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バカヨコと「戦術的停戦」のガットゥーゾ、ミラン最優先の「誠実な指揮官」に近づく審判の時

中村大晃カルチョ・ライター
4月20日パルマ戦でのガットゥーゾ。ミランはCLに出場できるのか(写真:ロイター/アフロ)

パオロ・マルディーニが頭痛薬を飲んでまで練習に励む姿を目にし、アレッサンドロ・コスタクルタにはヒゲを剃った洗面所の片づけがなってないと叱られた。ジェンナーロ・ガットゥーゾは、そういうところから「勝者のメンタリティー」を教わったと明かしている。

時代は変わった。

「緑が通話、赤は切断」以外、スマートフォンのことを知らないガットゥーゾが指導するのは、SNSを駆使する若者たちだ。静かなロッカールームで試合に集中することを望んでも、現代っ子には馴染まない。昔ながらの音楽はウケないから、ラップやヒップホップを流すことも受け入れた。

ただ、譲れないものもある。個ではなく集団を優先する姿勢も、そのひとつだ。

◆貴重な勝利で内紛騒動

5月6日のセリエA第35節、ミランはボローニャに2-1と勝利した。7試合で1勝と不振にあえいでいただけに、チャンピオンズリーグ(CL)出場を目指すミランにとって貴重な1勝だ。

だが、ミラニスタは手放しで喜べなかっただろう。ルーカス・ビグリアが負傷し、ルーカス・パケタは退場。そして、ガットゥーゾとティエムエ・バカヨコの口論が大きな注目を集めたからだ。

ガットゥーゾは、ビグリアの代わりに起用しようとしたバカヨコが、アップに時間をかけ過ぎたと説明した。だが、選手はSNSでこれを否定し、出場拒否疑惑を一蹴。指揮官への暴言も、ガットゥーゾが先に口にしたと示唆している。

最近のバカヨコは、ラツィオ戦でのフランチェスコ・アチェルビとの騒動、チームの懲罰合宿につながった練習遅刻と、問題が相次いでいた。それだけに、周囲からの風当たりは強い。

アルベルト・チェルッティ記者は『Calciomercato.com』で「別れは不可避。最高級でなく、何よりもプロフェッショナルでない選手を買い取るのに3500万ユーロ(約43億円)を払うのはバカげている」と、チェルシーからレンタル移籍中のバカヨコをミランが買い取ることはないと記した。

OBのフルヴィオ・コッロヴァーティも、『Milannews.it』で「どんな選択でも監督への敬意が必要」とコメント。「ここ2カ月のバカヨコなら、ミランは彼がいなくてもやれる」と、やはり買い取る必要はないとの見解を示している。

◆謝罪なしで手打ち?

ただ、仮にミランが買い取らないと決めたとしても、バカヨコが残り3試合の貴重な戦力であることは変わらない。ビグリア負傷に加え、パケタも3試合の出場停止を科されたのだからなおさらだ。

勝ち点59の5位ミランは、ローマと並んで3ポイント差の4位アタランタを追っている。残り3試合の対戦相手は、不振のフィオレンティーナと降格決定のフロジノーネ、残留確定のスパル。直接対決の成績でアタランタとローマを上回るミランは、CLへの切符をあきらめていない

だからこそ、ガットゥーゾとバカヨコの口論が尾を引く事態だけは避けたいところだ。

地元メディアによると、2人は7日の練習前に話し合った。謝罪はなかったという。だが、両者はこの件を終わらせることにしたようだ。バカヨコは次節でスタメンに名を連ねると報じられている

『コッリエレ・デッラ・セーラ』紙電子版は、「戦術的停戦は最善の解決策」と表現した。

◆「優先すべきは、ミラン」

規律を重視する指揮官としては、本意ではないかもしれない。だが、ガットゥーゾが最優先に考えているのはミランの利益だ。ボローニャ戦後の会見での一幕からも、その姿勢がうかがえる。

騒動を一通り説明したガットゥーゾは、バカヨコに関する再度の質問を遮り、ピッチ外の騒動に振り回されず、「サッカーのことを考えなければいけない」と口にした。「栄光あるユニフォームを着ているから」だ。

優先すべきは、ミランであり、我々に給料を払う者であり、(ボローニャ戦に)来てくれた5万人のサポーターであって、エゴではない

記者を黙らせたガットゥ-ゾの目からは、ミラン最優先の信念が感じられないだろうか。

◆冒険が終わりに近づいても…

最終順位にかかわらず、ガットゥーゾは今季で退任するとの見方は後を絶たない。だが、愛するクラブにかつての栄光を取り戻してほしいと願う指揮官は、残り3試合でCLへの道を全力で追い求めるに違いない。

モニカ・コロンボ記者は、『コッリエレ・デッラ・セーラ』紙でガットゥーゾを「すべてにおいてチームを優先する誠実な指揮官」と評している。

「ベンチでの冒険は終わりに近づいているかもしれない。だが、リーノ(ガットゥーゾ)が自らの役割をとことん果たしていないと言うことはできない」

現在のミランに、「勝者のメンタリティー」はない。だが、それを伝えようとする指揮官はいる。その想いは結果に結びつくのか。審判の時が、近づいている。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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