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コンテ招へいのインテル、約100億円の大勝負に出た10の理由 「ユーヴェへのリベンジ」も?

中村大晃カルチョ・ライター
2011年10月29日、ユヴェントス監督時代にインテルと対戦した際のコンテ(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

インテルが5月31日、アントニオ・コンテの新監督就任を発表した。前日に退任が発表されたルチアーノ・スパレッティの後任だ。コンテはチェルシーを去った2018年夏以来の現場復帰。母国イタリアのクラブを率いるのは、2011年から3年指揮したユヴェントス以来となる。

◆期待に応えられなかったシーズン

スパレッティは就任1年目の昨季、7年ぶりにチームをチャンピオンズリーグ(CL)出場に導き、今季も2年連続で欧州最高峰の舞台への切符を手に入れた。最低限の目標は達成したかたちだ。ただ、満足のシーズンだったとは言い難い

開幕2連勝したCLでは、その後白星ゼロに終わり、特に最終節では敗退確定のPSVと引き分け、16強の座を逃した。代わりにラウンドを突破したトッテナムが決勝に進んだのは、じつに皮肉だ。

王者ユヴェントスが敗退し、戴冠のチャンスだったコッパ・イタリアでも、ラツィオとのPK戦に屈し、ベスト8で姿を消した。エースで主将だったマウロ・イカルディを巡るトラブルを経て、3月にはヨーロッパリーグでも長谷部誠所属のフランクフルトに屈し、ベスト16敗退に終わっている。

PSV戦も、ラツィオ戦も、フランクフルト戦も、最後はすべて本拠地サン・シーロでの試合だった。インテルはことごとくホームでの「テスト」に失敗し、3つの大会を後にすることになったのだ。

リーグ最終戦こそ、そのホームでCL出場を決めることができた。だが、守護神サミル・ハンダノビッチがいなかったら、どうなっていたか分からないような、薄氷を踏むような勝利だった。

実際、リーグ戦の成績(20勝9分け9敗)も、昨季(20勝12分け6敗)を下回っている。得点(66→57)や失点(30→33)も同様だ。それだけで「去年よりダメ」と断じるのは乱暴だが、ユヴェントスの対抗馬とも言われた開幕前の期待に応えられなかったことは確かだ。

筆者作成
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◆莫大なコストの一大オペレーション

それでも、簡単にはスパレッティ解任に踏み切れないはずだった。契約が2021年までとあり、スタッフも含めた報酬支払いという財政面のリスクが大きいからだ。5月31日付『コッリエレ・デッロ・スポルト』紙は、その額が税込み2700万ユーロ(約32億7000万円)にのぼると報じた。

一方で、5月31日付『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙によれば、コンテとは3年契約で年俸が1100万ユーロ強(約13億3000万円、税金・ボーナス別)。ディエゴ・シメオネ、ジョゼップ・グアルディオラ、エルネスト・バルベルデ、ジネディーヌ・ジダンに続く、欧州5位の金額を払うという。

そこに税金やスタッフの報酬も含めれば、スパレッティ解任→コンテ招へいという監督人事は、インテルにとって総額8000万ユーロ(約97億円)にものぼる一大オペレーションなのだ。

◆それでも監督交代に踏み切った理由

そこまでして、なぜ、インテルはコンテを選んだのだろうか。5月30日付『ガゼッタ』で、ダヴィデ・ストッピーニ記者が、10の理由を指摘している。

まずは、「成長過程に理想的」である点。コンテは「勝者の監督」というだけでなく、「ユヴェントスに迫るためにも、その後においても、双方で理想的と評価」されているという。

そして、「ロッカールームを変えられる力」。イカルディの騒動はもちろんのこと、それ以外にも問題視される点があった内部を一変させることがコンテには期待されている。

また、スター不在だったイタリア代表をEURO2016でベスト8に導いたことが示すように、「選手の価値を高められる」ことも選考ポイントになったようだ。また、「コミュニケーションという点で筋が通っている」点も、クラブが重視する項目に合っているという。

もちろん、ジュゼッペ・マロッタCEOの存在も欠かせない。ユヴェントス時代に黄金期の礎を築いたコンビだけに、「長所も欠点もすべてを知っている人間は旅のパートナーに最適」だ。そして、両者の退団経緯から、「ユヴェントスへのリベンジ」も、マロッタとコンテの“再婚”理由となる。

コンテを望んだのは、マロッタだけではない。オーナーのチャン一家も、スパレッティを選ぶ以前の2年前にコンテを狙っていた。そして、ブランドの国外進出を強く願う彼らにとって、代表やチェルシーでも結果を残したコンテの国際的評判は重要だ。

さらに、コンテの情熱的な指揮は「観客のエネルギーを増幅させられる」。1試合平均6万1444人とイタリア最多の観客動員を誇るインテルにとっては、大きな追い風だ。

そのインテリスタの中には、コンテとユヴェントスのつながりを懸念する者も少なくない。インテルはかつて、マルチェッロ・リッピを招へいして失敗しただけに、なおさらだ。だが、そのリッピの前例も「障害ではなく刺激」でしかないという。

◆さらなる支出見込みも…

コンテがリッピのような結末を迎えるか、ユーヴェ時代のように黄金期のサイクルを築けるかは、まだだれにも分からない。

確かなのは、これからインテルがコンテの要望に応じたチームづくりに着手するということだ。例えば、イカルディ放出や、フェデリコ・キエーザ、エディン・ジェコ、ロメル・ルカクといった大物獲得の噂は、連日紙面を賑わせている。

そこにはもちろん、新たなコストが必要だ。特にキエーザやルカクを狙うのなら、フィオレンティーナやマンチェスター・ユナイテッドは多額の移籍金を求めるだろう。

コンテを招いたことで、インテルは大きな勝負に打って出た。だが、マッシミリアーノ・アッレグリ体制に終止符を打った絶対王者から覇権を奪い返せば、世界から大きな賛辞を寄せられるだろう。そのための第一歩となる夏のメルカートからは、目が離せない。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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