそもそもの問題との声もある。コロナでなくとも、悪天候など試合が延期になる時はあった。

それでも、過密日程の選手に対する悪影響が騒がれて(そして何も変わらずにいて)久しいのは周知のとおりだ。マロッタは、リーグを18チーム制に戻す案を考慮すべきとも訴えている。

ただ、今は当面の課題解決が先決だ。インテルの要請に基づき、3月1日にはリーグの緊急会議が予定されている。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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