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「アプリもない」ミラン、アーセナル化に賛否両論 「夢がないのに年間シートを買うか?」

中村大晃カルチョ・ライター
2018年8月11日、サンティアゴ・ベルナベウ杯でのマルディーニ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

チャンピオンズリーグ(CL)出場権を獲得したアタランタやインテルと、その切符を逃したミランとの勝ち点差は、たった1ポイントだった。だが、そのわずかな差が、今後を大きく左右する。

巨額の収入が保証されるCL出場を逃したことで、ファイナンシャルフェアプレー(FFP)の問題を抱えるミランは、大型補強ができなくなった。逆に、ジャンルイジ・ドンナルンマやアレッシオ・ロマニョーリ、そしてスソなど、多額の売却益が見込める主力の去就報道が後を絶たない。

◆レジェンドたちが去った理由はクラブの若手路線

イヴァン・ガジディスCEOが狙っているのは、有望な若手を中心としたチームづくりだ。

5月29日付『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙のインタビューで、ガジディスCEOは「2019年というのにまだアプリひとつもない」クラブのモダン化と、財政面の立て直しが今後のビジョンと述べた。

「チームの質を高めて国内外のトップに戻す」ことも重要視している。だが、ガジディスCEOは「トップクラスやかつてそうだった選手ではなく、ミランでトップクラスになれる選手に投資するのが我々の戦略」と、将来有望な若手を重視する中長期的な計画を強調した。

ガジディスCEOの方針は、彼をアーセナルから引き抜いたオーナー、投資会社エリオットの方針だ。レオナルドSDとジェンナーロ・ガットゥーゾ監督が退任した理由は、その方針にあるとみられている。短期的にも一定の結果を残せるチームを望んだ彼らと、クラブの考えが異なったのだ。

クリスティアーノ・ルイウ記者は『Calciomercato.com』で「ミラニスタたちは大きく心配すべきだ。2人のバンディエーラ(旗頭)が船を離れて辞めると決めたなら、それはその船にうまくいかない何かがあるからだ」と、先行きへの不安を表している。

◆「ファンの関心は売上よりチーム」

少なくとも経営面に関しては、ガジディスの手腕はアーセナル時代が証明している。だが、アルベルト・チェルッティ記者は、『Calciomercato.com』で「ファンが関心あるのは、売上ではなくチーム」と指摘した。

同記者は、ガットゥーゾの辞任は、クラブ方針では早期復活が不可能と知り、「醜態をさらしたり、サポーターに幻想を抱かせたくなかった」からだとコメント。そしてそれは「ミランの今後にとって危険な警鐘」と記している。

また、チェルッティ記者は、ローコストでミランを成長させられる若手がいるか疑問を投じ、さらに「優勝や最低でも4位を競う夢を見られないと最初から分かっていて、どれほどのサポーターがシーズンチケットを購入するか」と、売上にも響く恐れがあると懸念した。

さらに、同記者は「いわゆる商業的収入はクラブに役立つが、チームを勝たせるのには不十分」ともコメント。その例として、ガジディスCEOの在任中に、アーセナルがリーグ戦や国際大会で優勝していないと指摘している。

◆一定のステージを保つ必要性も…

アーセン・ヴェンゲルの長期政権に終止符が打たれてから、まだ1年しか経っていないアーセナルが、今後プレミアリーグや国際大会のタイトルを競うようになるかは分からないだろう。

ただ、特に現代では礼賛されやすい若手路線が、必ずしも毎年ハイレベルなステージを戦うチームをつくるわけではないのも事実だ。

例えば、アヤックスは今季のCLでベスト4と躍進したが、過去12年は決勝トーナメントにも進めていなかった。準々決勝で敗れたユヴェントスのアンドレア・アニェッリ会長は、「2年後の彼らに興味がある」と口にしている。

アヤックスに大きな賛辞を寄せたアニェッリだけに、負け惜しみでも、相手を貶めるつもりもなかっただろう。「文化が違う」とも述べており、メガクラブは毎年一定の成績を残す必要があるというのが主旨だ。

実際、定期的に好選手を輩出し、世間から賛辞を浴びるチームでも、それが一過性のものでしかなく、光が当たらない期間が少なくないというパターンもある。

ミラン同様に冬の時代を過ごしていたインテルが、FFP問題で苦しいやり繰りを続けながらも若手主体としなかったのは、そのパターンにはまるのを避けるためだ。そして、インテルはルチアーノ・スパレッティの下で2年連続CL出場という結果を残している。

◆「長期計画なら正しい戦略」との賛成派も

一方で、ガジディス方針に賛成する声もある。GB・オリヴェーロ記者は、『ガゼッタ』電子版の動画記事で「しっかりとした、長続きするプロジェクトならば、正しい戦略」と賛同した。

オリヴェーロ記者は「ミランは毎年、春の終わりに『次はゼロから』と言われるが、もはや頻繁に計画やメンバーを変えるタイミングではない」とコメント。「再出発の土台となるプロジェクトと、適した人材を見出さなければならない」と訴える。

栄光の歴史を持つミランだけに、早期の勝利奪還を諦められることへの抵抗は小さくないはずだ。だが、オリヴェーロ記者は、中長期的な若手重視の方針が、例えばコッパ・イタリア制覇やCL出場権獲得といった「野心」を阻むことはないと強調。一定の競争力は維持できると主張した。

だからこそ、同記者は「アイディアがあれば財政面の問題を乗り越えられ、できるだけ短期間で個々の成長を助けられる」と、新監督には革新的な考えを持つ指導者が必要としている。

◆残されたレジェンドの決断は…

ただ、その前に、ミランはテクニカル部門の人事を解決しなければならない。この要職が決まらなければ、新監督はもちろん、チーム編成も定まらないからだ。

若手を発掘し、飛躍させ、高額売却につなげることに長けたルイス・カンポス(リール)への関心も報じられていたが、ガジディスCEOが『ガゼッタ』で否定。パオロ・マルディーニの就任を望んだ。

レオナルドやガットゥーゾ以上に、ミランの栄光を知るマルディーニは、ガジディスのオファーを受け、エリオットの方針に沿ったチームづくりを進めるのだろうか。

6月2日の『コッリエレ・デッラ・セーラ』紙電子版によると、「予算、決定権、営業利益、そして何より信頼できる人物をスタッフとする可能性の保証を望んでいた」マルディーニがオファーを受けたという。新監督には、今季までサンプドリアを率いたマルコ・ジャンパオロの就任が有力視されている。

マルディーニは現地3日にも回答すると言われており、ミランはそれから来季に向けて本格的な人事を進めていくことになる。かつてと異なる新たな方針の行方と、初めて単独でテクニカル部門で率いるレジェンドの手腕に注目だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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