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優勝オッズが100倍から3.75倍、ラツィオのスクデットが「禁断の夢」ではない理由

中村大晃カルチョ・ライター
2月16日、セリエA第24節インテル戦で決勝点を挙げたミリンコビッチ=サビッチ(写真:ロイター/アフロ)

レスター・シティのおとぎ話には及ばないかもしれない。だが、ユヴェントスが絶対的な覇権を築いてきたセリエAにおいて、近年まれな熱狂を呼ぶ快進撃だ。

2月16日、ラツィオはインテルとの直接対決で2-1と逆転勝利し、2位に浮上した。残り14試合で首位ユヴェントスとの勝ち点差は1ポイント。3位インテルを含め、三つ巴の優勝争いは白熱のバトルとなっている。

◆優勝候補にふさわしい堂々の数字

ラツィオが最後に敗れたのは、9月25日のインテル戦。クラブレコードの連続無敗記録は、リーグ戦のちょうど半分にあたる19試合に達した。この間の戦績は、15勝4分け。直近4試合で2敗のユーヴェ、1月に3戦連続で引き分けたインテルを凌駕する安定ぶりだ。

『スカイ・スポーツ』が紹介した年明け以降のランキングで、ラツィオは勝ち点20と堂々のトップ。消化が1試合多かったとはいえ、ユーヴェ(勝ち点15)やインテル(同12)との差はそれ以上だ。少なくともここまで、2020年は「ラツィオイヤー」と言える。

55得点(リーグ2位)、21失点(同1位)、得失点差プラス34(同1位)と、攻守両面で屈指の強さを誇り、勝ち点56は昨季比18ポイント増。データサイト『Opta』によると、1998-99シーズンの勝ち点51を上回るクラブ新記録だ。

◆層の薄さをカバーする指揮官と団結力

前線には、国内&欧州の得点ランク首位を快走するチーロ・インモービレがいる。最少失点の守備陣を統率するフランチェスコ・アチェルビは、イタリア有数のDFに成長した。

中盤もアシストランク首位を走る“魔術師”ルイス・アルベルト、インテル戦で決勝点を挙げたセルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチ、豊富な経験でチームを支えるルーカス・レイバを擁する。

マッシモ・マウロが『レプッブリカ』で記したように、中盤は「リーグ最強」との呼び声も高い。ユーヴェやインテルの中盤が苦しんでいるのと対照的だ。

それでも、ラツィオが優勝を争うのは難しいとの見方が強かった。最大の理由は、選手層の薄さにある。だが、それをカバーしているのが指揮官の手腕だ。

『スカイ』によると、11連勝の幕開けとなった9節以降、インザーギが交代に動いてからチームが得点し、獲得した勝ち点は、直近16試合で17ポイントにのぼる。インテル戦でも、ホアキン・コレアとマヌエル・ラッザリを同時投入した6分後に決勝点が生まれた。

選手層うんぬんを超越した団結力も、今のラツィオの武器だ。インテル戦を前に主将セナド・ルリッチが手術に踏み切ったのも、「チームという以上に僕らはファミリー」というミリンコビッチ=サビッチの言葉も、それを裏付ける。

◆信じるべき10の理由

「ユヴェントス最右翼、インテルが対抗馬、ラツィオは穴」との見方が有力なのは変わらない。

それでも、『コッリエレ・デッロ・スポルト』のコラムでアルベルト・ダッラ・パルマ記者は「もう夢ではない」というタイトルをつけた。

ファブリツィオ・ボッカ記者は『レプッブリカ』で「最もフレッシュで、面白く、重圧がないのがラツィオであることは疑いない」と綴っている。

「今のラツィオは心身ともに、本当に素晴らしい偉業を達成するための最高のコンディションにある。こうなれば、優勝を考えるのも禁じられない」

『コッリエレ・デッロ・スポルト』は18日、ラツィオが優勝を信じるべき10の理由を掲げた。

  1. ライバル以上に完成されているスタメンのチーム力
  2. 自信を深め、成功に飢えているメンタリティー
  3. 優勝を求められる重圧がない心理的アドバンテージ
  4. 守備が大事なセリエAで最少失点のディフェンス
  5. カップ戦なく、負担減で準備できるミッドウィーク
  6. ホームでもアウェーでも大勢のファンからサポート
  7. 五分五分の出来事が有利に働く「マジカルイヤー」の吉兆
  8. 負傷後に本調子でないコレアがプラスアルファとなる期待
  9. 競争が嫉妬につながらない団結力とファミリー感
  10. 優秀で幸運なクラウディオ・ロティート会長の存在

評価が確かな例のひとつが、利益が絡むだけにシビアなブックメーカーのオッズだ。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』によると、あるブックメーカーにおけるラツィオ優勝のオッズは、9月のインテル戦後に100倍だったのが、3.75倍まで下がったという。

オッズが5000倍だったレスターには、やはり及ばない。だが、100倍から3.75倍という数字も、ラツィオ優勝の可能性がいかに非現実的だったか、そしていかに今はもう夢物語でないかを表している。

「我々に失うものはない。だが、これからどの試合も厳しくなっていく」とインザーギが口にしたように、これからの重圧はこれまでと異なる。

レスターは、それを乗り越えた。ラツィオは、20年ぶりの歴史的快挙を成し遂げられるだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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